就労目的のレジデンス・ビザ取得には政府機関の推薦状が必要−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(14)−

(スリランカ)

コロンボ事務所

2014年09月29日

スリランカでは、ビジネス目的での査証「レジデンス・ビザ」取得に関して、日系企業の大きな障害になるような規制は課されていない。ただし、レジデンス・ビザ取得に必要な政府関連機関からの推薦状については、その確保に苦戦する例もあり、スリランカ駐在理由を明確に説明できる用意が必要だ。また、短期滞在用の査証であるビジネス・ビザ取得手続きは煩雑化しており、日系企業からはウェブによるビジネス・ビザ取得手続き復活を求める声が上がっている。

<駐在して就労の場合はレジデンス・ビザ>
外国人がスリランカに駐在して企業などで就労する場合、スリランカ出入国管理局から「レジデンス・ビザ(Residence Visa)」という査証を取得する必要がある。同局によると、レジデンス・ビザは次のように定義されている。

○非スリランカ人が特別な目的のために居住・就労の権利を得るための許可証
○スリランカ国籍を持たない人間に対し、投資その他の目的で居住・就労の権利を延長することが決定された場合に発行される
○指定された政府機関が、外国人のスリランカ滞在と就労がスリランカ国民の利益を損なわないと判断した場合に発行される

外国人(駐在員)のレジデンス・ビザ取得にかかる手続きは次のとおり。

(1)(当該駐在員を受け入れる)在スリランカの企業/組織が関連政府機関から「レジデンス・ビザ発給にかかる推薦状」を取得
(2)在スリランカの企業/組織が、この推薦状と同企業/組織からの要請状をスリランカ出入国管理局のビザ・国境管理課宛てに提出
(3)在スリランカの企業/組織からこの要請を受け取ると、ビザ・国境管理課は要請内容の信頼性と適格性を確認。この結果、要件を満たしていると判断されると、レジデンス・ビザが認められ、同課から当該国のスリランカ大使館に対しファクスで、駐在予定者宛てに「エントリー・ビザ(Entry Visa)」を発行するよう指示
(4)駐在予定者は、スリランカ大使館の領事部(Visa Section)宛てに必要書類を提出しエントリー・ビザを取得
(5)エントリー・ビザは発行から1ヵ月間のみ有効なので、駐在予定者はこの間にスリランカに入国し、必要書類をビザ・国境管理課に提出してレジデンス・ビザを取得しなければならない

上記手続きにおける留意点は、駐在予定者はスリランカ大使館でのエントリー・ビザ申請前に、レジデンス・ビザ発給許可が出ていることを確認しておく必要があるということだ。実際には、上述のビザ・国境管理課から当該国スリランカ大使館へのファクスに(入国後に発行される査証のタイプとして)「レジデンス・ビザ」との記載があり、このファクスのコピーが申請した在スリランカの企業/組織に送られる。このファクスコピーを受け取ることにより、駐在予定者はレジデンス・ビザ発給許可が確認できる。

また、観光ビザやビジネス・ビザなどの短期滞在査証で入国した場合は、レジデンス・ビザを取得することはできないので、この点も注意しておく必要がある。

なお、レジデンス・ビザ取得に際して必要な申請書類などの詳細は、スリランカ出入国管理局のウェブサイトで確認できる。

<関係政府機関からの推薦状確保がカギ>
スリランカでの就労で必要なレジデンス・ビザの概要は上記のとおりで、ビジネス目的でのレジデンス・ビザ取得に関しては、厳しい規制がかけられているわけではない。ただ、査証取得に当たって必須となる関連政府機関からの推薦状については、企業によっては確保に苦労する場合もあるようだ。外国企業がスリランカで現地法人を設立する際には、(1)スリランカ投資庁(BOI)の認可を取っていわゆる「BOI企業」となる場合、(2)BOI認可は取らず会社登記のみで設立する場合(「非BOI企業」)、の2つがある。BOI企業についてはBOIがこの推薦状の発行者になるので特に問題はないが、非BOI企業は自身で推薦状発行機関を探さなければならない。工業商業省傘下の商務局が窓口となったり、旅行代理店など観光関連企業の場合は観光開発局が請け負ったり、というのが一般的なようだが、審査が厳しくなかなか推薦状が発行されないという日系企業の声も耳にする。

