チュン副大臣、農業の近代化で日本企業に大きな期待−ベトナム投資促進セミナー(農業関連)(1)−

(ベトナム)

アジア大洋州課

2014年09月08日

ベトナム投資促進セミナー(農業関連)が8月22日、ジェトロ本部(東京都港区)で開催された。グエン・バン・チュン計画投資副大臣をはじめ、ベトナムからの訪日団は70人を超えた。ベトナム側は農業分野の高い潜在性を強調した一方、安全性や付加価値面での課題について説明があった。本セミナーを前半部、後半部の2回に分けて報告する。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<地方の要人含め70人規模の訪日団>
ベトナム投資促進セミナー(農業関連)(注)は、ベトナム計画投資省、在日ベトナム大使館とジェトロ、三菱東京UFJ銀行が主催した(プログラムは添付資料参照)。ベトナム側からはグエン・バン・チュン計画投資副大臣を筆頭にドー・ニャット・ホアン外国投資庁(FIA)長官、農業農村開発省、計画投資省、商工省、各市・省の投資促進センターなどの幹部が出席した。

このほか、ベトナムの地方政府からは、ハイフォン市、ゲアン省、タイビン省、ティエンザン省、ベンチェ省、ラムドン省、クワンガイ省、トゥエンクアン省の委員長(知事に相当)や副委員長が参加した。また、ハノイ市とビンフック省などの幹部も列席し、ドアン・スアン・フン駐日ベトナム大使も出席した。日本側は柱本修農林水産省大臣官房国際部国際協力課長、山岡寛和ジェトロ進出企業支援・知的財産部長(前ジェトロ・ハノイ事務所長)、松山安男三菱東京UFJ銀行ベトナム総支配人らが出席した。一般来場者とベトナムからの訪日団を合わせ、セミナーの参加者は約200人規模となった。

<日本の農産品は安心で信頼を置けると評価>
主催者あいさつで、チュン副大臣は「日本の農産品は安心、信頼が置ける。ベトナムの農業には高い潜在性があるものの、品質の面でさらなる向上が必要だ。日本は高付加価値な農産品を生産できるが、ベトナムではまだそうした産業に育っていない。日本企業には大きな期待を寄せている」と述べた。

続いて、フン大使は「農業は日本とベトナムにとって重要な産業だ。ベトナムでは7割が農村に住んでおり、その多くが農業に従事している。ベトナムのコメ輸出は世界2位を誇り、世界の食糧の安定に貢献している。また、チュオン・タン・サン国家主席が3月に国賓で来日した際には、農業関連で茨城県を訪問した。そのほか、日越議員連盟や国際協力機構(JICA)などもベトナムの農業に高い関心を持っている」と説明した。

主催者あいさつのチュン計画投資副大臣(ジェトロ撮影)

<日本企業にとって農業分野はビジネスチャンス>
ジェトロの山岡部長は「ベトナムはASEAN随一の親日国だ。外務省の対日世論調査では、ASEANにとって重要なパートナー国、最も信頼できる国で日本を最重要国として挙げている。日本はベトナム最大の投資国であり、ODAにおいても最大供与国だ」と良好な日越関係に言及した。また、近年のベトナムの経済情勢にも触れ、「2012〜2013年と2年連続で貿易黒字を記録した。ただ携帯電話が輸出を牽引したが、これを除くと、いまだ競争力の高い輸出産品を持ち合わせていない」と指摘。さらに、工業化戦略が6業種に選定された経緯にも触れ、農業分野に関しては「ベトナムの工業化にとって農業の近代化は重要になる。日本で当たり前なものは、ベトナムの農業近代化で重要なステップになるだろう。日本企業にとっても大きなビジネスチャンスになる」と参加者に向けて提言した。

<農業分野に充実した投資恩典を用意>
ホアンFIA長官からは「農業の高度化に向けた農業投資政策」と題し、農林水産業における日本からの投資、法人税、輸入税の免税、土地賃料減免に関する説明があった。同長官は「日本企業はベトナムの農林水産業に高い関心を示している。日本から農林水産業向けの投資(累計)は34件、1億4,100万ドルを記録している。木材、水産品、果実の加工やコメの精米、ウナギの養殖などで日本企業の投資が行われている。ベトナムはハードインフラ、人材、制度面で課題があり、政府としてもこれら課題を克服するため改革を図っている」と説明した。また、一般の投資は法人税が22%(2016年から20%)だが、「農業分野の優遇基本税率は20%(2016年から17%)で、2〜4年間の免税、その後の4〜9年間は50%の減税措置がある。また、進出地域などの条件によってはさらなる優遇が用意されている(2014年2月27日記事参照)。ジェトロの『投資コスト比較調査』にもあるとおり、ベトナムへの投資コストは他国に比べて低く有望だ」と述べた。

200人規模の参加者で満員となった会場(ジェトロ撮影)

<日本基準の導入に前向き>
農業農村開発省のディン・ファム・ヒエン国際協力課長は「農業の高度化に向けた取り組み」と題し、農業分野の現状と今後の課題について説明した。同氏は「農業は不況時に大きな役割を果たす。しかし、近年は農業分野の成長率が横ばいないし減少傾向にある。ベトナムは新しい経済発展段階に入った。また、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をはじめ、各国・地域との自由貿易協定(FTA)の交渉を進めている。FTAにより農業市場は拡大していくだろう」と現状と今後の可能性に言及した。

また、同氏はベトナムの農業を発展させていく上での課題として、「ベトナムの農産品は原材料として輸出されている。付加価値を付けられていない。高品質な農業にするためには、チャンピオン製品を作る必要がある。農業の裾野産業や生産方式も変える必要があるだろう」と指摘した。さらに、「食品の安全性は重要な課題であり、輸出先国の基準を満たす農作物を生産する必要がある。これについて、日本は高い加工技術を有しており、日本基準を標準化したいと考えている。そして、メコンデルタや中部沿岸地域に農業の産業集積を形成したい」と抱負を述べた。

<グローバル・フードバリューチェーンの構築が重要>
セミナー前半部で最後となった農林水産省の柱本課長は「2020年に日本の食市場規模は67兆円(2009年比15.5%増)と予測されているが、日本を除く世界の食市場規模は680兆円(2倍)になると見込まれている。これからはグローバル・フードバリューチェーンの構築が求められる。構築に当たってのASEANの地域別戦略では、東西・南部の経済回廊などの物流ネットワークとの連携、食品工業団地、コールドチェーンなどの整備など(農林水産省『グローバル・フードバリューチェーン戦略』参照)が重要になる」と締めくくった。

(注)三菱東京UFJ銀行とジェトロは、ベトナム投資促進セミナー(農業関連)とは別に8月21日、ベトナム投資促進セミナー(裾野産業)を東京都内で開催。同セミナーにはチュン副大臣らが出席した。

(大久保文博)

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