経済統合のメリットを最大化する貿易投資政策導入を訴え−「東アジアの経済統合」をテーマにシンポジウム開催(2)−

(ASEAN、インド)

ニューデリー事務所・バンコク事務所

2014年11月27日

東アジアの経済統合をテーマとするシンポジウムに参加したジェトロの石毛博行理事長は、地域経済統合が国内産業にもたらすメリットを、地域における統一的な貿易投資ルールの導入、部材調達の選択肢の広がりと供給機会の増加、サービス輸出機会の拡大などの観点から強調し、インド政府に対して、そのメリットを最大化する貿易投資政策の導入を訴えた。また効率的なサプライチェーンの構築による輸出拡大の取り組みにおいては、日本とインドの企業間協力の余地が大きい、とのメッセージを伝えた。

<製造・輸出ハブとして高いポテンシャル>
基調講演に登壇した石毛理事長は最初のメッセージとして、「アジアでは中国、日本、ASEAN、インドが4極として、製造業をダイナミックに牽引する役割が期待されている。一方、貿易保護主義的な政策によって、これらのパワーバランスが崩れる懸念が生じている。サプライチェーンの発展に即した貿易政策を発信する必要がある」との問題意識を伝えた。その上で、本シンポジウムを通じてインド政府・産業界に最も伝えたいメッセージとして、(1)中国、ASEAN、インドがともに力強く成長し、地域全体のサプライチェーンが大きく変容する中、拡大するビジネス機会を失うべきではない、(2)インドはアジア地域のサプライチェーンに組み込まれることにより、国内製造業を飛躍的に拡大させる可能性を秘めている、(3)サプライチェーンに参画するための有効な手段として地域経済統合をうまく活用すべきだ、という3点を強調した。

石毛理事長はまた、製造・輸出ハブとしてインドが極めて高いポテンシャルを有していることを強調。その理由として、(1)一定レベルの地場裾野産業の存在、(2)若くて豊富な労働力、(3)中東・アフリカなどの西側市場への近接する地理的メリット、の3点を挙げた。さらに、インドが中国やASEANなどを中心とした東アジアにも近接しているという利点にも触れ、「東アジアでは地域経済統合をベースとして、部品、原材料のサプライチェーンネットワークが構築されている。しかし、同地域の中間財貿易に占めるインドの構成比は、現状において極めて低いのが実態だ。インドがこのサプライチェーンに組み込まれれば、この貿易状況は大きく変化する可能性がある」との見解を示した。

ジェトロ石毛理事長の基調講演

<RCEPがもたらすメリットを強調>
インドが交渉に参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)については、(1)統一した貿易投資ルールの導入により、東アジアのサプライチェーン構築を加速する枠組みであること、(2)アジア地域の経済統合と繁栄の試金石であること、(3)インドにとっては、東アジア地域からの最適な部品調達を可能にすると同時に、素材、部品、完成品の供給機会も増加させる機会となること、さらに、(4)サプライチェーンを支えるサービス分野の自由化を通じ、インドが優位性を持つIT関連サービスなどの輸出機会の拡大をもたらすことから、この枠組みにインドが積極的に参画することのメリットを強調した。

最後に石毛理事長は、「企業レベルにおいては、いかに効率的なサプライチェーンを構築できるかが製品の競争力を大きく左右する状況の下、日印間の協力の余地は極めて大きい」との考えを示した。その上で、「技術力を持った日本企業を誘致し、インドの競争力を高めることで、製造業ハブが実現する。実際にインドを輸出拠点として活用しようとする日系企業も増加しており、今後ますます日系企業による輸出の取り組みは強化される。こうした動きをさらに加速するのが地域経済統合であり、インドはそのメリットを最大化する貿易投資政策を実行に移すべきだ」と述べ、そのためにはジェトロも最大限のサポートを行う用意があることを伝えた。

<物流コスト削減と税制改革が競争力強化のカギ>
基調講演に続いて行われたパネルディスカッションの第1セッションは、「インド製造業の輸出志向の強化〜そのカギとなる要素〜」をテーマに、デリー・ムンバイ産業大動脈開発公社(DMICDC)社長のタリーン・クマール氏、タタ・サービス経済顧問のシッダールタ・ロイ氏、ボストン・コンサルティング・グループ・インド社長のアリンダム・バッタチャルヤ氏がパネリストとして登壇した。この中で、インド製造業がアジア地域と世界のグローバルバリューチェーン(GVC)に参画し、輸出を拡大させるための具体的な政策の方向性や、アクションプランについて建設的な意見交換が行われた。

ロイ氏はインドの産業界を代表する立場から、ソフト・ハード両面のインフラ整備による物流コストやエネルギーコストの削減、各種許認可取得手続きの迅速化、物品・サービス税(GST)の導入による税体系の簡素化、特別経済区(SEZ)政策改革、労働法の改正、土地収用に係る制度整備などの課題を挙げた。とりわけ物流コストの削減については、「自動車や電機・電子産業などの産業分野では、製造コストに占める物流費の構成比が、国際標準では3〜4%とされている。これに対し、インドでは13〜14%程度を見込む必要がある」として、物流状況の改善が製造業の競争力強化には不可欠だと強調した。

加えて、現行の複雑な間接税体系もビジネスコストの増大を招いていると指摘。「国内で製品を流通させる際の間接税が、タックス・オン・タックスとして相乗的に賦課される結果、本来ならば27%の税務コストが33%に膨れ上がる構造となっている。GSTの導入に際しては、税率のみならず、仕組み全体として税務コストを引き下げる効果があるのかを見極める必要がある」として、税務コスト削減につながる間接税の改正が必要だと政府に訴えた。

またロイ氏は、自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の推進は製造業振興に重要な要素だとしながらも、「インドの貿易品目別の比較優位、劣位をしっかり分析し、それに対応した適切な措置を取る必要がある。センシティブな品目に対しては、セーフガードの検討などを行うことで国内産業への影響を抑制し、経済連携による利益を享受できるようにしなければならない」と、交渉に臨む政府に対して産業界への配慮を求めた。

バッタチャルヤ社長は、インドの製造業の発展に重要な要素として、外国直接投資(FDI)の受け入れ拡大やアジア地域との経済統合などに加え、技術面でのイノベーションの推進の重要性を挙げた。中長期的な見地から、「インドの製造業はGVCの中で、技術レベルの現状の立ち位置を再認識し、エンジニアリングや研究開発(R&D)部門により注力していく必要がある。イノベーションの推進による付加価値の増加により、グローバルサプライチェーンにおけるインドの活用が現実味を帯びてくるだろう」との見方を示した。

第1セッションの様子

ビジネス短信 5474154b923d8