スリランカでは、外国人の就労許可に関し、外国人雇用枠規制や学歴要件、最低給与基準といったかたちの明示的な規制は設けられていない。ただし、就労許可の判断は次のような考え方に基づいているとされる。

(1)外国人への就労許可は、取締役、高いレベルの経営者ポストもしくは適切なスリランカ人人材がいないポストに限って発行される
(2)マーケティング人材、会計士、労働者などは(スリランカ人が担える業務なので)外国人への就労許可の対象外。ただし、説明が難しい特別な製品・サービスについては外国人のマーケティング人材の就労も検討し得る

また、レジデンス・ビザ取得のための推薦状発行に関する商務局のウェブサイトでは、レジデンス・ビザ取得用の推薦状発行に際し、同局は次の点が保証されるように注意を払っているとしている。

(1)スリランカにおける駐在員の存在が申請理由のとおり不可欠であること
(2)いかなる状況下でも、駐在員の存在がスリランカ人の就労機会を抑制しないこと
(3)国民経済の観点からみて、レジデンス・ビザ取得者の存在が国にとって有益であること
(4)雇用者が、(駐在員の)代わりとなる適切な現地人材を探す十分な努力をしていること

いずれも一般的な要件だが、推薦状発行者側がこうした観点をチェックしていることは、申請に当たり留意しておく必要があるだろう。

BOI企業についても、認可企業に対して何人分の推薦状を発行するかについては、BOIと当該企業との契約(agreement)で規定することになっており、BOIの認可を受ける際には、必要な駐在員の人数も考慮しながら契約交渉を行う必要がある。

<ウェブによるビジネス・ビザ取得の復活申し入れ>
一方、短期滞在用の査証であるビジネス・ビザ取得にかかる手続きについては、多くの在スリランカ日系企業が改善を求めている。2012年1月に査証取得のためのETA(Electronic Travel Authorization)システム(ウェブサイトでの査証取得システム)が導入され、(観光分野では手間・コストが増えたが)ビジネス・ビザ取得においては手続きが簡素化され、利便性が高まった。しかし、2013年夏ごろから、ETAでのビジネス・ビザ取得ができなくなり、従来どおり在日スリランカ大使館に訪問先からの招聘(しょうへい)状を含めた必要書類を提出する、取得まで相当の日数が必要な手続きに戻ってしまった。最近では、招聘状もPDFではなくオリジナルの提出が求められるなど、手間・日数がさらにかかる状況となっている。

スリランカ出入国管理局によると、一部の国からの渡航者が、非ビジネス目的にもかかわらず有効期間が観光ビザより長いという理由でビジネス・ビザを取得して入国するという事例が発生したため、ETAでのビジネス・ビザ取得を停止した、というのが背景にあるようだ。

とはいえ、在スリランカ日系企業には、技術指導やサポートのために本社や他国の拠点から出張者が頻繁にスリランカに訪れており、急きょスリランカに向かわなければならない場合も多い。こうした状況下、ビジネス・ビザ取得に多大な時間と手間を要することは大きな負担となる。スリランカ日本商工会会員企業からは、ETAシステムでビジネス・ビザ取得ができる手続きの復活を求める声が多く上がっており、スリランカ政府へのビジネス環境改善要望の場である「官民合同フォーラム」(2014年7月28日開催)で、本件についても申し入れを行った。スリランカ政府側からは、再導入を検討しているとの回答があり、実現が期待される。

(崎重雅英)

(スリランカ)

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