学歴や職歴要件を厳格化、自国民の就労を優先−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(2)−

(インドネシア)

ジャカルタ事務所

2014年09月09日

インドネシアでは、堅調な経済発展により失業率の改善がみられるものの、高学歴層の失業率がいまだ高い水準となっていることもあり、就労許可においては、自国民の就業機会を優先するため、学歴や職歴などの要件を厳格化する傾向にある。また、日系企業における事業展開上、短期間出張者による緊急時の技術支援ができない、前任・後任の引き継ぎ期間を確保しにくいといった制度上の課題が指摘されており、円滑な事業運営の障害となっている。

<駐在員は就労目的の一時居住ビザを取得>
インドネシアで外国人が滞在し就労するためには、滞在許可と就労許可を取得する必要がある。主な滞在許可には、a.シングルエントリー訪問ビザ(インデックス番号211)、b.マルチエントリー訪問ビザ(同212)、c.到着ビザ(同213)、d.就労目的の一時居住ビザ(同312)があるが、このうち外国人駐在員が取得するのはd.の一時居住ビザだ。

滞在許可、就労許可を取得する手続きは以下のとおり。

(1)外国人従業員雇用計画書(RPTKA)の労働移住省への提出
外国人従業員の雇用を予定する会社は、外国人の数、職務、任期、賃金、勤務地、組織図などに加え、インドネシア人従業員への権限委譲計画やそのための教育計画を労働移住省に提出・申請する。いわゆる「外国人雇用枠」に当たり、人数は資本金、事業規模などで決定される。50人までは管轄局長承認、50人を超える場合には管轄総局長承認となる。また役職については、労働移住省はRPTKAにより外国人労働者が当該業務に必要か、また技術移転が期待できるかどうかを判断する。

(2)労働移住省による推薦状(TA−01)の申請
(1)の後、会社は労働移住省に対して外国人駐在員用ビザ発行のための推薦状(TA−01)発行を申請する。入国管理総局は、この推薦状を基に、下記(3)の一時滞在ビザ(VTT)を事前に承認し、最寄りの赴任予定者の出身国の在外インドネシア大使館へ送付する。

(3)在外インドネシア大使館によるVTT発給
一方、駐在予定者は最寄りの在外インドネシア大使館へ出向き、所定の手続きを行うことでVTTを取得する。ビザ取得後、90日以内にインドネシアへ入国をする必要がある。以下の流れは(5)へ。

(4)外国人就労許可(IMTA)発行
会社はビザ発給許可後、駐在員1人当たり月100ドル、1年分計1,200ドルの「外国人労働者雇用補償金(DKPTKA)」を指定銀行へ納付し、外国人就労許可(IMTA)を申請する。IMTAは、申請後10〜15労働日後に取得することができる。

(5)一時滞在許可(KITAS)発行
インドネシアへ入国した外国人駐在員は7日以内に地域の入国管理局で、一時滞在許可(KITAS)、マルチ出国再入国許可(MERP)などの手続きを済ませる。長期滞在(6ヵ月以上)の場合、KITASの最大滞在日数は1年間まで延長が可能だ。

<特定役職への外国人就任を禁止>
労働移住省によると、2013年の外国人就労許可の発行数は前年比34.8%増の9万7,645人だった(表1参照)。2009年以降の推移をみると、好調な対内直接投資の伸びとともに発行数が増加していることが分かる。職業別(2013年)では、プロフェッショナル(39.7%)、アドバイザー・コンサルタント(19.4%)、マネジャー(15.9%)、ダイレクター(9.5%)の順に多かった。国籍別にみると、中国、日本、韓国の順に多く、これら3ヵ国で全体の半数弱を占める(表2参照)。業種別では、サービス業が全体の60.7%、製造業が36.9%だった。

表1インドネシアにおける就労許可発行数推移
表2インドネシアにおける就労許可発行数推移(国籍別)

労働移住省は、近年、外国人労働者の就労許可を制限する方向にあるようだ。2013年9月16日付「ジャカルタ・ポスト」紙で、労働移住省・雇用総局長のウスマン氏(当時)は、2012年の許可発行数が前年より減少した点について、「インドネシア人への就業機会の確保を目的として外国人労働者の就労許可を制限した」と説明している。具体的には、労働移住大臣決定2012年第40号により、外国人に対して人事、雇用問題担当者などの特定役職への就任を禁止したことが功を奏したという。

