タイ人名義を借用した外資参入を規制する方針−外国人事業法改正の動き(1)−

(タイ)

バンコク事務所

2014年12月02日

外資の規制対象事業や参入条件などを定めた外国人事業法の改正に向け、政府内で協議が進んでいる。現行の外国人事業法では、外資比率が50%以上の企業は、同法の定義する「外国人」として扱われ、同法の規制の対象となる。今回の議論は、タイ人名義を借用し、同法の適用を免れる行為に対する規制強化が目的の1つだ。また現行では、株式当たり議決権数の少ない優先株の発行などを通じ、実質的な経営権を外国人が握るなどの柔軟な運用が認められている。法改正により、こうした運用が認められなくなる可能性も指摘されている。商務省が実施した改正案に対する公聴会(パブリックヒアリング)で明らかとなった改正案のポイントと合わせ、2回に分けて報告する。

<サービス業では外資の出資比率は50%未満に制限>
タイでは、外国人事業法(1999年改正、2000年3月施行)に基づき、規制業種を3種類43業種のリストで指定し、それらの業種への外国企業(外国資本50%以上)の参入を規制している。現状において、原則全てのサービス業は、国内産業の競争力が脆弱(ぜいじゃく)なことを理由に、外国企業(外国人)参入が規制されている。そのため、外資が製造業以外の業種で進出する場合には、原則、外資の出資比率が50%未満に制限される。同上限を超える場合には商務省事業発展局の局長から認可を受け、事業免許を取得することが求められる。

今回の外国人事業法の改正に向けた動きは、商務省が10月末、関係省庁の代表を招いた改正案の説明会を開催したことに端を発している。その後、同説明会の実施が国内メディアなどによって一斉に報じられたことにより、臆測を含めた改正案の関連情報が交錯し、国内で大きな論争を呼ぶ事態となった。

<名義借り取り締まる有効な手段>
商務省事業発展局のポンプン局長は、当地メディアのインタビューに対し、外国人事業法改正の大きな理由の1つに、外国人によるタイ人の「名義借り」が頻繁に利用されている事態に対応する必要性を強調している。すなわち、タイ人の名義を借りてタイ国籍者に株を持たせ、実質的には外国人が全額出資し、規制対象の事業を営むケースをいかに規制するかという点だ。現行の外国人事業法の第36条には、「タイ人が名義を貸すことにより、外資規制の適用を免れる行為の禁止」が規定されているものの、運用上の名義借りを取り締まる有効な手段が講じられていないとの問題意識が背景にあると考えられる。

そのため、今回議論されている外国人事業法の改正の大きなポイントは、名義借りを運用上においても厳しく規制する、という政府方針がどのようなかたちで改正案に反映されるか、という点にある。

また、現行の外国人事業法の定める出資比率は、あくまで株式数または株式の価値基準で判断され、議決権比率は勘案されていない。そのため、タイ側パートナーに優先株を発行し、発行株式数ではタイ側に過半数を持たせながら、1株当たり議決権を少なく設定することにより、実質的な経営権を外資側が握るという進出形態(以下、優先株スキーム)が採用されていることが少なくない(2014年1月16日記事参照)

日本企業を含む外国企業にとっては、上述の優先株スキームのような出資形態が、改正によって規制の対象になるのか否かという点が議論を呼んでいる。また現行では特に規定されていない外国人取締役の人数制限などの新たな規制が盛り込まれる可能性があるのか、という点も大きな関心となっている。

加えて、タイでは、タイ人・タイ法人が過半数を出資する法人の子会社は、タイ法人と見なされる。そのため、タイ国内に数多く展開する卸売業、法律、会計などのサービス業では、日本企業が50%未満を出資し、残る50%超については在タイ日系合弁企業(タイ資本が過半を出資)からの出資を受けることで、タイ法人としての合弁事業会社を設立する手法が取られることも多い。つまり、タイの子会社経由での出資を通じ、実質持ち株比率では外国資本が過半数を握る進出形態(以下、間接出資スキーム)だ。現行の改正案では、間接出資スキームに対する規制を強化する方針は示されていないものの、今回の改正を機に、同スキームへの規制導入を図る動きが出る可能性を懸念する声が高まっている。

<過去に同様の改正案が取り下げられた経緯>
なお、今回の外国人事業法の改正と同様の動きは、2006〜2007年の臨時政権下でも議論され、改正法案が暫定国会に提出されながら、最終的に取り下げられた経緯がある。当時は、国内の所定手続きを経て第3修正案までが公表されながら、国内産業界を含めた意見調整が難航したため、改正案見直しを理由に取り下げられ、最終的には廃案に至っている。今回の改正案も、公聴会などを通じ産業界からの意見集約プロセスを経た上で国会に提出することとなっている。

(伊藤博敏、長谷塲純一郎)

(タイ)

議決権比率を規制適用の基準に−外国人事業法改正の動き(2)−

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