非BOI企業などには外国人雇用枠規制が存在−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(5)−

(タイ)

バンコク事務所

2014年09月12日

就労を目的にノンイミグラントビザ(非移民ビザ)を取得して入国した、原則全ての外国人は現地でワーク・パミット(就労許可証)を取得する必要がある。ただし15日以内の緊急的業務での滞在の場合、簡易届け出によりワーク・パミットの取得は免除される。ワーク・パミットの発行条件として、投資委員会(BOI)による認可企業などを除き、原則として外国人労働者1人に対して4人以上のタイ人従業員の雇用、同じく外国人労働者1人に対し200万バーツ(約660万円、1バーツ=約3.3円)の払い込み済み資本金の登録などが求められる。タイの後編。

<ビザに加えて必要となるワーク・パミット>
外国人がタイ国内で労働に従事する際、ノンイミグラントビジネスビザ(Bビザ)に加えて、外国人労働法に基づくワーク・パミットが必要となる。ワーク・パミットは個人に対して国内での自由な労働を許可するものではなく、定められた期間中、特定の事業体(企業など)の特定の職務についての労働を許可するものである点について留意が必要だ。つまり転職や社内での配置・役職転換の際には、その都度、返却・再交付の手続きが必要となる。

なお、ワーク・パミットの取得が必要となる労働の内容は、タイでの雇用関係の有無や報酬の受け取りの有無に限定されず、在タイ企業との商談を行う場合や、契約に応じたエンジニアリングサービスの提供、技術指導や監査など業務を行う場合でも、原則として取得が求められる。ただし、短期出張などを通じた15日以内の緊急的業務については「緊急的業務届出書(Urgent Duty Form)」を労働省・雇用局もしくは県労働事務所、ワンストップサービスセンターのいずれかに提出(ファクス可)することによりワーク・パミットの取得が不要となっている。同届け出は、ワーク・パミットとは異なり、Bビザの取得を前提とはしてしない。

同届け出の基本的な届け出方法や必要書類については、在タイ日本国大使館のウェブサイトより確認できる。

近年、タイに自社の現地法人や取引先企業を有する日本企業の出張者が、商談や契約、機械設備の点検・管理などを目的に、短期出張ベースでタイを訪問する際、ワーク・パミットの取得、緊急的業務届出書の提出のいずれも行わずに滞在・帰国するケースが散見されている。この場合、雇用局やイミグレーションによる査察において、当該出張者の訪問目的が「労働(仕事)」でないことを説明することは難しく、罰則の対象となるリスクがある。そのため、たとえ数日間の出張であっても受け入れ側企業を通じ、緊急的業務届出書を提出しておくことが推奨される。

<当局が案件ごとに発行の可否を判断>
タイにおけるワーク・パミットは、職種や能力、賃金水準などによる分類がなく、明確な発行基準なども示されていない。一方、発行審査の原則を定めた「外国人の就労許可審査の原則についての雇用局規則」(注1)では、特に以下(1)〜(4)のような判断基準に従い、会社と個人の両方の側面から発行の可否を総合的に判断する方針が示されている。

(1)政治・宗教・経済・社会の安定・秩序維持
(2)外貨の獲得、雇用の創出、経済発展などの国益への貢献
(3)タイ人への技術・技能・ノウハウの移転
(4)人道上の事柄

このような観点から、外資企業(日系企業の過半出資の現地法人など)のケースにおいては、BOIの投資奨励を受けている企業、または工業団地公社(IEAT)管轄の工業団地に事業所を所有している企業は比較的容易にワーク・パミットを取得できる一方、それ以外の企業については、外国人労働者1人に対し200万バーツの払込資本金を有すること、10人を超える外国人のワーク・パミットを申請するには、税収(前年度納税額が最低300万バーツあること)、輸出額(前年度に最低3,000万バーツ相当)などの条件を満たすことなどが求められている。さらに外国人労働者1人に対して4人以上のタイ人従業員の雇用が義務付けられる(ジェトロ海外経済情報ファイル参照)。なお、在外公館でのBビザの取得の際には求められないが、タイ国内(移民局)での査証の延長の際にも、月給5万バーツ以上(日本人の場合)であること、事業の継続可能性を示すための決算書類を提出することなどが求められる。

<周辺国からの非熟練労働者に対しても同じ規則を適用>
前述のとおり、外国人労働者へのワーク・パミットには、職種や賃金水準による分類がなく、その発行はタイ経済への貢献やタイ人に対する技術、ノウハウの移転などの基準を基に総合的に判断されている。これらの基準は原則として、日本人などの駐在員のみならず、工場での単純作業を担う周辺国からの外国人労働者(非熟練工)にも同様に適用される(注2)。

