株式市場を2015年上半期に外資に開放へ−国際化・活性化への期待高まる−

(サウジアラビア)

リヤド事務所

2014年10月09日

サウジアラビアの金融規制当局が、株式市場の外資開放に向けて動き始めた。2015年上半期からの運用に向け、パブリックコメント(意見公募)を通じて体制整備に取り組む方針だ。金融・市場関係者の間では、市場開放・国際化への動きに総じて前向きの期待感が高まる一方、慎重で保守的な規制だとして疑問を呈する声もあり、今後の動向が注目される。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<資本市場開放に関する規則案が公表>
8月21日、サウジアラビア資本市場庁(CMA)のウェブサイト上に「適格外国金融機関の上場株式投資に関する規則」のドラフト(英文)が公表された(添付資料参照)。ラマダン終了前の7月21日に閣議決定されたとおり、11月20日まで90日間のパブリックコメント期間を経て、2014年末までにCMAでのレビューを完了、2015年上半期中の運用開始を目指すとしている。

公開されている規則案のポイントは以下のとおり。
(1)サウジ株式取引所に参加できる「適格外国人投資家(QFI)」は銀行、ブローカー・証券会社、ファンド、保険会社の各金融機関とする。
(2)QFIは、運用資産を原則187億5,000万サウジ・リヤル(50億ドル相当)以上保有し、証券投資業務を5年以上手掛けていることが要件(緩和規定あり)。
(3)1銘柄につき発行済み株式の5%を、各QFI(子会社分も含め)の保有限度とする。
(4)1銘柄につき発行済み株式の49%を、全外国人投資家(居住・非居住者、地場証券とのスワップ分、QFI)の合計保有分の上限とする。
(5)1銘柄につき発行済み株式の20%を、全QFIの合計保有分の上限とする。
(6)全銘柄の市場総額の10%を、全QFIおよび地場証券とのスワップによる保有総額の上限とする。

<サウジ株式市場は湾岸諸国で存在感>
サウジの証券取引の原形は古く、建国3年後の1935年にまでさかのぼる。国民の株式への関心は強いが、イスラム教の宗教的な理由(利息禁止)もあり、サウジ通貨庁(SAMA)による証券取引所の設置・整備が始まったのは1980年代半ばになってからだった。

銘柄はサウジ国内企業(外資系を含む)の石油化学と金融分野が中心で、またサウジ国民と居住外国人(個人・法人の居住者)および湾岸協力会議(GCC)6ヵ国の国民のみが参加可能なこと、政府系投資ファンドや王族・財閥系個人ファンドの長期保有株主が主体で市場流通高が1割程度にとどまることなどから、ボラティリティー(価格変動幅)が高く、投機資金による乱高下を繰り返してきた。

証券取引所は2001年秋、「Tadawul(タダウル、アラビア語で交互・トレーディングの意)」と命名された当時最新の電子取引決済システムを導入、2003年に新設されたCMAの管轄下となり、2007年には「国営株式会社Tadawul」となって現在に至っている。

これまで最大の銘柄である石油化学企業のサウジアラビア基礎産業公社(SABIC)の株式公開をはじめ、住友化学と国営石油会社サウジアラムコの合弁ペトロラービグをはじめとする主要産業のIPO(新規株式公開)により、投資家の裾野拡大など投資環境整備が図られてきた。その結果、430万人の個人投資家(サウジ人口の約2割)が株式市場総額の3分の1を保有し、取引高の9割近くを占めるという、他に類のない個人主体の構造に至ったが、これが裏目に出て2006年には投機筋の個人投資家の揺さぶりによる株式バブル崩壊(3月のピークから年末にかけて時価総額が半減)を経験した。

しかし、その後もCMAは、同族企業の株式公開や保険・運輸・小売りなどに分野を拡大した活発なIPO施策を進め、現在の市場時価総額は5,800億ドル規模、銘柄数は160社余りに達している。ともに東証1部の10分の1程度で、また新興市場である中国(2兆7,000億ドル)やインド(1兆3,000億ドル)の数分の1の規模にとどまるとはいえ、GCCの市場時価総額の45%を占めるといわれる存在感を示している。

