連邦経済相、武器輸出の新原則を発表−輸出許可の透明化を進め、人権擁護のためクルド人勢力への武器供与に理解求める−

(ドイツ)

ベルリン事務所

2014年11月06日

ジグマール・ガブリエル副首相兼経済・エネルギー相は10月8日の講演で、北大西洋条約機構(NATO)やEUの加盟国など以外へは人権の擁護に主眼を置いた武器輸出の審査を行い、そのプロセスを許可後2週間で公開すると述べた。また、武器輸出における外交・安全保障政策と防衛産業の振興を両立させるため、国内防衛産業の再編の必要性や欧州の武器開発プログラムへの積極的な参加、防衛産業支援プログラムなどを含む10項目の提案をした。

<ドイツは世界3位の武器輸出国>
ガブリエル経済・エネルギー相は10月8日、ベルリンのドイツ外交評議会で講演を行い、政府の新しい武器輸出原則に関する方針を述べた。ドイツは、第二次世界大戦での敗戦後、日本と同様に自国の武器輸出を厳しく制限してきたものの、2013年のドイツの武器・装備品輸出額は58億4,600万ユーロに上り、米国、ロシアに次ぐ世界3位の武器輸出国だ。

EUが「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」(以下、「イスラム国」)に対抗するイラクのクルド人勢力に武器を供与して支援することを決定し、ドイツもEU加盟国など以外の国への武器供与への道を開くために新たな武器輸出管理の原則を確立することが求められていた。このような状況の下、貿易管理を担当するガブリエル経済・エネルギー相は、これまでと今後のドイツの武器輸出政策について説明し、同盟国以外への武器供与のための新たな原則と、10項目の重点事項を提案した。ガブリエル経済・エネルギー相の講演の要点は以下のとおり。

<武器輸出は外交・安全保障政策に>
武器輸出管理政策においては、産業政策的な観点よりも、ドイツの安全保障、外交政策の観点が優先される。ドイツの安全保障政策は、欧州の共通外交安全保障政策の枠内にあるが、武器輸出の問題は共通安全保障政策から切り離して論じることも可能だ。

ドイツの武器輸出規制は、連邦基本法、武器管理法、対外経済法などで定められている。また、2000年に策定された政策原則に従って輸出国を区別している。この原則は現在でも有効だ。しかし、政策原則が恣意(しい)的にゆがめられているのではないかとの疑念を過去には招いたこともあり、新たに連邦安全保障委員会の輸出許可のプロセスなどを許可後2週間で公開することとするなど、透明性の確保に努めている。

<武器輸出許可の判断基準を提示>
経済・エネルギー省は産業振興がその役割であり、牽制を働かすために外務省の役割が重要だ。武器輸出政策にこれまで以上に外相の関与を強め、外交政策との整合性の確保を容易にすべきか否かを検討すべきだ。

さまざまな紛争が多発する中東圏への武器輸出は、紛争の深刻化を招きかねないことから、これまで慎重に扱われてきていた。しかし、現在クルド人勢力への武器供与が避け難くなってきている。そのため、武器輸出許可の判断のため、以下の対象国や対象製品に関する基準に基づいて、将来的にケース・バイ・ケースで判断を行うべきだ。

「対象国の検討」の基準については、「政府による反体制派の弾圧に輸出した武器が用いられることがないか、対象国の内部事情を評価」「対象国が他国を侵略するために輸出した武器が用いられることがないか、対象国の外交姿勢・安定性を評価」「対象国が他の国々やテロリストからの標的になる可能性がないか、対象国を取り巻く安全保障政策的状況の評価」がある。

「対象製品の検討」の基準として、「対象国の政情が不安定な場合は、装備品に高い耐久性が必要になる(高耐久性品の場合は注意が必要)」「攻撃用、防衛用、国境警備用あるいは弾圧用か、対象装備品の使用範囲を分析」「エンドユーザーと対象装備品の管理体制を確認」「内戦の手段となり得る小型兵器は、正規軍向けであることが明らかな艦艇の輸出などよりもドイツ国内で批判を招く恐れがあるため、ドイツ国内の世論の支持も重要」を挙げることができる。

また、国連小型武器行動計画や武器貿易条約(ATT)などの国際規範を考慮する。そうすることによって、輸出の「包括的許可」が下されるのを防がねばならない。

<NATOなど国際的枠組みと連携>
第二次世界大戦と冷戦の終結を経験し、欧州の一員であるドイツの進むべき道としては、a.ドイツの武器輸出の枠組みと方向性は、NATOなどの国際的な協力体制と相補的な関係にある、b.武器・装備品の開発能力、国際競争力と国際的な連携を維持することは、ドイツの安全保障上の利益だ、の2点を挙げることができる。

ドイツの軍事費を抑制するために、これまで以上に欧州域内での武器の共同開発、欧州共同軍事政策を推進しなければならない。その結果、統帥権の一部を欧州共同で管理する可能性もあり得る。ドイツとフランスは武器輸出政策が常に一致しているわけではないが、安易な妥協をせず、時間をかけて合意を形成すべきだ。なおドイツは、経済的な理由から武器技術の輸出の積極的な拡大を図ることはない。基本的人権の保護に資する特殊な場合のみに武器輸出は正当化され、クルド人勢力への武器供与は「イスラム国」のテロからの自衛として正当化される。

<安全保障と防衛産業強化の両立を図る>
また、外交・安全保障政策と防衛産業の支援を両立させるために、以下10項目を提唱する。

(1)ドイツの防衛産業のコアコンピタンス(得意分野)を連邦国防省のみならず、連邦議会と連邦政府の議論の下で確立。
(2)次期の連邦国防調達の中期計画の速やかな策定。
(3)国内防衛産業の統合・再編による国際競争力の強化。
(4)欧州全体での装備品の開発計画の統合・再編。
(5)防衛産業の欧州市場への関与の強化。特に欧州理事会が重視している空中給油、サイバー防衛、無人飛行システム、衛星通信の欧州共同プロジェクトへの参画。
(6)EU、NATOおよび欧州の戦略的パートナーであるインド、ブラジルへの武器輸出への政府支援の強化。
(7)民間警備業における市場開拓。防災分野、スポーツ大会などの保安警備分野、運輸物流の保安分野、サイバーセキュリティー分野などで成長が期待される。
(8)研究開発と技術革新の推進。経済・エネルギー省は、教育研究省、内務省、国防省との密接な連携の下、2015年に新たな防衛産業向け研究開発プログラムを1,000万ユーロの予算で実施する。
(9)中小企業支援の強化。連邦軍などの調達に中小企業の参入を拡大するため、調達手続きの簡素化と調達情報の積極的な提供を行う。また、防衛分野における中小企業の経営状況の把握に努める。
(10)防衛産業、政策担当者、外交専門家、連邦軍、学者、批判的な社会グループからなる社会政策的な対話のためのプラットホームの構築。

(木本裕司)

(ドイツ)

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