BOI認可を受けた投資奨励企業、またはIEAT管轄の工業団地に事業所を所有している企業は、外国人1人に対する4人以上のタイ人雇用義務や登録資本金の規制は適用されない。しかし、法人税減免などの恩典が手厚いBOI認可企業に対しては、2012年以降、非熟練の外国人労働者の雇用削減義務を課し、毎年一定比率で減少させることを義務付けている。タイの失業率は、近年1%前後で推移しており、慢性的な労働者不足が大きな問題となっているが、このような外国人労働者規制強化が労働力不足に拍車を掛けている。2012年から2013年にかけての最低賃金の大幅な引き上げなどの事情もあり、労務コストの上昇と労働者不足が相乗的に企業への負担を強いる中、規制強化の弊害としての違法外国人労働者の急増が社会問題化する事態が生じている。

<運用面の問題に対し、ジェトロから改善要望>
ジェトロ・バンコク事務所では7月9日、査証およびワーク・パミットの取得に際して、日本企業が直面する制度・手続き面での運用上の課題を提示し、それに対するタイ政府当局の見解を聴取するため、外務省北東アジア局および領事局、労働省雇用局、ならびにBOI担当者などの関係者を一堂に集めるかたちで非公式協議を行った。

近年、日本国内でのBビザの取得に当たり、以前は求められなかったワーク・パミットの事前申請証明(WP3フォームの受領確認)が要求される事態などについては、同会合の中で、外務省領事部から「日タイ経済連携協定(JTEPA)に基づき、WP3関連書類の提出は不要」とのコメントを得た。また、ワーク・パミット取得や緊急業務届出書が必要となる「仕事」の範囲についても定義の明確化を要請した。当局との主なやりとりは以下のとおり。

○投資の事前可能性調査、市場調査の扱い
【確認要望事項】
現状において、タイに拠点を有さない企業がタイへの現地法人、駐在員事務所の設立を前提とした事前可能性調査を出張ベースで行う場合、もしくは自社製品の市場性を調査するために現地を訪れる際、Bビザの取得および現地でのワーク・パミットの取得要否が不明。必要な場合、受け入れ先となる在タイ企業がなく、査証取得に必要な現地からの招聘(しょうへい)状が取得できない事態が生じる。また、法人設立前のため、雇用契約書や商務省の登記関連書類、営業許可証、前期の確定申告、財務諸表、付加価値税(VAT)などの税務関連登録書類なども存在しない。現地でのワーク・パミットの取得も同様で、必要な書類などがそろわない事態が生じる。

【当局の見解】
投資する前の段階の企業が、30日以内の滞在で、タイで事前調査や市場調査を行うことに対しては、それに付随する業務もあり、明確に「査証やワーク・パミットは不要」とは定義できないが、内容によって、取得が不要となるケースがあるため、事前に照会してほしい。可能な限り明確なガイドラインが出せるよう対応を検討する。

○日本でのBビザ申請に係る事前ワーク・パミット申請(WP3)について
【確認要望事項】
在京タイ大使館におけるBビザの取得手続きにおいて、JTEPAでは不要となっている、(現地代理人を通じた)ワーク・パミットの事前申請受領確認(The letter of consideration of Form WP3)が求められるケースが報告され、ウェブサイト上にも必要書類として明記されている。しかし、新規設立企業などの場合、ワーク・パミットを事前申請できる代理人(受け入れ企業など)がタイに存在せず、申請書類が準備できない事態が生じている。また在京大使館と総領事館(大阪)においては要求書類が異なるとの報告もあり、当局に対してしかるべき対応を。

【当局の見解】
申請受領確認に関しては、JTEPAの定めるところにより、日本からの就労者に対しては提出不要(注3)となっている。在京大使館や領事館において運用手続きが伴っていない事態に対しては早急に通知し、手続きの不要化および周知徹底を図る。

(注1)以下の同規則仮訳参照。
外国人の就労許可審査の原則についての雇用局規則
外国人就労許可審査における原則と条件についての雇用局規則(第二号)
(注2)労働省雇用局によると、2014年6月時点の外国人労働者数は154万人と報告されている。近隣の3ヵ国(ミャンマー、カンボジア、ラオス)からの外国人労働者に対しては、国家間の覚書、外国人就労法の改正(2008年)などにより、特定の業務または一時的な業務に対し、特別にワーク・パミットが与えられるためだ(期限は2年間で延長が1回可能なため最長で4年)。これらのほとんどが非熟練労働者とみられる。
(注3)前編(2014年9月11日記事参照)に詳細記載のとおり。JTEPAではその他、Bビザ取得者に対する90日までの滞在許可とワーク・パミットの付与保障(1年延長可)、300万バーツ以上の投資企業の企業内転勤者を対象にワンストップセンターを利用した申請手続きの許可、在留日本人に対する最低月収要件の緩和(6万バーツから5万バーツへ)などが盛り込まれ、協定発効に伴い即時実施されている。

(若松寛、伊藤博敏)

(タイ)

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