経済連携交渉への参加は不可欠との認識を共有−「東アジアの経済統合」をテーマにシンポジウム開催(1)−

(ASEAN、インド)

ニューデリー事務所・バンコク事務所

2014年11月26日

東アジアの経済統合をテーマとするシンポジウムが、ジェトロとインド工業連盟(CII)の共催により11月18日にデリーで開催された。インド商工省の商業担当・工業担当の両次官に加え、日系企業を含む現地有力企業、有識者などが参加し、交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をはじめとする地域経済統合がインド製造業の成長に果たす役割などについて、意見交換が行われた。国内で初めてとなるRCEP交渉の第6回会合を12月初旬に控える中、政府と産業界は地域経済統合への参画を前向きに捉えつつ、製造業の発展に向けた制度改革の必要性などを訴えた。シンポジウムの内容を3回に分けて報告する。

<国内ビジネスの円滑化措置に期待>
「地域貿易協定がもたらすメリット〜製造業の成長がカギ〜」(Benefitting from Regional Trade Agreements/India’s Manufacturing Growth Holds Key)と題して開催されたシンポジウムでは、商工省のラジーブ・ケール商務局次官、アミタブ・カント産業政策振興局次官、ジェトロの石毛博行理事長などが参加した冒頭セッションに続き、現地企業・有識者などが参加する3部構成のパネルディスカッションが行われた。同テーマに対する現地での関心の高さから、地場企業や現地日系企業を中心に多くの出席者があり、定員200人の会場は満席となった。

冒頭セッションの歓迎あいさつでは、元CII会長のスニル・カント・ムンジャル氏(ヒーロー・モトコープ共同社長)が「メーク・イン・インディア」のスローガンの下でインドが目指す製造業の成長には、グローバルバリューチェーン(GVC)への参画が不可欠であり、そのための手段として、周辺国との自由貿易協定(FTA)ネットワークの構築・強化が有効だとの見解を示した。同時に、現行の複雑な税制システムの簡素化や労働法の改正など国内の制度改革の重要性を訴えた。

ムンジャル氏は「多国籍企業は利益を最大化するための最適地生産を進めており、生産ネットワークは分散化している。在インド企業がGVCに組み込まれるには、インドがほかの経済圏と統合することが極めて重要」として、RCEPを含めた東アジア地域との連携強化、また中東や欧州、アフリカなどの西側地域とも連携を強化する必要があると述べた。その一方、「既存のFTAでは幾つかの産業分野で十分な便益を得られていない実態があるのも事実」とした上で、「将来のFTAについては、雇用創出や製造業の繁栄などの観点から、インドが競争力を保てるよう、より選択的な内容にすることが重要だ。現在はその内容について入念な探究・分析をする時期にある」と述べ、政府に対して民間企業の利益を尊重した慎重な対応を求めた。

<国内製造業に経済統合への備えを呼び掛け>
商工省商務局のケール次官は冒頭スピーチで、シンポジウムのテーマであるASEAN・東アジア地域との経済的統合は、いまインドが議論すべき非常に重要なテーマだとし、「インドにとって、地域経済統合への参画は、望ましいものではなく不可欠なものだ」と強調した。また交渉中のRCEPについては、「RCEPの枠組みに加わらなければ、深化するGVCから取り残されることになる。国内製造業はRCEPを通じた経済統合の深化に十分な備えをし、メリットを享受すべきだ」と述べた。

同時に、交渉に臨むインドの立場として、(1)RCEP交渉においては、インドを含む低所得国に配慮した優遇的な扱いが付与される必要があること、(2)物品貿易において自由化の便益を受けられるのは輸出競争力の高い国であり、(インドのような)競争力の低い国には救済措置が設けられるべきであること、(3)原産地規則は交渉参加国の産業別の競争力や比較優位性などを十分に考慮し、細かく慎重に検討・設定する必要があること、などを訴えた。また、国内の産業界に配慮し、「これまでインドが締結したFTAについては、必ずしも意図した効果をもたらしておらず、産業界にとって望ましくない状況が生じたことも事実だ。貿易相手国とともに新たな地域経済統合の枠組みの在り方を考える際に、これらの経験を生かしていかなければならない」と強調した。

ケール次官はまた、サービス貿易自由化の議論の重要性を指摘した。「貿易自由化の議論は物品貿易ばかりに焦点が当てられる傾向があるが、物品貿易の自由化のみを単独で議論することは適切でない。製造業を支えるサービス産業分野やロジスティクス分野などの自由化は関税削減の議論とは切り離せない。交渉において、サービスも同時にバランスよく議論を進める必要がある」として、インドが強みを有するサービス分野の自由化交渉を積極的に進める考えを示した。

<インド側の自由化には慎重な姿勢>
続いて登壇した商務省産業政策振興局のカント次官は、モディ首相の提唱する「メーク・イン・インディア」政策の実行に向け、政府が既に350億ルピー(約665億円、1ルピー=約1.9円)の予算措置を講じ、インフラ開発や多方面からの国内改革に取り組んでいることを紹介。今後の方針として、「インドの製造業は年率14〜15%のペースで成長し、雇用を創出しなければならない。製造業の持続的成長の柱となる輸出拡大のためには、GVCに積極参入することが必要だ」と強調した。

また、GVCに組み込まれるためには、「外資規制の緩和に加え、製造業の成長の課題である行政手続きの簡素化、ロジスティクス関連のインフラ整備、産業回廊の整備、産業クラスターの形成など、さまざまな分野で環境整備のための改革に着手しなければならない」として、政府として課題解決の取り組みを加速することを約束した。

アジアにおける広域FTAについては、「今日、製造業はGVCへ組み込まれることなしには成長せず、インドはその一角を成す大きな潜在力を秘めている。その観点から進展する地域経済連携の枠組みへの参加は必須だ」として、RCEPをはじめとする枠組みへ参加することの意義について商務局と同様の立場だとした。そして「RCEPを通じてインドにどのようなメリットがもたらされるかについては、議論の余地がある。インドがどの分野、産業に焦点を当てていくかは引き続き入念な検討が必要だ」と述べ、これらの枠組みでのインドとしての自由化のコミットには慎重な姿勢も示した。

カント次官はまた、「インド市場に参入するカギはインドで製造すること。日本企業が巨大なインド市場で競争力を持つためには、インドにコアな製造拠点を移転させる必要がある。スズキやホンダの事例が示すとおり、インドの製造拠点をベースに輸出市場を開拓することも可能だ」として、インド国内での製造を呼び掛けた。また、インドへの進出においては「インド企業との連携が有効な選択肢だ」とも強調した。

(筒井源三、伊藤博敏)

(インド・ASEAN・アジア)

経済統合のメリットを最大化する貿易投資政策導入を訴え−「東アジアの経済統合」をテーマにシンポジウム開催(2)−
FTA/EPAの活用は輸出競争力の強化に寄与−「東アジアの経済統合」をテーマにシンポジウム開催(3)−

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