日系企業の昇給率に低下の兆し−JCCII賃金実態調査(1)−
ニューデリー事務所
2014年07月09日
インド日本商工会(JCCII)は6月26日、「第8回賃金実態調査結果」を発表、2013年の日系企業の昇給率に低下の兆しが出ていることが明らかになった。同調査はJCCII会員企業(主にデリー首都圏の日系企業)に加え、ムンバイ、チェンナイ、バンガロールなどを含むインド国内の計7つの日本商工会・日本人会の会員企業839社を対象に実施した。調査結果を2回に分けて報告する。
<昇給率は高水準ながら見込みを下回る>
2013年のインド経済はインフレ抑制のための金融引き締めやルピー安を背景に需要が減退し、実質GDP成長率が2年連続で5.0%を下回る4.7%にとどまるなど、日系企業にとっての事業環境は厳しいものだった。
こうした中、日系企業の昇給率(2013年実績)は、スタッフ11.8%、ワーカー13.1%となり、依然として高水準ながらも、前回調査時の見込みを下回った(表1参照)。
<2014年も低下見込まれるも農作物の価格上昇が懸念>
2014年の昇給率見込みについては、景気減速に加え2013年後半からインフレが落ち着きをみせ始めていることを踏まえ、スタッフ11.5%、ワーカー11.6%と2013年実績をさらに下回ることが予想されている。ただし、2014年の雨期の降水量が全土平均で例年より40%ほど少なく、農作物価格の上昇も懸念されている。今後の賃金動向を推測する上では、これにも十分留意する必要がある。
地域別に昇給率をみると、日系メーカーの進出が目覚ましい北部のハリヤナ州やラジャスタン州で、全国平均を上回る昇給率を示しているのに加え、北部に比べて相対的に賃金が安いとされる南部のタミル・ナドゥ州などでも高い昇給率を記録しており、日系企業の進出が進むほとんどの地域で賃金が2桁の上昇をみせていることが明らかとなった(表2参照)。
<セールス担当職の賃金上昇が顕著>
2013年の職種別の賃金(平均月給、諸手当込み)で、特に増えたのはセールス担当職で、8万453ルピー(約13万6,770円、1ルピー=約1.7円)と、前年の5万7,131ルピーから大幅に上昇した(表3参照)。元来、セールス職はほかの職種に比べて離職率が高く、優秀な人材を確保するために、賃金水準を高く設定せざるを得ない現状が背景にある。
一方、管理職クラスでは景気減速などを背景に賃金の低下がみられた。例えば、部長級が26万1,429ルピー(前年32万8,006ルピー)、課長級が13万2,264ルピー(15万9,051ルピー)と低下、製造業はライン管理者4万4,345ルピー(5万4,695ルピー)、エンジニア上級職3万9,126ルピー(4万7,017ルピー)となった。非管理職クラスではこうした賃金水準の低下がみられなかった。その要因について、進出日系企業の幹部は「賃金水準の決定には、インフレ率が重要な指標になるのは間違いない。さらに、賃金や待遇に対する不満が発端となることが多い労働争議を回避するためにも、特に労働組合員(非管理職クラス)については一定の昇給は避けられない」と説明した(表4参照)。
<福利厚生制度は医療費支給・補助が最も普及>
スタッフ向けに最も普及している福利厚生制度は、従来どおり「医療費支給・補助」(有効回答企業の80.8%が採用)であり、「通勤費支給・補助」(61.5%)、「有給休暇」(58.2%)、「住宅手当」(37.6%)などの制度がこれに続いた。
ワーカーについても、トップは「医療費支給・補助」(有効回答企業の54.3%が採用)で、続いて「通勤車・バス手配」(49.3%)、「食事手当」(45.0%)、「有給休暇」(36.4%)となった。
(原囿慶大)
(インド)
離職率は低下も、人材確保が依然課題−JCCII賃金実態調査(2)−
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