日系企業の関心高いが、罰則規定は見落としがち−改正労働法セミナー開催(1)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2014年06月18日

ジェトロとベトナム日本商工会(JBAV)は5月29日、ハノイ市内で「ベトナム改正労働法に基づく実務上の問題点」をテーマにセミナーを開催した。改正労働法に対する在ベトナム日系企業の関心は高く、出席者は約250人に上った。セミナーの概要を2回に分けて報告する。前編は労働法関連の「見落としがちな罰則事例」について。

<労務問題には多くの日系企業が関心>
ベトナムでは、2013年5月1日から改正労働法が施行されている。旧法に比べて、外国人労働者に関する言及が多いことに加え、具体的な施行通達が出ていない部分が多かったため、ジェトロ・ハノイ事務所にも多くの質問が寄せられていた。

今回のセミナーでは、日系会計・コンサルティング事務所AICベトナム(AIC Vietnam)の斉藤雄久代表が講師となり、「見落としがちな罰則事例」のほか、「労働許可書の取得手続き」(後編で報告)について解説した。

セミナー会場の様子/講演する斉藤代表

「見落としがちな罰則事例」についての講演内容は以下のとおり。

(1)労働法関連の違反行為と罰則
ベトナムの法令・規則に従って事業活動を行う日系企業が多いため、労働法関連で罰則を受けた日系企業の事例は少ない。そのため、罰則についてはあまり知られていないのが現状だ。しかし、旧法と比べると罰金額は全体的に引き上げられ、「1〜3ヵ月の営業停止」といった新たな処分も加えられている。

セミナーで挙げられた罰則と主な事例を紹介する。

a.雇用契約書の締結に関する法令違反
○罰則:違反した人数に基づき、最高2,000万ドン(約9万6,000円、1ドン=約0.0048円)の罰金(旧法では20万〜1,000万ドンの罰金)

○事例1:3ヵ月以上の固定的な雇用契約に対して文書を締結しない。
○事例2:労働法第22条の規定に基づく正当な雇用契約書を締結しない。

例えば同規定では、被雇用者との有期限労働契約(満12ヵ月〜36ヵ月)は2回までとされており、その後、被雇用者が引き続き就労する場合は無期限労働契約を締結する必要がある。規定回数以上の有期限労働契約を締結した場合は、労働法違反となる。

b.賃金に関する法令違反
○罰則:違反した人数に基づき、200万〜500万ドンの罰金(旧法では罰則規定なし)

○事例1:賃金テーブル、賞与規定の作成に当たり、社内労働組合代表部の意見をヒアリングしない。
○事例2:被雇用者に対し、支払日の少なくとも10日前までに賃金の支払い形式について通告しない。

ここ数年でベトナムに進出した日系企業は、社会保険に加入するために進出当初から賃金テーブルを作成している企業が多い。しかし、その前からベトナムに進出している企業で賃金テーブルがない場合は注意が必要だ。例えば、税務調査の際に社会保険料の支払い根拠がないなどの理由で支払保険料などの損金算入が認められないといった事態も想定される。

c.外国人の就労に関する法令違反
○罰則:最高6,000万〜7,500万ドンの罰金、当局判断により1〜3ヵ月の営業停止を検討、および就労者の国外退去(旧法では1,500万〜2,000万ドンの罰金、就労者の国外退去)

○事例:労働許可書の免除対象者以外を、労働許可書を取得せずに就労させる。

労働傷病兵社会局は、労働許可書がない外国人労働者を確定した日から15営業日以内に、公安機関に対しその者を追放することを要請する。

d.職場での対話に関する法令違反
○罰則:200万〜500万ドンの罰金(旧法では罰則規定なし)

○事例:雇用者が労働法に基づく労働組合などとの対話を3ヵ月に1回実施していない。または、要求があったのに対話を行わない。

労働組合がない場合は、地域の労働団体と対話しなければならない。対話を実施する際は、証拠として議事内容に双方がサインした書面を残しておくことが有効になる。

(2)行政当局による査察
査察の実施機関としては、省レベルの労働傷病兵社会事務局、工業団地管理委員会、税務署、労働団体、などが挙げられる。ただし、査察の頻度や内容に関しては規定がない。省レベルの労働傷病兵社会事務局へのヒアリングによると、毎年無作為に選択して企業の査察を実施している。例えばハノイ市の場合、同市に存在する13万社の中から毎年約100〜200社を査察しているという。

こうした査察により、違反行為の指摘を受けた際に対処法としてまず行うべきことは、「指摘内容について根拠法を示すように依頼する」ことだ。担当者が根拠なく指摘していることも多く、企業からの相談案件のうち約6割はこの方法で対処できるという。

(3)違反が発生しやすい事例
a.組合費の納付
労働組合がない企業でも、社会保険料を納付するための根拠となる基本給の2%の組合費を支払わなければならない。2014年1月10日以降は全ての雇用者が負担の対象となっている。組合費の支払先は、事業所内に組合が設立されている場合は組合に65%、上部の労働団体に35%、組合が設立されていない場合は上部の労働団体に100%納付する必要がある。ただし、いずれの場合も外資企業が直接的な影響を受けるような罰則はなく、地域によっても対応が異なるようだ。例えば、ホーチミン市では区ごとに労働団体があり、納付を請求されるケースが多い一方、ハノイ市においては今のところそうした話は少ない。

b.出入国時の労働許可書の携行義務
外国人就労者が出入国手続きを行う際および国の管轄機関が要求する場合、労働許可書を提示する必要がある。担当官の要求に対して、パスポートか他の代替書類、あるいは出入国に関係する書類を提示できない場合、50万〜200万ドンの罰金を科される。実際、駐在員が日本から帰国した際、ノイバイ空港で労働許可書の提示を求められたが携行しておらず、罰金を科されたという事例も起きている。こうした場合、公証済みの労働許可書(写し)を携帯しておくなどの対処法が考えられる。

<罰金は少額だが波及リスクは大きい>
現状では、労働法関連で罰則を受けた日系企業はほとんどなく、個々の罰金も少額だ。しかし、労働法関連の違反行為は露見しやすく、内部告発されるリスクも高い。実際、自社の違反行為を理由に従業員から脅迫された事例もある。また、違反行為をしている企業で不法ストライキが発生した場合、違反行為を理由に企業にとって不利な解決策を出されることもある。そのほか、違反行為に関連した支出が損金不算入とされるリスクも高く、労働法違反の罰金だけでは被害額が収まらない可能性もあるため、十分に注意が必要だ。

(平野雄士)

(ベトナム)

規制強化に伴い煩雑化する外国人の就労手続き−改正労働法セミナー開催(2)−

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