外国人の労働許可取得に試験制度を導入−試験科目はロシア語・歴史・法律の知識−

(ロシア)

モスクワ事務所

2014年08月29日

外国人が労働許可を取得する際に、ロシア語、ロシアの歴史、ロシアの法律に関する知識を証明する書類の提出が2015年1月1日から義務付けられる。証明書を取得できる試験は2014年9月1日から始まる。試験制度の導入により、日系企業の駐在員が証明書を取得する必要のない高度熟練専門家(HQS)のステータスに切り替える動きが加速するとみられる。一方で、労働許可の取得が困難になるとの声も出ている。

<合格証明書を提出しない場合は労働許可が無効>
2014年4月20日付連邦法第74−FZ号「ロシア連邦における外国人の法的地位に関する連邦法の改正」により、2015年1月1日以降、ロシアで労働許可を取得する際に外国人はロシア語、ロシアの歴史、ロシアの法律に関する知識を証明する書類の提出が必要となる。同連邦法に基づき、労働許可証の発行日から30日以内に連邦移民局の地域支部へ当該書類を提出しなくてはならない。提出しない場合は労働許可が無効となる。2015年1月1日までに労働許可を入手した外国人労働者については、労働許可の延長を申請する際に当該書類の提出が必要となる。

ロシア語、ロシアの歴史、ロシアの法律に関する知識を証明する書類としては、これら3つの試験科目の合格証明書のほか、1991年9月1日までに旧ソ連邦内の高等教育機関により発行された教育証明書、1991年9月1日以降、ロシア国内で国家資格審査に合格した者に発行された教育・資格に関する証明書が該当する。

他方、HQSや国立の専門教育機関もしくは高等教育機関で働きながら学ぶ場合、労働許可取得に際して証明書の提出は不要となる。また、同連邦法第15条1項には留保条件が明記されており、別途、ロシアとの2国間条約などで規定されていれば、証明書の提出が免除となる場合もある。

連邦移民局によると、今回の改正の目的は不法滞在の外国人を減らすことと、外国人がロシアでの生活に順応することを促すことで、フランスやドイツにおける事例を参考にしているという。既に2013年1月1日から、住宅公共サービス、小売り、家事業務サービス分野で働く外国人に対しては、ロシア語の能力を証明する書類の提出が義務付けられている。

<歴史と法律の試験問題は基本的なものに>
ロシア語、ロシアの歴史および法律の知識に関する証明書を取得するためには、外国人労働者は外国人向けの試験に合格する必要がある。試験の実施および証明書の発行は、当該試験の実施機関の登録簿に掲載されているロシア国内および外国の教育機関で行われる。合格証明書については、連邦教育科学監督局が管理する統一情報システムに登録される。

ロシア語、ロシアの歴史、ロシアの法律に関する試験は同時に実施される。ロシア語の試験は、外国人向けのロシア語能力試験(TRKI)の基礎レベルの問題が出題され、リーディング・文法、スピーキング、ヒアリング、ライティングに分かれている。歴史および法律の試験については、3つの選択肢から1つを選び回答する形式となっている。

歴史の受験準備に当たっては、19の歴史的な出来事の日付や約50人の軍人、作家、政治家など歴史上の人物名を覚える必要がある。また、法律の試験問題の半分以上は移民に関するもので、そのほか家族法や新しく導入された連邦法に関する質問も含まれるという(ノーボスチ通信8月11日)。

試験問題の作成に携わっているロシア民族友好大学によると、歴史や法律の試験はロシア人でもうろ覚えの事項が多く、難しいとの指摘があったため、できるだけ基本的なものにしたという。また、これらの試験問題の設問は簡単な文章になっており、受験時の辞書の持ち込みも可能になる見込みだという。

合格証明書の有効期間は5年間で、有効期限が過ぎた場合は試験を再受験する必要がある。受験は有料で、現時点で詳細な金額は決定されていないが、1回当たり約5,000ルーブル(約1万4,500円、1ルーブル=約2.9円)となる見込み。不合格の場合は何度でも再受験することができ、再受験に当たっては既に合格した科目は免除され、不合格の科目のみ受験することができる。その場合、受験料も変わる可能性がある。試験の合否は受験後すぐに判明するが、合格証明書の受領には約10日間かかる。

<受験センターと受験準備講座を9月に開設>
ロシア民族友好大学によると、受験センターと受験準備講座は9月に開設され、講座は基本的に高等教育機関の下に設立される。受験センターと講座に関する情報はロシア・テスト・コンソーシアムおよび教育科学省のウェブサイトで検索できるという。

また、9月1日の試験開始に向け、ウェブサイト上に学習用ポータルサイトが開設される見込みで、受験の準備に必要な情報が掲載されるようだ(ノーボスチ通信8月11日)。

<日系企業からは試験制度の撤廃求める声も>
2010年にHQSのカテゴリーが導入され、同カテゴリーの外国人労働者は労働許可割り当て枠(クオータ)の対象外となったことから(2010年6月29日記事参照)、日系企業の中には駐在員をHQSのステータスに切り替える動きがあったが、今回の改正を受けてこの動きがさらに加速するとみられている。

他方、HQSへの切り替えが困難な日系企業の多くからは悲鳴が上がっている。モスクワ・ジャパンクラブが会員企業にアンケートを実施したところ(7月9日に結果発表)、「現地法人や駐在員事務所で働いている日本人はHQSへの切り替えが難しく、またロシア語が日常会話程度か全くできない場合は、来年から労働許可を取得するのが困難」「次の駐在員候補がいなくなる。非合理的な非関税障壁であり、試験制度の撤廃を働き掛けたい」「日ロの2国間協定により、日本人の労働許可取得においてロシア語などの試験免除を規定してほしい」などのコメントが寄せられた。

(齋藤寛、エカテリーナ・クラエワ)

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