<「学歴」の定義なく運用面で曖昧さも>
特定役職への就任禁止以外にも、外国人への就労許可に関して、学歴、職歴要件を厳格化する傾向がみられる。従来、製造業では最終学歴が高校、高専卒の外国人技術者にも就労許可を発行していたが、昨今は就労許可を認めない、もしくは滞在期間を半年に制限するなどの事例が多くみられる。2013年12月20日に公布された労働移住大臣規定2013年第12号では、就労許可の発行要件として、学歴、職歴の要件を「および/あるいは」から「および」へと変更した〔監査役(コミサリス)、取締役、興行サービス分野、一時的業務では適用されない〕。

ただし、同規定では「学歴」の定義を明示しておらず、運用面では曖昧さが残る。労働移住省は、学歴制限について大学以上を考えているようだが、一方で、長年の経験や技能を労働移住省側へ説明し、高校、高専卒の就労が認められる例もある。その他、60歳以上の就労について認めないケースがみられるが、この点については関連規定では明文化されていない(2014年3月18日記事参照)

中央統計庁(BPS)によると、学歴別の完全失業率(2013年8月時点)は、小学校卒業以下(3.5%)、中学校卒業(7.6%)、高等学校卒業(9.7%)、専門学校卒業(11.2%)、短大卒業(6.0%)、大学卒業(5.5%)と、高等教育を受けた人材の失業率が比較的高い水準となっている。世界銀行によると、昨今は高等教育を受ける層の割合が増加し、教育水準は高くなっているものの、就労に必要な技術能力・従業員として望まれるスキル(規律、信頼、チームワーク、リーダーシップ)を習得する機会が少ないとされ、企業側からみて中間管理職以上の人材が不足しているという。また、規制厳格化の背景として、2015年のASEAN 経済共同体(AEC)の発足により、周辺国からの外国人熟練労働者の流入が加速するリスクを回避しようという狙いもあるようだ。

<緊急性を伴う「就労」出張は実現が困難>
その他にも、外国人労働者の滞在・就労許可取得に関して、日系企業が事業展開する上で、留意すべき点が幾つか挙げられる。

まず、「就労」を伴う短期間の滞在許可に関するものとして、インドネシアへの出張者は、「商用」目的の場合、前述の到着ビザ(インデックス213)で滞在可能だが、工場内への立ち入り、業務指示、技術指導、機械のメンテナンスなどの業務やオフィス内にデスクがある場合には「就労」と見なされる。「就労」の場合、たとえ短期間の滞在であっても、滞在許可、就労許可を取得する必要があり、その手続きには、入国前1ヵ月、入国後2週間前後の日数を要する。これにより、実質的な必要滞在日数が3〜4日であっても、最低でも約2週間滞在せざるを得ない。工場などでの緊急性を伴う技術支援などのケースでは物理的に手続きが間に合わないため、出張を断念するケースも多くみられる。こうした課題について、日系企業からは、KITASの取得を義務付けない、新しい就労許可の要望が上がっている。

次に、引き継ぎ時における前任と後任の重複滞在が制度上、認められていない点が挙げられる(取締役を除く)。前任のKITAS保持者は滞在を終了するに当たり抹消手続き(EPO)をする必要があり、その後、14日以内に出国しなければならない。一方、後任者は前任者の抹消手続き後、初めて滞在許可の取得手続きを開始できる。必要な手続きは前述の「労働移住省による推薦状(TA−01)の申請」「在外インドネシア大使館によるVTT発給」だが、手続きには一定期間を要するため、前任者との引き継ぎの重複期間を確保するのは困難だ。

入国管理局(イミグレーション)でのビザ申請はオンラインシステムとなっているが、2013年11月から、ビザ申請処理数について1日500件という制限を設けており、これにより発給のスピードが遅くなっているという。システムダウンが日常的に発生する、オンライン申請でありながら別途書類提出を求めるといった実務手続き上の理由により発給に遅れがみられる。

<金融業の場合は異なるルールも適用>
また、金融業における就労許可については、他業種と異なり、インドネシア金融庁(OJK)によるフィット&プロパーテストと呼ばれる独自の試験を受ける必要がある。面接試験やインドネシア語のコミュニケーションを要件としている。従来、同テストは銀行の取締役を中心に実施されてきたが、昨今では保険やノンバンクなど適用範囲が徐々に拡大される傾向にある。

加えて、駐在員事務所にはa.外国駐在員事務所、b.外国商社の駐在員事務所、c.外国建設会社の駐在員事務所の3種類あるが、外国商社の駐在員事務所については、一部の商業活動が認められる一方、外国人1人の雇用に対して自国民3人を雇用することが求められている。他の駐在員事務所については、制度上、雇用枠は設定されていないが、運用上、同様のルールが求められる場合もあるとされる。

(藤江秀樹)

(インドネシア)

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