交通・小売業に混乱も日系企業は通常どおり営業−香港の抗議活動に伴う経済への影響について−

(香港)

香港事務所

2014年10月06日

香港では、2017年実施予定の次期行政長官の選挙制度改革をめぐり大規模な抗議活動が行われている。最初に抗議活動が開始されたアドミラルティ(金鐘)に加え、コーズウェイベイ(銅鑼湾)、モンコック(旺角)、チムサーチョイ(尖沙咀)などの主要なビジネス街・繁華街のほぼ全てに抗議活動が拡大し、周辺道路が封鎖されている。その影響で、市内の陸上交通・物流網は混乱状態に陥っているが、現時点で進出日系企業はおおむね通常どおり事業を続けている。

<行政長官の選挙制度改革案が抗議活動の発端>
中国政府は8月31日、2017年実施予定の香港の次期行政長官の選挙制度改革草案を公表した。この草案に対し、香港の大学生や議会民主派が、民主派の立候補の余地がなくなる選挙制度であるとして強く反発し、9月26日からアドミラルティにある香港政府庁舎および周辺道路を占拠して、大規模な抗議活動を開始した。香港政府は、政府庁舎内に侵入した中学生を含む多数の民主派を逮捕したほか、28日には抗議活動を行うデモ隊に催涙弾を発射するなどの対抗策を取って事態の沈静化を図ろうとしてきた。

しかし、こうした政府の姿勢に反発を強めた一般市民が抗議活動に参加することにより、市内占拠の規模がさらに拡大し、最初に抗議活動が開始されたアドミラルティに加え、コーズウェイベイ、モンコック、チムサーチョイなどの主要なビジネス街・繁華街全てに抗議活動が拡大し、周辺道路が封鎖されている。

この影響で、市内の交通・物流網は混乱状態に陥り、観光業や小売業などにも影響が出ているが、今なお抗議活動・市内占拠の解決の見通しは立っていない。

<バス利用の150万人に影響>
香港の陸上交通を支える地下鉄(MTR)は、列車の運行には支障は生じていないものの、セントラル(中環)駅の一部の出口は封鎖されている。一方、大型バスの運行には甚大な影響が出ており、40路線の運行停止、130路線のルート変更など全路線の47%に当たる270路線、1日当たりのバス利用者の約40%に当たる150万人が影響を受けている。また、ミニバスとタクシー業界については、具体的な影響は公表されていないが、売上高減少による乗務員の不満が高まっていると地元メディアは報じている。

<中国本土からの観光客は3割減の見込み>
観光業に関しては、市内各地が占拠されている影響で、観光地を歩く観光客が目に見えて激減している。また、香港を訪れる来訪者数の約8割を占める中国本土の観光客については、中国国家観光局が9月30日から10月7日まで香港ツアーのビザ発行を中止している影響で、今後も減少し続けるとみられる。香港旅遊業議会の胡兆英主席は、国慶節期間(10月1〜7日)の中国本土からの観光客数は前年比3割減少する見込みであると語っている(「明報」10月1日)。

<道路沿いの小売業の多くが休業>
繁華街の占拠や周辺道路の封鎖により、物流網にも混乱がみられ、特に生鮮食品の輸送が命綱である飲食店では、一部の店舗で開店を見合わせているほか、予約のキャンセルも発生しているもよう。また、占拠が行われている道路沿いの店舗では、多くが休業している。

こうした情勢を踏まえ、小売業管理協会の麥瑞●(王へんに京)主席は、2013年は前年比10%以上の増加をみせた国慶節期間の小売売上高が、2014年は0〜2%増程度にとどまるとの見通しを示している(「商報」9月30日)。

<政府や銀行支店もサービスを停止>
10月3日には道路封鎖の影響により職員が入館できず、香港政府(本庁舎)での業務が停止されるなど政府業務への影響が出ている。また、香港金融管理局(HKMA)によると、香港内の16銀行の20ヵ所の支店またはATMが閉鎖されている。しかし、ジェトロ香港事務所の調べでは日系大手金融機関で閉鎖しているところは確認されていない。

市民生活にも影響が出ている。道路封鎖の影響で、緊急車両(救急車、消防車など)の通過が困難な地域があるほか、9月29日以降、香港島の広範な地域で、幼稚園、小学校が休校となっている。

(メーガン・クォック、和瀬幸太郎)

(香港)

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