発行要件は厳しく手続きも煩雑−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(11)−
北京事務所
2014年09月24日
外国人の就労に対して、中国政府は自国民の就業機会確保の観点から、知識、経験、技術、ノウハウなどを有する者には就労許可を与えるという考え方がある。中国で就労する外国人は、一般的にはZビザで入国後、居留許可を取得する手続きを踏むが、発行要件は厳しく手続きも煩雑だ。事前に制度と事務手続きをよく理解しておく必要がある。
添付ファイル:
資料( B)
<就業証保有の外国人が微減>
中国公安部出入国管理局の統計によると、2013年の中国への外国人の入国者数(通関での延べ人数)は2,629万人、うち就労目的の入国者数(同)は108万7,000人となっている(表1参照)。また人力資源社会保障部の事業発展統計公報によると、2013年末時点で外国人就業証の保有者数は24万4,000人となっている。2011年まで毎年1万人前後の伸び率を示していた就業証保有者数が2012年微増、2013年微減となっているのは、2011年下半期から北京市など一部都市において外国人に対し社会保険が強制加入になったことによるコストアップ、大気汚染問題、2013年7月の改正出入国管理法施行による就労管理の強化などが要因と推測される。
<就労許可までには6段階の手続き>
中国では外国人就労者について、勤務先の登記形態(現地法人、駐在員事務所など)と職位(一般社員、管理職、法定代表者)などによって手続きが若干異なる(添付資料参照)。
最も多くの日本人が該当する現地法人の一般社員を例に挙げると、(1)就労先企業による「外国人就業許可証書」の取得(労働局)、(2)就労先企業による「被授権単位招聘(しょうへい)状」の取得(商務局)、(3)赴任者による「Zビザ」の取得(在日本中国大使館または領事館)、(4)赴任者による「臨時宿泊登記」の実施(宿泊地公安派出所)、(5)赴任者による「外国人就業証」の取得(労働局)、(6)赴任者による「居留許可」の取得(赴任地公安局)という6つの手続きを順次履行し中国での就労が可能となる〔(1)〜(3)は入国前手続き、(4)〜(6)は入国後手続き〕。
(3)のZビザは有効期間3ヵ月、中国滞在可能期間は30日のため、入国日から30日以内に(6)の居留許可取得の手続きを完了させる必要がある。
法定代表者、駐在員事務所、学者・専門家の手続きの場合は、一般社員と比べ(1)〜(3)で若干必要書類が異なるが、(4)以降の入国後の手続きはほとんど同じだ。なお、就業証の取得には、学歴(大卒以上)、年齢(60歳以下)、就業経験(2年以上)という原則的な3つの条件がある。企業の管理職(法定代表者は含まず)や技術職を中国に派遣する際にネックになるケースとして時々みられるのが年齢条件と学歴条件だ。この条件は都市によって異なることもある。さらには例えば北京市では年齢条件については内規で65歳としている一方、実務上は60歳(中国男性の法定定年退職年齢)でも就業証の取得が拒否されるケースがあるなど運用にばらつきがみられる。
<ビザの種類を8から12に増やし厳格管理>
表1のとおり、外国人の就労者数は増加している。全国人民代表大会のウェブサイトに掲載されている新華網の記事によると、2000年の外国人の就労者は7万4,000人であり、2013年の就業証保有者数(24万4,000人)と比べると13年間で3倍強に急増、それに伴い不法滞在や就労をめぐる違法行為が頻発しているといわれている。
2011年に全国の公安機関が取り締まった不法入国、不法滞在および不法就労の外国人は延べ2万人とされ、その多くは近隣諸国から留学、商務などの目的で入国し、外国語教育、芸能活動、家政婦などの職に不法に就労していると報道されている。これらは「三非」ともいわれる。「三非」とは「非法入境(不法入国)」「非法居留(不法滞在)」「非法就業(不法就労)」の「3つの非」を指す。以前から「三非」外国人の存在が問題視されており公安当局も取り締まりを強化しているが、これらの問題に抜本的に対処するために中国は2013年7月の新「出入国管理法」を受けて9月に「外国人出入国管理条例」を施行し、中国への入国および就労などに関する法規定を大幅に見直した。大きな変更点は外国人の入国、とりわけ中国における就労行為を厳格に管理する内容となったことで、ビザの種類が8種類から12種類に増加したことだ(表2参照)。
具体的には以前のF、L、Zビザについて変更が生じた。Fビザは2つ(Fビザ、Mビザ)、Lビザは3つ(Lビザ、Qビザ、Sビザ)、Zビザは3つ(Rビザ、Sビザ、Zビザ)に分かれ、ビザが4種類増えた。
従来、日本から短期の商業目的で中国に入国する場合はFビザを取得していたが、現在はMビザを取得することになる。従来のFビザは商業目的か否かの線引きが曖昧だった面があったが、Mビザの新設でその線引きがはっきりすることになった。
