化学材料と非金属鉱物製品が急増、全体の伸びを牽引−2014年上半期の対中直接投資動向(13)−

(台湾、中国)

中国北アジア課

2014年11月06日

台湾の2014年上半期の対中直接投資額(認可ベース)は、前年同期比7.7%増の54億6,800万ドルとなった。地域別では、沿海部の人件費の高騰などにより内陸部への投資が引き続き増加した。業種別では2010年の対中金融規制の緩和以降、高い伸びを示していた金融・保険分野の投資が減少に転じたが、化学材料、非金属鉱物製品などが牽引したことで、投資総額は増加した。

<件数は減少するも金額は増加>
2014年上半期の対中直接投資(認可ベース)は、件数が前年同期比9.0%減の253件(事後認可分含む、以下同じ)、金額が7.7%増の54億6,800万ドルとなった(表1参照)。件数の減少は、全体の約2割を占める小売り・卸売りが30.9%減となったことが影響した。金額が増加した理由は、全体の約1割を占める化学材料が3.8倍、非金属鉱物製品が5.6倍と大幅に伸びたためだ。

表1台湾の対中直接投資(認可ベース)

台湾企業の対外直接投資総額に占める中国のシェアは64.3%と最大で、2013年通年(63.7%)からほぼ横ばいだった(図参照)。中国以外の国・地域への投資については、英国(シェア21.4%)が前年同期比で約63倍の6億4,735万ドルだった。英国向けが急速に伸びたのは、生命保険会社の国泰人寿保険が英国で不動産投資会社(CATHAY LONDON REAL ESTATE)を設立するために6億ドルを超える投資が承認されたからだ。次いで、日本(21.3%)、香港(11.6%)の順となった。日本向け投資は前年同期比で約4.3倍に急増した。日本向け投資額の約8割は、中国信託商業銀行が東京スター銀行の全株式を取得した案件だった。

台湾の対中直接投資(認可ベース)と対外直接投資に占める対中投資のシェアの推移

<金融・保険が一転してマイナスに>
業種別に台湾の対中投資額をみると、金融・保険分野が9億4,500万ドルで依然最大だったものの、前年同期比31.6%減だった(表2参照)。次いで、小売り・卸売りが6億5,600万ドル(33.1%増)、化学材料が6億ドル(3.8倍)、非金属鉱物製品が5億6,800万ドル(5.6倍)だった。前年同期比減だった業種は、電子部品(13.2%減)、パソコン・電子製品・光学製品(39.3%減)で、これら業種は2013年に続く2桁減となった。

2010年をピークに金融・保険分野以外の投資額が減少傾向にあったが、2014年上半期に化学材料と非金属鉱物製品が急増したことで、投資総額は上半期ベースで3年ぶりの増加に転じた。

金融・保険分野は2010年以降、中台間の金融覚書(MOU)発効や、海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)のアーリーハーベスト条項による投資の自由化措置に加え、海峡両岸通貨決済協力MOUに基づき人民元と台湾ドルの直接決済が可能になるなど規制緩和が進んだことで、金融・保険分野への投資額はここ数年2桁以上の伸びを続けていた。しかし2014年上半期は規制緩和以降、初めてマイナスに転じた。この理由としては、2014年5月に台湾中央銀行が発表した「金融安定報告」(年次)において、中国の不動産市場の停滞やシャドーバンキング問題などによる市場リスクの高まりを示したことが指摘できる。また、2014年7月23日の「経済日報」が報じたように、「台湾金融監督管理委員会が台湾の銀行・保険・証券業に対し、今後中国で拠点を設立する際にはリスクを考慮するよう促し、具体的なリスクコントロール計画書を提出するよう求めていくことを予定していることが、金融・保険分野における対中投資の減少につながった」面もありそうだ。

表2台湾の対中投資額上位10業種の件数および金額(2014年上半期)

<内陸地域への投資は増加傾向>
台湾企業の対中投資先を省・市・自治区別にみると、江蘇省向けが前年同期比32.1%増の16億700万ドルで、投資総額に占めるシェアが29.4%を占め、最大だった(表3参照)。次いで、福建省が4.1倍(シェア19.3%)、広東省が22.9%増(13.2%)だった。2013年上半期に金融関連の大型投資案件があり首位だった上海市は64.8%減(12.2%)となり、上位10省・市・自治区の中で唯一減少した。

また、中国沿海地域における人件費などの上昇や人材確保が難しくなっていることを受け、台湾企業は内陸地域への投資を増加させている。2014年上半期の投資額をみると、四川省向けが9.2%増、貴州省向けが7.4倍、重慶市向けが52.6%増だった。貴州省では、鴻海(富士康)科技集団が2014年3月に貴州省貴安新区管理委員会と2億2,000万元(約41億8,000万円、1元=約19円)の投資契約を締結し、4万5,000平方メートルの研究開発センターを設立することが予定されている(中時電子報3月4日)。台湾大手企業の大型投資を中心に、台湾企業の内陸地域への投資が今後も続いていくと考えられる。

表3台湾の地域別対中直接投資(2014年上半期)

<上位11件の投資額の約8割は製造業>
個別投資案件(金額順で上位10位)をみると、投資額が最も大きいのは台湾水泥(台湾セメント)が安徽朱家橋水泥など中国企業33社の株式を取得した案件だ(表4参照)。台湾水泥は同投資について「都市化政策を進める中国において、各種インフラ建設の増加が期待できる」としている(中央通信社1月27日)。次いで、台湾聚合化学品など7社がエチレンやプロピレンなどを中国国内で生産・販売するために中国石油化工集団(シノペック)などと合弁会社「古雷聯合石油化工」を設立する案件が第2位となった。上位10位(11件)の投資案件額をみると、製造業が約8割を占めており、金融関連の投資は2013年の6割から2割に低下した。

表4台湾の主な対中投資案件(2014年上半期)

<自動化や高付加価値化への投資が必要>
近年、中国における人件費の高騰や地場企業との競争激化などにより、現地に進出した台湾企業は経営面で厳しい局面に立たされている。台湾金融監督管理委員会の統計によると、中国に進出した台湾の上場・店頭公開企業の2013年の利益は1,456億台湾元(約5,533億円、1台湾元=約3.8円)となり、前年から15億台湾元減少した。製造業が集積する広東省東莞市で2014年8月に開催された東莞台商企業協会と台湾経済部投資業務処の座談会で、同協会の●(羽かんむりに隹)所領会長は「経済が好転したことで、東莞市場では受注が増加した。しかし生産コストが上昇しているため利益率は芳しくない。現状の生産方式(労働者に依存する生産モデル)を続けると業績は下り坂になるしかない。従って、生産工程の自動化を進めていくことは極めて重要な課題だ」と、人件費抑制策の必要性を指摘している(「経済日報」8月21日)。今後、生産コストの上昇が業績に影響を及ぼしやすい製造業などの分野では、生産工程の自動化や製品の高付加価値化を意識した取り組みが必要といえそうだ。

(方越)

(台湾・中国)

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