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国家開発基金の特別負担金に適用される為替レート制限を撤廃

(ベネズエラ)

カラカス事務所

2014年10月24日

為替協定30号により、ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)が国家開発基金(FONDEN)へ特別負担金を拠出する際に適用される為替レートの種類制限が撤廃された。これにより、PDVSAの財務体質改善やSICAD IIの為替市場での外貨供給量増が期待される一方、さらなるインフレ高進や固定為替レートでの外貨供給減少が見込まれる。

<FONDEN特別負担金に3つの為替レートを適用>
2014年9月23日付官報40504号で為替協定30号が公布され、公布日以降にPDVSAが中央銀行に外貨を売却する際、固定為替レートだけでなく、SICAD(2014年4月21日記事参照)、SICAD II(2014年5月12日記事参照)における為替レートを適用できることになった。ただし、同協定が適用されるのは「炭化水素国際市場における特別価格および法外価格に対する特別負担金法」〔以下、特別負担金法(注1)〕に基づく、FONDENへの特別負担金拠出を目的とした外貨売却に限る(注2)。

2014年4月公布の為替協定28号および2009年7月の為替協定9号により、(1)PDVSA、(2)PDVSAの子会社、(3)PDVSAと他企業による合弁会社が、原油などの炭化水素資源の輸出により得た外貨を中央銀行に売却してボリバルに両替する場合、1ドル=6.3ボリバルの固定為替レートが適用されることになっている。しかし、為替協定30号により、FONDENへの特別負担金拠出を目的とする場合に限り、PDVSAの中央銀行への外貨売却に適用される為替レートの種類に制限がなくなった。SICADおよびSICAD IIの為替レートは変動するが、公布日の9月23日時点でSICADは1ドル=11.70ボリバル、SICAD IIは49.96ボリバルと、固定為替レートに比べ大きくドル高ボリバル安になっている。

<石油輸出で得た外貨を社会開発事業に活用>
特別負担金法は、ベネズエラ産原油の国際価格が一定の基準を超えた場合に、社会開発事業のための基金であるFONDENに対し負担金を拠出する仕組みを定めた法律だ。具体的には、国際市場におけるベネズエラ原油バスケット価格の月間平均価格に応じて、原油・改質油・石油製品を輸出する企業が、輸出により得た外貨の一部を毎月、FONDENに特別負担金として拠出することを定める。ベネズエラ原油バスケット価格の価格帯別に示した、特別負担金の計算方法は表のとおり。なお、PDVSAだけでなく、その子会社と合弁会社も特別負担金拠出の義務を負う。

FONDENに拠出する特別負担金の金額計算方法(価格帯別)

特別負担金を外貨で受け取るか、現地通貨ボリバルで受け取るかはFONDENが指定できる。FONDENがボリバルでの特別負担金拠出を要求する場合、PDVSAなどの企業は中央銀行に外貨を売却することを通じて、FONDENにボリバルを拠出することになる(特別負担金法第10条、図参照)。なお、同法に基づいて中央銀行に売却された外貨のうち、50%は中央銀行からFONDENに対し外貨のまま拠出することも可能となっている。さらに外貨準備高の水準が高ければ、売却された外貨の50%超を、中央銀行が外貨のままFONDENに拠出することも可能としている。

特別負担金拠出の流れ(通貨別)

中央銀行が、売却された外貨をそのままFONDENに拠出するプロセスが認められていることは一見不要にみえる。しかし、外貨準備高の水準低下が近年著しい中、一時的であれ中央銀行が保有する外貨を増加させるプロセスを設けることに、一定の保険的効果があるとみられる。

なお、FONDENは貧困層対策、国内産業振興、公共事業などのための基金だが、通常の国家予算の枠外の資金として扱われるため、支出に当たって国会の承認を必要とせず、支出用途詳細の公開義務もない。野党が同基金の不透明性を指摘する一方、政府にとっては使い勝手の良い資金となっており、政策重点分野への資金供給や与党支持基盤の貧困層支援のための重要な資金源として機能している。

<SICAD IIを通じた民間への外貨供給増に期待>
為替協定30号には、詳細の規定がなく運用方法が不明なため、ベネズエラ経済や財政に対し今後どのような影響を及ぼすかは断定できない。しかし、(1)FONDENを通じた社会開発事業拡大、(2)PDVSAの財務体質改善、(3)SICAD IIを通じた民間企業への外貨供給増などの好影響が期待される。

