ロシアが制裁に対抗、5ヵ国・地域の農産物などを1年間禁輸−日本は対象から除外−

(米国、EU、ロシア)

モスクワ事務所

2014年08月08日

政府は8月7日、今後1年間ロシアへの輸入が禁止となる品目と対象国・地域を発表した。本措置は前日発表された大統領令に基づくもの。輸入禁止品目は主に食肉、水産物、牛乳・乳製品、野菜・果物で、対象国・地域は米国、EU、カナダ、オーストラリア、ノルウェーの5つに限定された。日本やスイスは対ロ制裁措置導入国だったが、対象外となった。

<肉や乳製品、野菜・果物、魚の輸入を禁止>
ロシア政府は8月7日、「2014年8月6日付ロシア連邦大統領令第560号『ロシア連邦の安全保障を目的とする特定の特別経済措置の適用について』(2014年8月7日記事参照)の実施に関する措置」を公示した。米国、EU、カナダ、オーストラリア、ノルウェーを原産地とするリストに記載された農産品、原材料、食料品のロシアへの輸入が1年間禁止される(表参照)。

ロシアへの輸入禁止品目

輸入禁止となった場合、対象品目の急激な価格上昇が予想されるため、連邦政府や地方政府は商品市況のモニタリングを行い、関連業界団体などとともに価格の調整を図る。併せて、農産品や食品の生産者と協力し、これらの供給増を目指す。

他方、子供の栄養補給を目的とした商品や個人が外国で購入した製品は対象外となる。

<ロシアの地方政府は歓迎>
本措置の導入により、大きな影響を受けるのはEUだ。EUのビガウダス・ウシャツカス駐ロシア大使は、EUのロシアへの輸出総額の10%を農産品と食料品が占めるため、EUは約120億ユーロの損失を受けると指摘する。

他方、ロシアの地方政府は歓迎の声明を出している。食肉、卵、乳製品の出荷量が多いクラスノダル地方のアレクサンドル・トカチェフ知事は「農業関係企業のトップと本件について協議した。全体的に楽観ムードであり、生産者は潜在能力の全てをもって対応する」とコメント。アストラハン州のアレクサンドル・ジルキン知事も「低品質の輸入品がロシア市場から消えるチャンス。ロシアの農業は今、生産増、製品の多様化、加工技術の発展の歴史的な好機を与えられている」と歓迎している(「RT」8月7日)。

<小売りチェーンは代替調達先の確保に動く>
ロシアの小売り大手は、国産品や中国、トルコ、中南米諸国、アフリカからの輸入に切り替える動きを始めている。小売りチェーン最大手のX5リテールグループは東南アジア、関税同盟諸国のサプライヤーとも協力関係を広げており、中国、トルコ、イラン、エジプト、その他の国々とも積極的に協力しているという(「RBKデイリー」紙8月7日)

輸入食料品を中心に取り扱う高級小売りチェーンのグローブス・グルメのアンドレイ・ヤコブレフ代表は「輸入禁止の対象となった製品の大部分を代替することができる。例えば、食肉をオーストラリア産からアルゼンチン産に変えるといったことだ。幾つかのものは近いうちに類似の品質のものに変更する。代替が難しい製品は乳製品、チーズ、肉のデリカテッセン(総菜)だ。とはいえ、当社のサプライヤーは長期保存できるデリカテッセンについて2〜3ヵ月分の在庫を抱えている」と指摘する。

中・低価格主体の食料品小売りチェーン、ディクシのエカテリーナ・クマニナ渉外担当ディレクターは「当社が取り扱う食肉、乳製品は全てロシア産で、牛乳の輸入品の割合は0.5%にすぎない。ノルウェー産の赤身の魚が少しあるが、ベニザケ、ギンザケ、カラフトマスなどのサーモン類は暫定的に極東の調達先を開発している。他方、果物は季節によっては欧州産が50%を占める。代替案として、アジア諸国、中南米、アフリカやロシアのクラスノダル地方やスタブロポリ地方、さらにはセルビア、マケドニア、トルコ、ベラルーシからの調達を増やすことを検討している。消費者にとっては快適でない状況となるが、新しいブランド、新しい製品、新しい味覚の提案を市場に行うことが可能となる」と述べた。

メトロ・キャッシュ・アンド・キャリー(ドイツ)ロシア法人のオクサナ・トカレワ広報担当長は「ロシア市場へ進出後、メトロは大部分の製品をロシアで調達している。われわれは、特定の品目の輸入制限の影響はこうむるが、ロシアにおける当社のビジネスへの影響は限定的だ」とする。

その一方、ロシアへの輸入制限措置と通貨ルーブル安の減少により、食肉や乳製品の値上げは避けられないと予測する向きもある。ロシアの調査PR関連サービス会社インフォライン・アナリチカのミハイル・ブルミストロフ代表は「8〜9月には少なくとも5〜10%価格が上昇する。野菜や果物に関しては、ロシアの収穫季節でもあり、状況は幾分か緩和するが、ロシアの卸売業者は、販売価格と小売価格の上昇は避けられないと感じている」と指摘する。

<EUがWTOルール違反で提訴の可能性も>
イタルタス通信(8月7日)によると、EUはロシアの輸入禁止措置を解除するようWTOに働き掛ける準備を行っているとして、「政治的動機による大規模な貿易禁止措置はWTOルールに抵触する。本措置はWTOへの提訴に向け周到に分析されるだろう」との外交筋のコメントを伝えている。

これに対して、「コメルサント」紙(8月6日)は「ロシアはWTOの枠内での提訴に対し準備をしており、仲裁機関の決定を尊重する構えだ。しかし、WTO決定の採択には時間がかかるため、その間にロシアの生産者の競争力を強化する支援を行う戦略だ」と分析している。

<ウクライナの航空会社のロシア上空通過を禁止>
輸入制限措置とは別に、メドベージェフ首相は8月7日、ウクライナの航空会社がロシア上空を通過することを禁止すると発表した。ウクライナとアゼルバイジャン、グルジア、アルメニア、トルコとの便が対象となる。また、アエロフロート子会社の格安航空会社ドブロリョートへの制裁への対抗措置として、欧州の航空会社がアジアに向けて飛行する際に、シベリア上空の通過を禁止する措置を導入する可能性があると言及した。ドブロリョートはEUによる制裁の影響を受け、8月4日に運航の一時休止を発表している。

(齋藤寛)

(ロシア・米国・EU)

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