欧州委、TTIP交渉の進捗状況を初めて公表−第6回交渉前に透明性の確保図る狙い−

(米国、EU)

ブリュッセル事務所

2014年07月16日

欧州委員会は7月11日、14日からのEU・米国間の包括的な貿易投資協定(TTIP)の第6回交渉に先立ち、これまでの交渉状況の概要を公表した。市場アクセス、規制項目・分野、協力のルール・原則・方法の3分野について、透明性確保の観点から、交渉の進捗状況を初めて明らかにした。

<物品貿易や関税率など6項目の交渉状況を公表>
EUと米国は7月14日から5日間にわたる包括的な貿易投資協定(TTIP)の第6回交渉をブリュッセルで行っている。欧州委は同交渉に先立ち、7月11日にTTIPの交渉状況を公表した。概要は以下のとおり。

1.市場アクセス
(1)物品貿易
双方は相違を漸進的に減らしていくことを視野に、統合テキストの基礎に関する作業(注1)を行っている。加えて、米国側は農業分野の市場アクセスに関するペーパーを提示している。

(2)関税率
双方は最初の関税率オファーを交換し、オファーに関する技術的な質問を交換した。

(3)サービス
特定のテーマに関し、交渉はこれまでのところ、国境を越えるサービス貿易、金融サービス、通信サービス、電子商取引に関するテキスト(条文)ベースでの議論や、金融サービスにおける規制協力に関するEUのポジションペーパーについての意見交換、専門サービスに関する予備的協議を含む幅広い問題をカバーしている。

(4)サービスと投資
米国はサービスと投資に関する最初のオファーを提示した。EUのオファーは間もなく提示される予定。サービス・投資の章の構成に関する議論も開始した。

(5)投資保護
テキストに関する協議はEUのパブリックコンサルテーション(公開諮問)の結果が出るまで延期される。

(6)公共調達
協議は既に、双方が準備している統合テキスト案によるテキストベースでの段階に入っている。双方は、調達交渉に関する次のステップも議論している。

<規制調和の可能性を探る情報交換や協議継続>
2.規制項目・分野(Regulatory Component)
(1)規制調和
双方は数種類のペーパーを交換した。互いの規制制度の内容と、どのように、いつ、どのプロセスを通じて、米国とEUそれぞれが(規制調和に)関与していけるかという点について、より理解を深めていくことを目指し、情報交換に徹底して取り組んでいる。

(2)貿易の技術的障害
貿易の技術的障害の章のためのあり得る要素に関する予備的協議により、双方はテキスト案の提示に進めるようになる。それぞれの提案はまだ協議中。

(3)衛生植物検疫措置(SPS)
幾つかの側面については深い協議がまだ必要だが、SPSの章の概要に関するほとんどの要素の共通理解は既に得られた。テキストベースでの協議の土台を準備していくことを視野に入れ、双方は「過去の経験で実践した」(注2)SPSの特定条項を挙げ、協議を深めた。

<産業別9分野で規制協力の可能性を模索>
(4)分野別協議
次の各分野では協議が継続中だ。

a.繊維
双方はラベル条項や消費者の安全性要件、繊維基準のような共通関心分野に関する技術的な議論を行った。

b.化学
潜在的な協力分野に関わるプロセス、手続き、基準について情報交換が前進し、これをどのように実践に移すのかを検討する段階にある。

c.医薬品
双方がそれぞれのシステムをより良く理解できることを視野に協議した。特に、医薬品や医薬部外品の製造管理および品質管理の基準(GMP)や小児科学、バイオシミラー(バイオ後続品)、ジェネリック(後発医薬品)のような問題が協議された。

d.化粧品
これまでの協議は、化粧品の成分規制、ラベル条項、化粧品の基準/ガイドライン(GMPなど)、動物実験の代替などのプロセスに焦点が当てられた。協議はEUと米国のそれぞれの立場を一層明確にし、重要な共通関心分野での技術協力や科学交流を強化するための弾みを与えた。

e.医療機器
これまでの協議は、機器ごとの個別の識別コード(UDI)、規制対象製品の提出(PRS)、医療機器単一監査プログラム(MDSAP)に重点が置かれた。協議はそれぞれの立場を明確にし、双方の規制制度の機能をよりよく理解する一助となった。協議は技術的なレベルで継続する予定。