PDVSAからFONDENへのボリバル建て特別負担金拠出に対して、SICADやSICAD IIの為替レートが適用された場合、これまでどおりの固定為替レート適用に比べ、1ドル当たり約2〜8倍のボリバルがFONDENに拠出されることになる。つまり、FONDENの持つボリバル建て資金が増えることになり、国内においてこれまでより多くの社会開発事業が実施可能となる。

FONDENを管轄していた財務省(注3)の「業務報告書2013(Memoria 2013)」によると、2005年のFONDEN設立から2013年12月末までの間、FONDENは合計で約1,155億ドルの事業を実施しており、そのうち24.3%に当たる約280億ドルは石油鉱業部門の事業に充てられた(総額、石油鉱業部門の金額とも、実施中の事業の金額も含む)。つまり、PDVSAはFONDENへの負担金拠出を通じて石油鉱業部門に関する事業を間接的に進めているといえる。PDVSAが独自にボリバル建て資金を必要とする場合、原油などの輸出で得た外貨のボリバルへの両替にはこれまでどおり固定為替レートが適用される。しかし、FONDENを通じて石油開発を行えば、ボリバル資金の捻出にSICADやSICAD IIの為替レートを適用できる可能性があるため、独自に石油開発を進めるよりも外貨原資の節約ができ、財務体質改善につながる。

FONDENへのボリバル建て特別負担金拠出にSICAD IIの為替レートが適用されれば、それと連動し、中央銀行が外貨の両替に必要なボリバルをSICAD IIの為替市場で調達することになる可能性が高い。この場合、SICAD IIの為替市場に以前より多くの外貨が中央銀行から供給されることになり、民間企業への外貨供給量の増加につながる。SICAD IIを通じた外貨供給量の増加は、現在大きな問題となっている外貨不足に基づく輸入決済遅延の問題を緩和する可能性がある。

<通貨安でさらなるインフレ加速に懸念>
好影響が期待される一方で、為替協定30号がもたらす悪影響として、インフレの加速とSICAD II以外での外貨供給減少が懸念されている。

FONDENの社会開発事業増加が国内の通貨供給量増加をもたらし、インフレを加速する恐れがある。また、固定為替レートに比べてドル高ボリバル安なSICAD IIによる外貨供給が増加すれば、実質的な通貨切り下げとなり、輸入価格がボリバル建てで上昇、さらなるインフレの要因となる。2014年1〜8月の累計消費者物価上昇率は既に39.0%に達しているが、為替協定30号の施行で、インフレに拍車が掛かることになるだろう。

ベネズエラは外貨獲得手段を原油・石油製品の輸出に依存しているが、原油生産・輸出量が近年減少傾向にあるため、原油価格が高騰しない限り国全体で獲得する外貨の総量が増加する可能性は低い。SICAD IIの為替市場を通じた外貨供給が増えれば、その分、固定為替レートやSICADによる外貨供給が今まで以上に制限されることになる。

今後の影響は不明な点が多いが、国際的金融大手のドイツ銀行とHSBCは、為替協定30号の目的を、FONDENの公共事業拡大を通じ、2015年に実施される国会議員選挙を意識した、ばらまき政策を実施することだと指摘している(「エル・ナシオナル」紙9月27日)。

(注1)スペイン語の正式名称は「Ley que Crea Contribucion Especial por Precios Extraordinarios y Precios Exorbitantes en el Mercado Internacional de Hidrocarburos」。基となる法律が2008年4月15日付官報38910号で公布された後、2011年4月、2012年2月、2013年2月の3回にわたり改定されている。現行の同法は2013年2月20日付官報40114号で公布。
(注2)正確には、為替協定30号第1条に「PDVSAが『炭化水素国際市場における特別価格および法外価格に対する特別負担金法』に基づきFONDENへ現地通貨ボリバルを拠出する目的で中央銀行に対し外貨を売却する場合は、その時点で有効な為替協定に定められた全ての公式な為替レートを適用できる」と記載されている。現在有効な為替協定に基づく為替レートとして、固定為替レート、SICAD、SICAD IIの3種類が存在するが、具体的にどのレートが中央銀行への外貨の売却に適用されるかは、為替協定30号には定めがない。
(注3)2014年1月16日付官報40335号により、財務省は経済財務公共銀行省に名称を変更している。

(松浦健太郎)

(ベネズエラ)

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