Lビザは従来、居留許可が必要とされなかったこともあり、居留許可なしで実質的に長期滞在する人が多かったことが問題視されており、単なる観光客と区別するとともに、実質的な長期滞在者に対する管理を強化する目的があるといえる。
長期就労者はZビザを取得するという点は従来と変わらないが、就労者家族はZビザからSビザへ変更となった。またZビザの分割ではRビザも新設された。
<審査期間が5営業日から15営業日以内に>
さらに、居留許可の新規取得および更新の手続き期限と審査期間が表3のように変更された。この手続きにおける最大のネックは審査期間が5営業日から15営業日以内になったことにある。審査期間中はパスポートを公安当局に預けることになるが、中国では飛行機や鉄道に乗る際、ホテル宿泊の際は必ず身分証明書原本の携帯・提示が必要で、外国人はパスポートを携行することになる。しかし審査期間中はパスポートを所持できないことから、飛行機や鉄道を利用した移動やホテル宿泊ができない。つまり、出張、旅行、出国ができないため移動や交通に大変な不便が生じる。以前からこの問題は認識されていたが、審査期間が5営業日だったため影響は軽微だった。現在は15営業日以内となり、実質最大3週間もの間、移動が制限されることになる。特に出張や会議で中国内を移動する駐在員にとっては業務上大きな影響が生じる懸念があるほか、遠隔地での事故、安全や生産などに関わる重大かつ緊急の事態が発生した場合、適切な人員が現場に急行できない問題を抱えることになる。
これに対して、現在では合理的な理由と証拠を提示すれば審査期間を短縮化する、求めがあればいったん手続きをキャンセルしパスポートを返却するなどの対応が取られるようになったが、不便を抱える状態が継続していることには変わりがない。
中国内における飛行機での移動や宿泊について、基本的には公安部門が発行するパスポート預かり証(中国語:「受理回執」)で代替可能となっている。しかし写真付き預かり証でないと搭乗を認めない例や、ホテルによっては預かり証による宿泊は認めないなど、実務の現場においては対応が異なることが報告されている。前者については、通常は写真なしの預かり証が発行されるため、写真付きを求める。後者については、事前に預かり証での宿泊可否をホテルに確認するといった細かな対応が必須だ。そのため、航空会社、空港、ホテルなどにはできる限り事前に預かり証での代替可否を確認し、何かトラブルがあった際には中国語で現場の係員に説明できる体制で出張や旅行に臨む事が望ましい。なお、そこまでしても現場の周知・認知が徹底されておらず思った以上の時間を要したり、現場では対応不可と判断されるケースもあり得るため、この方法を取る場合は一定のリスクを覚悟しておく必要がある。
なお、法律上では、手続き所要日数は「15日」以内となっており、「15営業日」とは記されていないが、現状ほとんどの当局窓口は15営業日以内で運用しているようだ。また15営業日以内という審査期間については、都市によって5営業日だったり15営業日だったりと所要日数が異なる点にも注意が必要だ。
<60歳を就労年齢の上限とする都市が多い>
中国で就労許可やビザを取得する際には、以下の点にも留意することが肝要だ。
a.就労者の年齢、学歴要件の存在
外国人就労者の年齢について対外的に明文化された法規定は設けられていない。しかし実務においては、中国人の法定定年退職年齢(男性60歳、女性55歳)に合わせて、外国人についても就労を認める年齢の上限を60歳までとする都市が多い。また、大学卒業以上の学歴を有していることや2年以上の職歴を有することを就労許可の条件として併せて規定しているケースもある。ただし、各都市によって条件は異なるため赴任地の運用を確認する必要がある。
一部の都市ではこれらの条件を満たしていなくても当該就労者の経歴や経験などを当局に対し説明することで当局が個別に判断し、就労許可を取得できるケースがある。しかし申請してみないと分からないという点に注意が必要だ。なお、企業の法定代表者や出資者および駐在員事務所の首席代表は年齢制限の対象外だ。
これらの条件に抵触する場合の解決策として、就業証ではなく外国専門家証(豊富な知識・経験・ノウハウなどを有する専門人材に対して発行)を取得することで対応できるケースもある。しかし最近、北京市では企業関係者に対する外国専門家証の発行が厳しくなっているとされる(学者や教員に対しては問題ないようだ)。外国専門家証の申請査証は新設されたRビザになる。
b.無犯罪記録の取得
新法施行後、新規に就労許可を取得する際、「無犯罪証明書」(犯罪経歴証明書)の提出が求められるようになった都市がある。日本人の場合、当該証明書は警視庁や警察署で取得する(通常2週間程度要する)。各都市により無犯罪証明書の要否の運用は異なっており赴任地での事前確認が必要だ。なお、事前確認時は不要と言われても窓口申請時に必要と言われる事態も起こり得るため、要否にかかわらずあらかじめ準備しておくというのも一法だ。
<不法就労者には2万元の罰金や身柄拘束>
c.Fビザ、Mビザでの長期就労
