就労査証の発行に「高い技能」や最低賃金の条件−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(12)−

(インド)

ニューデリー事務所

2014年09月25日

インドは自国民の就業機会の拡大のため、外国人への就労査証の発行に「高い技能」や最低賃金の条件を設けるなど、慎重な姿勢を取っている。日系企業は、就労査証発行にかかる時間の短縮や手続きの統一化、就労査証と連携する滞在許可の取得更新手続きの改善を求めている。

<明確でない「高い技能」の定義>
インドで働くための就労査証の発行に際しては、申請者がインドの企業もしくは組織で働くことを目的とし、一定の教育水準を満たし、かつインドで納税義務を果たす用意があることなどの基礎的条件のほかに、(1)インド人では成し得ない高い技能や資格を有していること、(2)最低年間賃金が2万5,000ドル以上であること、という条件が付いている。この背景には、インド人でも就業が可能な職種に外国人が低賃金で就労することを防ぐために、査証の発行を必要最小限にしたいという政府の狙いがある。ただし、「高い技能」の定義が明確に示されているわけではなく、査証申請に当たって必要書類の準備などで混乱を招くケースもあるようだ。

インドの就労査証業務は内務省の管轄で、査証発給実務は申請者が国籍を有する国の在外インド公館が担い、査証の更新などインド国内での実務は各地の外国人地域登録局(FRRO)が行っている。なお、申請者が国籍と異なる第三国のインド大使館で就労査証の発行を希望する場合には、当該国に2年以上滞在していることが条件となる。

就労査証は職種別に大きく10種類に分けられている。最も一般的なものは、「インドの企業や組織で勤務する」というカテゴリーだが、このほかにも、アーティスト、スポーツ選手、料理人、技術者などの個別具体的な職種が列挙されている。就労査証の申請には、パスポートなどの基本書類のほかに、雇用契約書、会社登記簿謄本(それに準ずるもの)、招聘(しょうへい)状、技能証明書や身元引き受け証明書などを準備する必要がある。有効期間は、一般に以下の3つのカテゴリーに分類されて定められている。雇用契約期間が有効期間よりも短い場合は、契約期間の年限が査証の有効期間となる。

○技術者や専門家(2国間で締結された協定に基づくもの):5年
○IT技術者:3年
○上記以外の高い技能を持つ外国人:2年

上記いずれの就労査証も最大5年まで延長が可能だが、その場合には1年ごとに更新が必要となる。駐在期間が5年を超える場合には、査証失効前に日本にいったん帰国し、在京インド大使館か在大阪インド総領事館で就労査証の新規発給申請をしなければならない。

なお、米国国籍保有者と日本国籍保有者には有効期間に特例がある。米国籍保有者の場合は米国企業の社長か幹部であるという条件で、日本国籍保有者の場合には申請者が「高い技能」を有していればIT技術の保有いかんにかかわらず、3年の査証が発行される仕組みになっている。

就労査証については、インド内務省のウェブサイトが詳しい。

<インド日本商工会は制度改善を要請>
就労査証は在インド日系企業が抱える課題の1つであり、インド日本商工会(JCCII)が毎年インド政府に提出する建議書の中でも例年取り上げられている。就労査証取得のための手続きの簡素化や時間短縮、さらに近年では、在京インド大使館と在大阪インド総領事館での発給対応の統一化を求める意見も出ている。具体的には「在大阪総領事館での就労査証発行が在京大使館と比べて条件が厳しく、エンジニア相当のみに発行となっており、営業人員などへの査証発行が認められず、ビジネスチャンスの喪失につながっている」と苦言を呈する日系企業があった。

また、就労査証に関連する「外国人登録(Registration Certificate/Residential Permit(RC/RP))」はインドに入国後14日以内に完了させる必要があるが、この手続きの改善も長年の課題といえる。なお、この外国人登録は英語名称にもあるとおり滞在許可の性質も帯びており、安全保障上の観点から申請者の実際の居住地を把握する目的があるものとみられる。外国人登録も査証と同様、内務省傘下のFRROが管轄している。

外国人登録には、身元引き受け証明書、雇用契約書、住居契約書や納税証明書などの書類の提出が求められるが、記載内容や提出書類自体の度重なる追加変更、さらには州による必要書類の違いなどが申請者の負担となっている。制度変更が体系的にウェブサイトなどに公表されていないことも問題の1つといえる。

また、外国人登録は1年更新のため、就労査証の期間が3年でも、毎年FRROに足を運んで、外国人登録の更新手続きをしなければならないことが負担となっていた。しかし、2014年9月にモディ首相が訪日した際の安倍晋三首相との首脳会談での確認事項として、就労査証と外国人登録の期間を同一とするインド政府の決定を歓迎する旨が盛り込まれた。実際の制度運用開始には所定の時間を要することが想定されるが、大きな課題の1つが解消されるものとして期待が高まる。

なお、2012年からFRROへの事前申請がオンライン化され、申請に必要な基礎情報の入力と必要書類の提出が可能になった。同時に、申請者がFRROを訪問するべき時間が指定されるシステムも加わった。導入直後はシステムの不具合でオンライン申請ができなかったり、FRROが予約時間を無視して訪問者を事務所内に案内したために混雑を引き起こしたりするなどの事態も発生していたが、現在ではシステムが軌道に乗り、予約時間外の事務所への立ち入りも制限されたことで、手続きは大幅に迅速化されているようだ。

(西澤知史)

(インド)

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