就労許可証の有効期間が短縮、必要書面も追加に−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(7)−
ハノイ事務所
2014年09月17日
ベトナムでは、2013年5月に改正労働法が施行された。ベトナム人の雇用を優先して、ベトナム人ができない専門的な業務を行える外国人のみを受け入れる、という政府の方針が背景にある。この法改正により、就労許可証の有効期間が短縮されるなど、外国人の就労における規制が強化されている。
<就労許可証の有効期間は3年から2年に短縮>
新旧労働法において、外国人労働者に関する主要な制度変更点は表のとおりだ(注)。就労許可証(労働許可書)の有効期間が3年から2年に短縮された(延長は可能)。また、それまで必要のなかった「外国人雇用の必要性を説明する書面」を、赴任する30日前までに省、中央直轄市の労働傷病兵社会局に提出し、事前承認を受ける手続きが義務付けられた。この書面で、外国人労働者の雇用を必要とするポジション、人数、専門資格、経験、給与、雇用期間などを報告することになる。
労働法改正後の、就労許可証を取得するまでの流れは図のとおりだ。
就労許可証の申請時に提出する書類は以下のとおり。
○市・省レベルの人民委員会の委員長が承認した外国人の雇用に関する文書
○申請書
○健康診断証明書
○カラー証明写真
○パスポートの公証写し
○雇用契約書・任命状
○無犯罪証明書(ベトナムでは司法履歴書という)
○経歴や学歴を証明する書類
煩雑な制度のため、就労許可証の取得に苦労する企業が多い。ジェトロ・ハノイ事務所とベトナム日本商工会(JBAV)は、2014年5月に労働法のセミナーを開催した(2014年6月18日記事、6月19日記事参照)。過去最大規模の約250人が参加し、本テーマにおける企業の関心度の高さをうかがわせた。
<無犯罪証明書と経歴・学歴を証明する書類>
上記の就労許可証の申請時に提出する書類の中では、(1)無犯罪証明書(司法履歴書)、(2)経歴や学歴を証明する書類、の取得に関する問い合わせが多い。
(1)司法履歴書の取得について
就労許可証の申請時に提出する無犯罪証明書(司法履歴書)は、外国人労働者のベトナムでの居住履歴に応じ、以下のものを用意する必要がある。
a.過去にベトナムに居住していた者
○国際司法履歴センターの発行する司法履歴書
○直近の居住地(ベトナム国外)の管轄機関が発行する無犯罪証明書
パスポートにベトナムへの入国履歴がある者が対象になる。法改正の直後は、司法履歴書を取得する際に、過去ベトナムに居住していた際の居住証明書を提出する必要があった。しかし、知人宅に宿泊した際など、居住証明書を取得できない場合には司法履歴書の取得は実質的に不可能だった。こうした現状を受け、現在は司法履歴書を取得する際に運用上、過去の居住証明書の提出が不要になっていることが多い。
b.現在ベトナムに居住する者
○居住している市・省の司法局が発行する司法履歴書
○直近の居住地(ベトナム国外)の管轄機関が発行する無犯罪証明書
現在ほとんどの地域では、新しく赴任した者に対して上記のb.が適用される。ベトナムに入国する直前まで居住していた地域の管轄機関が発行する無犯罪証明書と、ベトナムに入国後の司法履歴書の提出が求められている。
c.ベトナムに居住したことがない者
○直近の居住地の管轄機関が発行する無犯罪証明書
(2)経歴や学歴を証明する書類について
就労許可証は、社長、管理者、専門家、技術者に発行されると規定され、それぞれ必要書類が規定されている。新法では、対象者が一部追加された。
a.管理者・最高経営責任者(CEO)(以下のいずれかの書類が必要)
○職位を証明する文書(雇用契約書、任命書、以前取得した就労許可証)
○就労していた機関・組織・企業による職位を証明する文書
b.専門家(以下のいずれかの書類が必要)
○当該分野で大学以上の学歴証明書および当該分野での5年以上の勤務経歴の証明書
○国外の企業などによる専門家であることを証明する文書
7月8日付政府決議47/ND−CPにより、上記大学卒業要件は撤廃されることが決定した。今後、通達の発行をもって改定内容が施行されることになる。
c.技術者(以下の書類が必要)
○管轄機関あるいは国外の企業が、当該分野で1年以上のトレーニングを行ったことを証明する文書
○当該分野で3年以上の勤務経歴の証明書
なお、専門家もしくは技術者についての提出資料の具体的な内容が当局から提示されていない段階であり、個別に確認をする必要がある。
<条件満たせば就労許可証の取得を免除>
以下の条件を満たす者は、就労許可証の取得が免除される。改正労働法および改正労働法施行細則政令102号で規定されている。法改正後は、一部要件が追加・変更となった。
○有限責任会社の出資者または所有者
○株式会社の取締役会の構成員
○国際機関、非政府組織の在ベトナム駐在員事務所、プロジェクトの代表者(一般企業の駐在員事務所は対象にならない)
○販売活動のために、ベトナムに3ヵ月未満滞在する者(あくまで販売活動のためなので、例えば駐在員事務所の設立目的では対象にならない)
○生産・経営に影響を与える、または与える恐れのある事故や複雑な技術上の不測の事態が生じ、ベトナム人専門家とベトナム滞在中の外国人専門家では処理できない場合、これらを処理するためにベトナムに3ヵ月未満滞在する者(具体的な条件の規定はないため、各企業の判断による)
○弁護士法の規定に基づいて、ベトナムで弁護士業の許可書の発行を受けた外国人弁護士
○WTO加盟の際、ベトナムが開放に同意した11のサービス分野における企業で、社内異動する外国人労働者(対象業種に合致していても、政府に手続きを取ってもらえず、結果的に就労許可証を取得しているケースが多いとのこと)
○法律の規定に基づく、外務省が発行したベトナムにおける報道の許可書を取得している外国人労働者
○外国の管轄機関の承認に基づき、外国の外交代表機関またはベトナムにおける国際機構が管理するインターナショナルスクールへ派遣される外国機関・組織の教師
なお、就労許可証の免除対象者は、勤務開始日の7日前までに労働傷病兵社会局に以下の書類を提出して、承認を受けなければならない。
○就労許可証発行不要の外国人労働者の承認申請書
○履歴書
○就労許可証発行不要の外国人労働者であることを証明した書類
(注)関連法令は以下を参照(いずれもジェトロ仮訳)。
○改正労働法(2013年5月1日施行)
○改正労働法施行細則政令102号(外国人労働者)(2013年11月1日施行)
○政令102号(外国人労働者)のガイドライン通達(2014年3月10日施行)
(金子信太郎)
(ベトナム)
ビジネス短信 540d36de06d60