就労目的のビザ申請時には現地からの招聘状が必要−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(4)−

(タイ)

バンコク事務所

2014年09月11日

外国人がタイで就労する場合、90日間有効のノンイミグラントビザ(非移民ビザ)を取得して入国し、現地で滞在延長手続きを行うのが一般的だ。また入国後、直ちに査証とは別に国内で働くためのワーク・パミット(就労許可証)を取得する。また、査証の有効期間中に出入国を繰り返す場合、リエントリー・パミット(再入国許可)を別途取得する必要があるため注意が必要だ。タイ編の前編。

<就労はノンイミグラントビザ・タイプBを取得>
外国人がタイに入国・滞在する査証(ビザ)には、(1)トランジットビザ、(2)観光ビザ、(3)ノンイミグラントビザ(非移民ビザ)、(4)公用ビザ、(5)外交ビザ、(6)移民ビザ、(7)移民枠外の特例移民ビザ、(8)非公式外交・公用ビザの8種類が存在する。

種類別のうち、就労目的でタイに入国・滞在する外国人は、(3)ノンイミグラントビザの中の、通称「Bビザ」と呼ばれるノンイミグラントビザ・タイプB(ビジネスの略。以下、Bビザ)の取得が必要となる。また、企業の駐在員が家族を帯同する場合などは、帯同家族を対象にノンイミグラントビザ・タイプO(OthersのO)を取得する必要がある。

タイ外務省は、ノンイミグラントビザの目的別の発行状況を公表していないため、ビジネス目的の就労者に対する査証の発行件数は明らかではないが、2013年にタイ国外で発行されたノンイミグラントビザは合計24万6,788件と報告されている(表参照)。

在外タイ大使館・領事館における種類別査証(ビザ)の発行状況

<通常は90日間有効のシングルビザ>
日本のタイ大使館でBビザを申請した場合、通常90日間有効のシングルビザが発行される。1年間有効のマルチタイプの査証もあるが、就労や長期出張を目的としたBビザでは、マルチタイプが発行されるケースは極めてまれだ。

申請書類としては、所定の申請フォームや英文経歴書に加え、タイ側(就労先、提携先など)からの英文招聘(しょうへい)状(原本)、タイ側会社の登記簿コピー、日本の会社からの英文推薦状(原本)などの書類が求められる。管轄する大使館・領事館によっては、上記への追加書類を要求されることがあるほか、要求書式が異なるケースもあるため注意が必要だ。また、書類ごとに最低限必要となる記載事項を順守する必要があるため、詳細については申請する在日タイ大使館・領事館のウェブサイトなどで確認することが求められる。

なお、査証取得に際しての前提として、タイでは外国人職業規制法(1978年7月制定)により、そもそも外国人が就業できない職種(39業種)が規定されていることから、当該業種に該当しないことを事前に確認することが求められる。当該業種については、ジェトロの海外経済情報ファイル「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」で確認できる。

<現地からの招聘状入手が困難な事例も>
日本におけるBビザの申請において、申請企業がたびたび問題視するのが、申請書類の1つとして求められるタイ側(就労先、提携先など)からの英文招聘状(原本)の存在だ。特に、新たにタイに法人を設立し駐在員を派遣するケースなどの場合、招聘状を発出するタイ側法人(受け入れ企業)を確保することが難しく、同プロセスに必要以上の労力と時間を強いられるケースが多い。本件については、商工会やジェトロの現地事務所などを通じて、外務省や労働省雇用局に対して、柔軟な対応を繰り返し要請しているものの、書類手続きの改善は進んでいないのが実態だ。

その他、Bビザの申請書類の1つとして、タイでのワーク・パミットの事前申請の証明書が求められる事例が報告されている。これは、査証の発行申請者の受け入れを保証する企業(代理人)が、あらかじめタイ労働省・雇用局に対し、ワーク・パミットの事前申請(フォームWP3)を行い、これに従って雇用局が発行した申請受領確認(The letter of consideration of Form WP3)を日本での査証申請書類として添付するというもの。しかし、新規設立企業などの場合、ワーク・パミットを事前申請できる代理人(受け入れ企業など)がタイに存在せず、申請書類が準備できない事態が生じている。また在京大使館と総領事館(大阪)においては要求書類が異なるとの報告もある。

本件に関しては、2007年11月に締結された日タイ経済連携協定(JTEPA)第9章「自然人の移動」の第118条「自然人の移動に関する要件および手続き」のタイ側の約束として、「日本国の自然人が日本国において就労に関する非移民査証Bを申請する場合には、同節の規定に基づく就労許可の申請に係る証明は、通常必要とされない」との文言が明記されている。すなわち、日本でのBビザ取得の必要書類として、WP3の申請受領確認を求めないことが協定によって定められている。在京大使館における申請手続きにおいて当該書類を求められた際には、同協定を根拠に提出不要である旨を主張することが当面の対応策となる。

<査証、ワーク・パミットの取得ならびに延長の流れ>
図は、日本での査証取得から、タイ側法律に基づくワーク・パミットの取得およびそれぞれの延長手続きの流れを示したものだ。

タイでの労働を希望する外国人に対する標準的な手順

(1)在外タイ大使館・領事館にてノンイミグラントBビザを取得。
(2)入国審査で90日間の滞在許可を取得。
(3)滞在許可期限内にワーク・パミット申請を行う。
(4)通常、90日間の滞在許可期間内にワーク・パミットが下りる。このワーク・パミットの期限は滞在許可の期限と同日。
(5)査証とワーク・パミットの期限内に、まず査証の延長を申請し、入国日から1年間の滞在許可を取得。
(6)査証の延長許可後に、ワーク・パミットも延長申請をし、査証の期限と連動して延長される。
(7)さらに滞在をする場合は、滞在許可期間内に同手続きを行い、更新を繰り返していく。

タイ国外で取得した査証は、通常90日間までの滞在しか認められないため、それ以上滞在する場合は、期限までに査証の有効期限を延長する手続きが必要になる。最初の有効期限である90日間のうちに外国人労働法に基づくワーク・パミットを申請・受領し、同ワーク・パミットに基づき、査証の延長を受けるという手順だ。

査証延長の申請先は、タイ投資委員会(BOI)投資奨励企業、タイ工業団地公社(IEAT)認定工業団地入居企業、ならびに300万バーツ(約990万円、1バーツ=約3.3円)以上の投資(外貨持ち込み)を伴う現地法人・支店などは、ワンストップサービスセンター(OSOS)と呼ばれる合同庁舎となり、そこで後述のワーク・パミット取得と同時手続きが可能となっている。それ以外の企業は、移民局で延長の申請が必要となる。通常、移民局での審査には1ヵ月以上の時間がかかることから、審査期間中に当初の査証の期限が切れてしまうという事態が生じる。そのため、審査名目として当初は1ヵ月間ずつの期限延長が許可されることが多い。最終的な審査が終了すると、当初のBビザの期限から1年後を期限とする査証が発行される。

加えて、シングルビザは1回の入国しか認められないため、タイ入国後も業務上の都合などでタイを出国する必要がある場合は、タイの移民局でリエントリー・パミット(シングルとマルチがある)を別途取得する必要がある点にも留意しておく必要がある。

(若松寛、伊藤博敏)

(タイ)

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