進出日系企業、課税運用の厳格化に困惑−フィリピンビジネス環境の今(3)−

(フィリピン)

アジア大洋州課

2014年08月13日

フィリピンに進出している日系企業は、税務上の課題に直面している。フィリピン経済区庁(PEZA)に登録し、優遇措置を受けている企業(PEZA登録企業)が、免税措置期間後の特別税(5%)計算上の費用計上において控除が認められない費用が発生している。またPEZA登録企業に限らず、非PEZA登録企業においても、日比租税条約に基づく軽減税率適用の手続きが依然として煩雑との声も多い。シリーズ最終回。

<PEZA登録企業の損金算入が厳格化>
PEZA登録企業は、優遇措置として4〜6年の法人税免税措置(30%)が得られ、免税期間終了後は、総所得(Gross Income earned)に対して5%の特別税が課されることになっている。この総所得の計算が厳格化されていることが、PEZA登録企業の間で問題になっている。

特別税の対象となる総所得の計算において、売上高から控除可能な費用は、製造に係る直接労務費、原材料費、賃料などの9費目とされている(注)。PEZAはもともと事業に対して投資優遇措置を付与しており、PEZAに登録している事業にかかる原価が対象になるが、内国歳入庁(BIR)は9費目以外の費用も柔軟に認めてきた経緯がある。

しかし、BIRは2012年に方針を転換、費用の査定を厳格化し、「9費目以外は認めない(「exclusive」という単語を使い、9費目のみ認められることを強調)」とした(2012年1月4日付BIR RULING No.014−2012)。具体的には、海外の親会社などに支払う商標権使用料、技術料などのロイヤルティー費用をはじめ、間接労務費、修繕費などの控除が認められなくなった。ある電気・電子部品を製造するPEZA登録企業も「従来認められていた管理者の工場運営部分の費用、例えば社長の給料は50%、兼務者の給料は100%が控除できなくなった」という。

BIRはフィリピンの財政状況に鑑み、徴税を強化する方向だ。BIRは法律で定められている費用を厳格に査定しているだけとはいえ、進出日系企業にとっては以前に認められていたものが認められなくなっており、BIRの方針転換が進出日系企業を困惑させているといえる。

<租税条約に基づく軽減税率適用の事前手続きはいまだ煩雑>
日本とフィリピンの間で締結されている日比租税条約では、フィリピンに進出する日系企業が日本の本社(親会社)への配当を送る場合などに軽減税率が適用されることになっている。配当については、フィリピン国内法では30%が課税されるところ、同軽減税率の10%が適用される。しかし、この軽減税率適用を受けるためには、事前に租税条約軽減申請(TTRA)という煩雑な手続きを踏まなければならず、進出日系企業の間からは手続き負担に対する不満の声が多い(2013年9月13日記事参照)

この煩雑な事前手続きはいまだ改善されていないものの、2013年10月にフィリピン最高裁でドイツ銀行の利益送金について判決が出されたことが注目されている。本件の経緯は、(1)ドイツ銀行マニラ支店が本国に利益送金した際、フィリピン国内法に基づき15%を源泉徴収し、BIRに納税した。その後、ドイツ・フィリピン間の租税条約に基づく軽減税率が10%のため、差額5%の還付請求をした、(2)BIRは2010年に「軽減税率を適用する配当、ロイヤルティーなどの送金の15日前までに『事前』申請するよう指示した2000年の通達を厳格に適用する通達」を出していた、(3)ドイツ銀行の還付申請は「事後」申請となったため、税務裁判所で争われたものの、そこでは否認された。しかし、最高裁ではドイツ銀行が勝訴して還付が認められた。この判例を受けても、現在のところBIRは事前手続きが不要とは明示していないが、今後、手続きの簡素化につながるのか注目される。

<移転価格税制が将来の課題にも>
ベトナムやインドネシアなどで課題となっている移転価格税制については、フィリピンではいまだ進出日系企業で問題視されていない。しかし、2013年2月に移転価格税制に係る通達(R.R.No.02−2013)が出されており、いずれ移転価格税制に係るBIRの調査が行われるとみられる。将来の調査に備えた移転価格算定に係る書類の作成などをしておくべきだろう。

(注)PEZA登録企業が特別税の対象となる総所得の計算上において売上高から控除可能な9つの費用は、PEZA法(共和国法7916号)Rule XXに以下のとおり規定されている。
○Direct salaries, wages or labor expenses(直接労務費)
○Production supervision salaries(製造指導に係る給与)
○Raw materials used in the manufacture of products(製造に使用された原材料費)
○Goods in process(intermediate goods)(仕掛品の費用)
○Finished goods(完成品の費用)
○Supplies and fuels used in production(製造に使用された消耗品費や燃料代)
○Depreciation of machinery and equipment used in production and buildings owned or constructed by an ECOZONE Enterprise(製造に使用された機械・設備の減価償却費)
○Rent and utility charges associated with building, equipment and warehouses, or handling of goods(建物、設備、倉庫などの賃料・使用料)
○Financing charges associated with fixed assets(固定資産に係るファイナンス費用)

(小島英太郎、倉沢麻紀)

(フィリピン)

生産拠点や消費市場としての魅力が高まる−フィリピンビジネス環境の今(1)−
マニラのトラック規制が企業活動に多大な影響−フィリピンビジネス環境の今(2)−

ビジネス短信 53e85d24c2948