エネルギー改革法が公布、資源開発や電力市場への民間参入を促進

(メキシコ)

メキシコ事務所

2014年09月12日

連邦政府は8月11日、一連のエネルギー改革関連法を公布した。2013年12月20日に公布されたエネルギー関連の憲法改正を受けたもので、炭化水素資源の開発や電力部門への民間参入に向けて一歩を踏み出した。

<探査・開発以外は承認か許可制を原則に>
今回公布された関連法は21本で、うち新規が9本、改正が12本となった(表1参照)。

表1新規ならびに改正されたエネルギー関連法

2013年12月に改正された憲法第27条では、「地下に賦存する」炭化水素資源を国家所有と明記した。このたび公布された「炭化水素法」第1条ではあらためて国家所有が大前提として規定されたが、これは採掘された後は(契約に従い)採掘者が所有し得るということを明確にしたものだ。ただし、国と民間が結ぶ契約では、地下賦存の炭化水素の国家所有について規定しなければならないとしている(炭化水素法第11条)。

同法第2条では、同法が規定する事業範囲を次の5つとしている。

(1)炭化水素の探査・開発
(2)石油精製、譲渡、流通、輸送、保管
(3)天然ガスの加工、圧縮、液化、減圧、再ガス化、輸送、保管、配送、流通、小売り
(4)石油製品の輸送、保管、配送、流通、小売り
(5)石油化学品のパイプライン輸送、保管

このうち、(1)については政府が割り当てと契約を行うことにより実施するとし、(2)〜(5)については事前承認ないしは許可制により誰でも行うことができるとした(同法第5条)。炭化水素分野における許認可の担当については、同法第48条に次のとおりに規定されている。

○エネルギー省:石油精製、天然ガス加工工程、炭化水素・石油製品の輸出入
○エネルギー規制委員会(CRE):炭化水素、石油製品、石油基礎化学製品の輸送、保管、配送、圧縮、液化、減圧、再ガス化、流通、小売り

<政府の取り分と企業への対価を規定>
炭化水素の探査・開発分野の契約の種類はエネルギー省が定めるとし、炭化水素法の定義に従って、ライセンス契約、生産分与契約、利益分与契約、サービス契約の中から選択するとした。政府の取り分と企業への対価については、「炭化水素歳入法」の規定に従って設定するとしている(炭化水素法第18条、表2参照)。また、技術移転が見込まれるケースなどでは、連邦政府が石油公社(PEMEX)などを通してプロジェクトに30%まで出資することができ(同法第16条)、国境付近の油井案件には政府に20%以上の参画を義務付けている(同法第17条)。

表2契約別にみた政府の取り分と企業への対価

上記とは別に、炭化水素探査・開発税が新設され、月単位で次の支払いが必要となる(炭化水素歳入法第55条)。

○探査期間中:1ヵ月当たり1,500ペソ(約1万2,150円、1ペソ=約8.1円)/平方キロ
○生産期間中:1ヵ月当たり6,000ペソ/平方キロ

これら実質的な鉱区の割り当て・契約実務は国家炭化水素委員会(CNH)が担う。同委員会の役割はエネルギー関連規制機関法第38条によると、次のとおり。

(1)炭化水素の探査・開発における規制・監督
(2)炭化水素の探査・開発における入札、契約締結
(3)炭化水素の探査・開発における技術要件、割り当て、契約の管理
(4)エネルギー省に対する技術コンサルティング

探査・開発以外の部分の大半はCREが担う。同委員会の役割は、同法第41条によると次の分野の規制ならびに効率的な開発・推進だ。

(1)石油、液化石油ガス(LPG)、石油製品、石油化学製品の輸送、保管、配送、圧縮、液化、再ガス化、小売り
(2)バイオエネルギーの輸送、保管、流通、小売り
(3)発電、送配電、売電

CNH、CREの具体的な役割は、炭化水素法、電気産業法それぞれに詳細が規定されている。

地場企業のサプライチェーンへの参加を意識し、全ての契約には最低でも35%のローカルコンテント比率を達成することを目標としなければならない。経済省がエネルギー省と協議した上で各契約の比率を決定し、エネルギー省が契約に規定する。深海油田など技術的に困難な鉱区では対象外とされるケースもあり得るとした(炭化水素法第46条)。

また、炭化水素法第66〜69条で、国家天然ガス管理センター(CENAGAS)の役割が規定された。これは国家のガスパイプライン系統を管理する独立した機関で、電力系統網を管理する独立機関として新設される国家エネルギー管理センター(CENACE)とともに、8月28日公布の政令により創設された。

<発電と売電部門も開放>
国家電力系統システム、送配電網については、改正憲法第28条の規定に従い、引き続き国家が管理する。電力部門に関する詳細は電気産業法に規定されている。実務は新設されるCENACEが担当する(電気産業法第107条)。CREは、発電の許認可や、送配電の料金設定を行う。電力公社(CFE)は国営の一企業として送配電資産の保有と管理を引き続き行うが、公共サービスはCENACEの管理下に置かれ、CREの規制と料金設定に従うものとなる。

民間企業は発電・売電を行うことができ、CENACEとの契約を通して送配電事業、ないしはグリッドの設備建設・拡張にも限定的に参加できる。また、CENACE運営による「電力卸売市場」が新たに開設される(表3参照)。例えば、大口需要家は同市場を通して、スポットで電力を調達することも、特定の発電事業者と長期売買契約を結ぶこともできる。小規模事業者・一般家庭などの小口需要者は「基本利用者(Usuarios Basicos)」と呼ばれ、既存のCFEのルートにより、CFEが卸売市場で入札やスポットで調達し、大蔵公債省(SHCP)が利用料金を取り決めて、小口需要者に電力を供給する。民間企業は中間流通にも参入でき、CENACEから大口で購入し、需要家に小分けする。

表3電力卸売市場の概要

<ガソリンなどの流通は段階的に開放>
ガソリンとディーゼル燃料、LPGの流通は段階的な開放となる(表4参照)。ガソリンとディーゼル燃料については、2014年中は補助金により市場価格よりも低く抑えている統制価格を徐々に上昇させ、2015年以降はインフレや国際価格の変動などによる調整のみで実質的な価格引き上げは行わない。2018年以降は価格を自由化する。一方、輸入許可は2017年以降自由化され、ガソリンスタンドの経営は2016年以降自由化される。LPGの場合は、価格自由化が少し早く2017年、輸入自由化も2016年となる。

表4ガソリン、ディーゼル燃料、LPガスの段階的開放

(中島伸浩)

(メキシコ)

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