新法施行後、不法就労に関する定義が明確化され、罰則規定(強制出国、再入国一定期間禁止、罰金、拘留)も強化されている。企業の中にはZビザに比べ比較的取得が容易なFビザやMビザで出張や営業活動を行い、実質的には長期就労を行っているケースもあるとされるが、今後は就労実態に応じたビザの取得がなされているかどうか、抜き打ち検査や集中的に取り締まり強化活動が行われる可能性が考えられる。当該就労者との間に労働契約がなくとも事実上の就労行為として認定されるケースもあるため注意が必要だ。
なお、以下のような事例は多くの外国企業でみられるが、一定のリスクが存在していることに留意が必要だ。
(1)北京(総公司)で就業証を取得した人が長期にわたり上海(分公司)で長期滞在の上、就労するような場合、就労許可の範囲を超えているとして当局から指摘される可能性がある。滞在日数や業務内容、契約書などの文書など当局に対し合理的な説明ができるようにしておくことが望ましい。
(2)本社から語学研修生や研修生名目の立場で派遣し(Zビザではない)、週に何日か出勤させる、あるいは現地法人などの業務の手伝いをさせるような場合、FビザまたはMビザで入国し現地法人の名刺を持ち歩いて商業行為を行っている場合(いずれも賃金支払いの有無は関係しない)、現地で外国人留学生をアルバイトで使用するような場合、不法就労として当局から指摘される恐れがある。不法就労認定の依拠は、新出入国管理法の第43条に記載されているものの具体的な定義は曖昧であり、当局による裁量に左右される点に注意が必要だ。
現時点で考えられる事例として、例えば社名や役職が入った名刺、名札、業務証など社員としての身分を証明することができるものの支給や、ほかの従業員や労働者からの証言などでも労働関係の存在を認定できるとされていることに(「労働関係の確立に関係する事項に関する通知(2005年5月25日公布)」)注意が必要だ。これについては、外国人管理条例第22条で、「学習類在留証書を所持する外国人が、校外で勤労学習助成または実習をする必要がある場合には、所属する学校の同意を得た上で、公安機関出入国管理機構に対し勤労学習助成または実習の場所および期限などの情報の在留証書への追加・注記を申請しなければならない」と規定されているため、これに則した手続きを履行すれば不法就労とは見なされなくなるはずだ。
不法就労者に対しては2万元(約3万6,000円、1元=約18円)までの罰金や5〜15日の身柄拘束、あるいは期間限定の出国命令などという重い罰則が設けられている。Zビザ以外のビザで中国を短期訪問する際には、名刺、名札の使用から、業務内容、報酬など、不法就労と見なされないように注意する必要がある。
<認可更新の期限に十分留意を>
d.就業証および居留許可の更新手続き
就業証および居留許可保有者は原則1年ごとにそれぞれの更新手続きが必要だ(法定代表者の居留許可有効期限は2年)。居留許可の更新申請は有効期限満了の30日前までに行う必要があり、かつ就業証の更新が前提だ。つまり居留許可の更新申請を行う際には就業証更新手続きを完了していなければならない。
就業証の更新申請は北京市の場合、就業証の有効期限満了の60日前、天津市では45日前から可能で審査期間は5営業日程度とされている。従って、北京市を例にとれば居留許可の有効期限が10月31日の場合、居留許可更新の申請は9月末までに行う必要があり、それまでに就業証の更新を済ませておくため就業証の更新申請は9月中旬ごろまでに行う必要がある。有効期限を超過(オーバーステイ)した場合、1日当たり500元、最大1万元の罰金が科せられる。これまで以上に期日管理が求められることになり、居留許可更新時のスケジュール管理には十分留意が必要だ。
なお、原則1〜2年ごとの居留許可の有効期限については、新法施行後最短90日から最大5年となった。3〜5年の居留許可の取得要件の詳細は明らかにされていないが、特に1年ごとの手続きは煩雑なため、期限の拡大を求める問題が多く出ている。すぐに全ての申請者に対し長期間への切り替えが認められるとは考えにくいが、段階的に対象者や期間を拡大していく可能性はあるため、今後の運用に注目したい。
e.駐在員事務所の外国人人数規制
中国では駐在員事務所における外国人の就労者は4人までに制限されている。そもそも駐在員事務所は営業活動行為が禁止されているが、本来は行ってはならない営業活動行為を行うケースが増えていることを懸念した当局が、2010年以降、管理を厳格化している(2010年1月4日公布「外国企業常駐代表機構登記管理のより一層の強化に関する通知」および2010年11月25日公布「外国企業常駐代表機構登記管理条例」)。
<制度改善を期待>
3つの条件の緩和や居留許可手続きの簡素化、迅速化、都市ごとに異なる運用の改善は中国日本商会が毎年発行する建議(「中国経済と日本企業白書」)でも毎年、改善要望事項として挙げられており、制度の改善を求める声が強い。法改正により裁量の幅は広がっていることから、まずは試験的に一部の都市や企業に限定して管理を緩和する動きがあるかもしれない。
(島田英樹)
(中国)
ビジネス短信 541bd442251c0