付加価値税に2015年1月から第2軽減税率を導入−税率の一本化は見送り−

(チェコ)

プラハ事務所

2014年12月11日

付加価値税(VAT)改正法が11月19日に公布され、2015年1月から一部の商品・サービスを対象に、10%の新たな軽減税率が適用される。現行の基本税率は21%、軽減税率15%。また、2016年1月から軽減税率を廃止して一律17.5%の税率が適用される予定だったが、今回の法改正に伴い、税率の一本化は見送られることになった。

<与党連立協定に基づき導入>
現行のVAT率は2013年1月1日に改正されたもので、基本税率21%、軽減税率15%と設定されている(2013年1月16日記事参照)。今回の法改正により10%の第2軽減税率が導入され、表1の乳幼児用食品、医薬品、書籍に適用されることになる。

表1VAT第2軽減税率(10%)対象商品一覧

また、現行法では2016年1月に軽減税率を廃止し、一律17.5%に統一されることが定められていたが、今回の改正法によってこの税率の一本化も中止された。

VATの第2軽減税率導入は、チェコ社会民主党(CSSD)、ANO 2011(ANO)、キリスト教民主連盟=チェコ人民党(KDU=CSL)の3党連立与党が2014年1月に締結した連立協定に基づき定められていた。対象品目に関しても、「医薬品、書籍、乳児食など」と明記されており、これら商品の価格引き下げが目的とされている。

内閣の予測によると、これらの品目の税率引き下げによる2015年の税負担軽減額は総計41億5,000万コルナ(約224億円、1コルナ=約5.4円)とされている。

<専門家は納税手続きの複雑化を危惧>
これに対して、野党であるTOP 09のミロスラフ・カロウセック前財務相は、一律に17.5%の税率を導入すれば、国民の税負担の軽減額は、第2軽減税率導入による効果をはるかに超える240億コルナに上ると主張し、「政府の税制案は非効率的」と改正に反対を表明していた。

専門家や企業は、頻繁な税率変更は全体として企業活動の大きな障害になっていると主張している。1993年にチェコ共和国として独立後、VATを導入。税率変更は今回で7回目となる(表2参照)。

表2チェコのVAT率変遷

監査・会計事務所マザーズのパートナーのパベル・クライン氏は「一律税率の導入が議論されているところに、新たな税率を加えることは、場当たり的な措置」として、「印刷物のうち、どれが書籍に当たるのか、食品のうち、どれが乳児食に当たるのか、などについて業者が個々に検討していくことになる。脱税などが新たに生じてくることにもつながり得る」と批判する。

大手会計事務所デロイトの税務担当シニアマネジャー、ペトル・ネウスフル氏は、内閣が対象品目価格引き下げを目標に掲げていることに対して、「VATの引き下げ分が、そのまま消費者価格に反映されないことは、これまでの経験から明らかだ。VATは価格を定める一要因にすぎない。税率変更により、企業でこれに対応するためのコストがかかってくるため、VAT引き下げは必ずしも商品価格の引き下げには直結しない」と指摘する。

大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパースで間接税を担当するマルティン・デイビス氏も「第2軽減率導入により、企業のみならず、国の行政コストも増大するだろう」と指摘している。

こうした指摘に対して、アンドレイ・バビシュ財務相は「第2軽減税率導入が納税事務手続きを複雑にするものであるという主張には私も同感だ」と認めている。「VAT税率が一律であることに越したことはない。第3の税率導入が理想的でないことは承知している。しかし、われわれは一律のVAT導入、あるいは軽減税率の5%引き下げの準備はまだできていない。2016年に税務、税関機関のデータが整ったところで議論を開始したいと思う」として、2016年以降の変更の可能性を示唆した。

(中川圭子)

(チェコ)

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