f.自動車
双方は全ての主要な分野に関する包括的な意見交換を行った。特にそれぞれの規制制度、既存技術の同等性の範囲とアプローチ、自動車の国際技術規則に関する1998年協定の下での、および将来の規制と調査計画に関する協力について協議した。

g.情報通信技術(ICT)
双方はICTに関し、e−ヘルス(インターネットなどのICTを活用して、健康づくりに役立つ情報・サービスを利用または提供すること)や暗号化、e−アクセシビリティー(障害を持つ人たちが電子的技術および情報技術にアクセスできることの、技術側からみた確実さの程度)、e−ラベリングのような幾つかの特定項目に関する分析を交換した。

h.エンジニアリング
EU側はエンジニアリング産業に関するペーパーを提示した。エンジニアリング分野(機械、電気・電子機器)に関する協議は特定機種に焦点が当てられている。

i.農薬(殺虫剤)
双方は協力可能な特定分野に関する最初の意見交換を行った。

<中小企業に関する協力の概要は合意>
3.協力のルール・原則・方法
(1)エネルギー/原材料
双方はそれぞれの規制の枠組みに関する詳細な情報を交換した。また、TTIPのエネルギー/原材料の章のためのEU側の説明ペーパーについても詳細な議論を行った。

(2)貿易と持続可能な開発/労働と環境
これまでの協議は、貿易と持続可能な開発条項のあり得る範囲に関する詳細な意見交換を可能にするもので、テキスト案を交換するための土台作りを視野に、本質的な環境と雇用問題をカバーしている。

(3)原産地規則
双方はそれぞれのテキスト案を統合テキストに組み込む作業を行っている。次の段階として、双方は内容と製品の個別ルール案を作成する協議も行う意向を示している。

(4)競争法
これまでの協議は、双方が統合テキストに反映するテキスト案を作成した独占禁止法や合併に関連した条項に重点が置かれた。国有企業や補助金の双方に関する予備的見解も交換された。

(5)知的財産権/地理的表示(GI)
双方は知的財産権に関する章の構成の明確化と、協議すべき潜在的主題の特定を目的とする協議を現在行っている。EU側は優先する項目を明示した。GIに関しては、EUと米国の目的に関する協議が行われた。

(6)紛争解決
紛争処理条項のために、双方が条項のテキスト案を提示し、テキストベースでの協議が開始された。双方が提案したその他の分野では現在、統合テキストを作成しようとしている。これは投資家対国家の紛争解決(ISDS)のことではないことに留意〔1.(5)投資保護を参照〕。

(7)中小企業
双方は、中小企業に関する協力や情報共有、中小企業委員会の3つの主要要素をカバーする中小企業の章の概要について合意した。同協議はテキスト案の基礎に関するものへと進んでいる。

(8)貿易救済措置
セーフガードに関する米国側のテキスト案をベースに協議が行われており、それぞれのアプローチが違う分野を特定することを目指している。

(9)税関と貿易円滑化
税関と貿易円滑化では、交渉すべきテーマの初期リストについて合意し、双方からほとんどの部分のテキスト案が提示された。それぞれのテキスト案を統合テキストにまとめる作業が行われている。双方はまた、データ要件(注3)を皮切りに、長期的な協力と規制の整合に役立つ項目を検討することで合意した。

(注1)統合テキストとは、双方の主張を盛り込んだ条文案のこと。基礎に関する作業とは、条文案について初期の交渉段階にあることを指すとみられる。
(注2)2013年7月に欧州委が発表したTTIP交渉におけるSPSに関するポジションペーパーによると、1999年に米国とECが調印した「生きた動物および動物製品の貿易における公的健康と動物の健康の保護に関する衛生措置」(VEA)でうまくいった部分とそうでない部分を踏まえて協議を進めるべきとしている。
(注3)貿易円滑化については、貿易における国際的な貨物のやり取りに必要なデータの処理も協議の対象に含まれる。このデータの要件を指すとみられる。

(田中晋)

(EU・米国)

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