<待望の開放策に総じて前向きの評価>
中国と日本に次いで世界3位の外貨準備高を保有し、IMFにも積極的に資金拠出するなど中東金融市場の盟主を自他ともに認めるサウジにとって、今回の開放策は「8年越しのコミットメント達成」(外資系投資銀行経営者)であり、2013年にCMA総裁に開明的な人物が任命されたことがそのシグナルだったとも伝えられている。規則案の発表前には、2大聖地(マッカとマディーナ)の不動産・開発事業銘柄は開放されないという予想もあったが、現状のところそうした国際性と相いれない特殊な規制は盛り込まれていない。

国内外の金融・投資専門家や市場関係者は、政府当局が株式市場への外資導入に向けて具体的な行動を始めたことを総じて前向きに評価している。「市場に国内投資家と外国投資家が併存すれば、投資家の多様化と流動性増加により、市場の安定化や過度の投機抑止などの健全性につながる」(地場銀行エコノミスト)と期待している。

<外資呼び込み効果は限定的か>
一方、外国資本の上限などについては、まだ規制が強く、外資の大幅な流入や市場活性化・安定化への効果は限定的との声も聞かれる。

地場の投資コンサルタントの分析によると、現時点で外国人の株式保有高は80億ドル(市場総額の1.4%)にとどまっている。今回の開放策では、保有上限は市場総額の10%まで(580億ドル)とされており、計算上は500億ドルの外資流入を期待し得る。

サウジの株式市場は、居住者(個人・法人)は売買利益について非課税、配当は源泉税5%(日本、ドイツ、米国は20〜30%)、売買手数料が0.12%と低コストだが、非居住者の場合は0.25%のスワップ手数料を国内の証券・投資銀行に支払って間接的に株式保有(配当・売買利益のみ)する必要がある。

また、160余りの上場銘柄のうちSABICをはじめとする上位5銘柄で時価総額の4割近くに達する市場構造では、通常の市場競争原理も働かず、「結局はSABICなどへの投資となり、ソブリン(国家)への投資に等しい」(外資系投資銀行経営者)との指摘もある。

政府は、今回の開放策で非居住者の売買手数料が0.12%に半減すれば大幅な外資の流入が生じると見込んでいるが、スワップ手数料の高さや市場原理が働きにくい構造であることからも、短期での大幅な外資流入は期待薄とする冷静な見方が妥当とみられる。

<国際化に向けた最初の一歩>
他方で、「サウジ当局としては、巨大外資やデイトレーダーの参入への警戒感があるものの、規制や義務が厳し過ぎれば国外の有力投資家の参入は期待できない」(前出の地場銀行エコノミスト)ため、中国やインドの新興市場と同様、漸次小出しに解禁の幅を広げていくことになるだろう、との希望的観測もある。

サウジやアラブ首長国連邦などによる「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」への空爆参加の影響から、Tadawulの全銘柄指数TASIをはじめ中東各市場の株式指標は最近、一斉に下げているが、今回の発表直後はTASIも上昇した。サウジ株式市場が、世界的な株価指数MSCIインデックスや各国のファンド商品に組み入れられるにはまだ道は遠いものの、国際化に向けた最初の一歩を踏み出したといえよう。

政府は、リヤド市街北部にリヤドで最高層建築となるCMAタワー(高さ400メートル・76階建て)とTadawulタワー(200メートル・43階建て、日建設計が設計・施工管理)を建設するなど、近未来的な超高層ビル群による巨大な「アブドゥッラー国王金融地区(KAFD)」を設営中だ。サウジが国際的な株式市場となり得るのか、今後のマーケット整備の帰趨(きすう)が注目される。

(三束尚志)

(サウジアラビア)

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