規制強化に伴い煩雑化する外国人の就労手続き−改正労働法セミナー開催(2)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2014年06月19日

ベトナム改正労働法セミナーの後編は、「労働許可書の取得手続き」について、AICベトナム(AIC Vietnam)の斉藤雄久代表の講演内容を引き続き紹介する。政府はベトナム人の雇用を優先し、ベトナム人ができない業務を行う専門の知識・経験を持つ外国人のみを受け入れるという方針のため、外国人就労への規制が厳しくなっている。

<条件満たせば労働許可書の取得を免除>
一定の条件を満たす者は、労働許可書の取得が免除となる。この条件は以下のとおり。なお、詳細については「2012年6月18日付労働法」「外国人の就労申請に関する政令No.102/2013/ND−CP」に規定されている。

○有限責任会社の出資者または所有者
○株式会社の取締役会の構成員
○国際組織、非政府組織の在ベトナム駐在員事務所、プロジェクトの代表者(一般企業の駐在員事務所は対象にならない)
○販売活動のために、ベトナムに3ヵ月未満滞在する者(あくまで販売活動のためなので、例えば駐在員事務所設立目的では対象にならない)
○生産・経営に影響を与える、または与える恐れのある事故や複雑な技術上の不測の事態が生じ、ベトナム人専門家とベトナム滞在中の外国人専門家では処理できない場合、これらを処理するためにベトナムに3ヵ月未満滞在する者(具体的な条件の規定はないため、各企業の判断による)
○弁護士法の規定に基づいて、ベトナムで弁護士業の許可書の発給を受けた外国人弁護士
○WTO加盟の際、ベトナムが開放に同意した11のサービス分野における企業で、社内異動する外国労働者(対象業種に合致していても、政府に手続きを取ってもらえず、結果的に労働許可書を取得しているケースが多いとのこと)
○法律の規定に基づく、外務省が発行したベトナムにおける報道の許可書を取得している外国人労働者
○外国の管轄機関の承認に基づき、外国の外交代表機関またはベトナムにおける国際機構が管理するインターナショナルスクールへ派遣される外国機関組織の教師

<ハノイでの労働許可書の申請手続き事例>
労働許可書の申請先は、市・省の労働傷病兵社会局、あるいは工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、経済特区の管理委員会だ。採用予定日の遅くとも30日前までに、外国人労働者の雇用が必要であることを説明する報告書を提出する。労働許可書の新規申請の場合は、外国人労働者の勤務開始予定日の遅くとも15営業日前に申請をする。申請後10営業日以内に、当局が労働許可証を発給する。申請書類は、健康診断書、無犯罪証明書については申請日から6ヵ月以内のものが有効となる。なお、労働許可書の申請時に提出する書類は以下のとおり。

○市・省レベルの人民委員会の委員長が承認した外国人の雇用に関する文書
○申請書
○健康診断書
○投資証明などの公証写し
○カラー写真(4センチ×6センチ)
○パスポートの公証写し(全ページ)
○雇用契約書・任命状
○無犯罪証明書(ベトナムでは「司法履歴書」という)
○経歴や学歴を証明する書類

無犯罪証明書、経歴や学歴を証明する書類については不明瞭な点が多く、企業からの問い合わせも多いので、以下で詳細に触れる。

<混乱も招いた無犯罪証明書の取得手続き>
無犯罪証明書の取得手続きの際に提出する書類は、通達「No.03/2014/BLDTBXH」で次のように定められている。

(1)過去にベトナムに居住していた者
○国家司法履歴センターが発行する司法履歴書
○直近の居住地の管轄機関が発行する無犯罪証明書
パスポートにベトナムへの入国履歴がある者が対象になる。従来は過去の居住証明書を提出する必要があり、知人宅に宿泊した際など、居住証明書を取得できない場合の司法履歴書の取得は実質的に不可能だった。そのため現在は運用上、過去の居住証明書の提出手続きは不要になっているとのこと。

(2)現在ベトナムに居住する者
○市・省の司法局が発行する司法履歴書
○過去に居住していた地域の管轄機関が発行する無犯罪証明書
北部の大半の地域では、新たに赴任した者に対して本手続きが必要。赴任日から申請書提出までの期間の、ベトナムでの司法履歴書の取得が義務付けられている。

(3)ベトナムに居住したことがない者
○直近の居住地の管轄機関が発行する無犯罪証明書

<経歴や学歴を証明する書類などで質疑応答>
本人が以下の(1)〜(3)のいずれかによって、提出書類が変わる。当該事項については、セミナーの質疑応答の際に出席者からの質問が集中しており、主な質問とその回答について後述する。

(1)管理者・最高経営責任者(CEO)の場合(以下のいずれかの書類が必要)
○職位を証明する文書(雇用契約書、任命状、以前取得した労働許可書)
○就労した機関、組織・企業による職位を証明する文書

(2)専門家の場合(以下のいずれかの書類が必要)
○当該分野で大学以上の学歴の証明書、および当該分野での5年以上の勤務経歴の証明書
○国外の企業などによる専門家であることを証明する文書

(3)技術者の場合(以下の書類が必要)
○管轄機関あるいは国外の企業が、当該分野で1年以上のトレーニングを行ったことを証明する文書
○当該分野で3年以上の勤務経歴の証明書

質疑応答で出た主な質問と回答は以下のとおり。全体的に、経歴や学歴を証明する書類に関する質問が目立った。

問:労働許可の免除対象者で、「WTO加盟時にベトナムが開放に合意した11のサービス分野における企業で、社内異動する外国人労働者」とは具体的にどういうことか。

答:日本の親会社で1年以上勤務した社員がベトナムの子会社に赴任した場合のことだ。

問:当社は高卒者や管理職経験がない者が大半だが、「経歴や学歴を証明する書類」は、どのカテゴリーで作成すればいいか。

答:専門家や技術者として申請することになると思う。一方で、その場合の提出書類についての細則が出ておらず、個別に当局に説明する必要があると思う。

問:技術者に管理職としての職位で赴任してもらうことを検討中だが、「経歴や学歴を証明する書類」は、管理者と技術者どちらで作成するべきか。

答:管理者として申請する方が手続きは容易だが、日本で管理者としての経験がないようであれば、技術者として申請するしかない。

問:健康診断の受診医療機関と受診項目について。

答:ハノイには幾つかの指定病院がある。国外の病院は特に指定されていないが、ハノイでは運用上、国外の病院で受けた健康診断書も認められているようだ。受診項目については規定されている。

今回のセミナーの参加者は過去最多の規模となり、労働法に対する日系企業の関心の高さをうかがわせた。労働許可書の取得手続きは煩雑化しており、労務全般の罰則規定も厳しくなっていることから、専門家と相談の上、所定の手続きを進めることが重要だ。

(金子信太郎)

(ベトナム)

日系企業の関心高いが、罰則規定は見落としがち−改正労働法セミナー開催(1)−

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