投資ネガティブリストを3年ぶりに見直し−新たに11分野で外資出資に上限−
ジャカルタ事務所
2014年05月14日
政府は4月23日付で、大統領規定2014年第39号「投資分野において閉鎖されている事業分野および条件付きで開放されている事業分野リストに関する規定」を公布した。投資の禁止・規制業種、外国企業による出資上限比率などを定めた大統領規定2010年第36号(投資ネガティブリスト)を改定したもので、外資による出資制限分野の変更、農業分野の規制強化のほか、11分野で新たに外資出資上限などが定められた。従来は外資出資100%が認められていたディストリビューター、倉庫の分野は33%に引き下げられた。今回の改定について、国内の経済団体からはおおむね歓迎の声が上がっている。
<改定前に承認済みの投資は対象外>
大統領規定2010年第36号は、投資ネガティブリストで内国、外国企業が事業参入できない分野、条件付きで開放されている分野、外国企業による出資上限比率などを業種ごとに規定している。今回の投資ネガティブリストの改定は3年ぶりで、関係省庁、産業界との調整を経て大統領規定として公布された。2013年11月には議論が進められていた草案のうち開放分野を、12月末には閉鎖分野を一部公表したものの、目標とされていた2013年中の改定は国内調整の遅延や2014年4月上旬に総選挙を控えていたことなどから実現しなかったが、4月23日付でユドヨノ大統領が署名、公布され、翌24日に施行された。
規定改定に伴い、ジェトロ・ジャカルタ事務所では、大統領規定2014年第39号の原文を入手して日本語に仮訳した。本大統領規定は、本文と別添I、IIから構成されている。原文と仮訳は以下のウェブサイトを参照。
○本文:原文、仮訳
○別添:原文、仮訳
別添Iでは、「内国企業、外国企業を問わず民間企業の事業参入が禁止されている分野」が規定されている。2010年第36号では6事業20分野が規定されていたが、今回の改定では7事業15分野となった。一方、別添IIは、「条件付きで開放される事業分野」のリストとなっており、外国企業による出資上限と参入条件が事業分野別に規定されている。2010年第36号では17業種274分野について、改定後は16業種216分野について規定されている。2010年第36号にあった「17.警備分野」は、新規定では「6.国防・警備分野」に統合され、業種が1つ減って16業種となった。
別添Iと別添IIに記載されていない分野は、無条件に開放されている(第3条)。また、規定の改定前に承認を受けた既存投資については対象外とする経過条項(いわゆるグランドファーザー条項)が規定されている(第9条)。
<ディストリビューターと倉庫は外資上限33%に>
投資調整庁(BKPM)が4月29日、30日に開催した投資セミナーでは、ネガティブリスト改定のポイントとして、大きく4種類のタイプに分類し説明が行われた。BKPMが挙げる主な変更点は下記のとおり。
(1)外資規制を緩和する分野(9分野)
エネルギー・鉱物資源分野では、発電(10メガワット未満)、送電、配電について、官民連携(PPP)による事業である場合は100%の外資出資が認められる。それ以外はこれまでと同様の95%(表1参照)。運輸分野では従来は内資、外資を問わず参入が禁止されていた原動機付き車両の形式試験の運営、陸上貨物・旅客ターミナルの運営で、いずれも運輸相からの推薦状の取得を要件として49%までの外資出資が認められる。これまで出資上限が75%だった製薬分野は85%に緩和された。映画宣伝設備(広告、ポスター、スチール、写真、スライド、フィルム、バナー、パンフレット、旗、フォルダーなど)はこれまで外資の参入が認められていなかったが、ASEANからの出資を条件として51%までの出資が認められる。
(2)外資規制を強化する分野(5分野)
エネルギー・鉱物資源分野で、従来95%までの外資出資が可能だった陸上および海上での石油・ガス採掘サービスについて、陸上サービスは内資企業に制限され、海上サービスは75%が上限とされた(表2参照)。同じく95%まで外資出資が認められていた石油ガス施設の運転・保守サービス、設計・エンジニアリング、電力設備据え付けは、いずれも内資企業に制限された。また、通信分野ではコンテンツサービス、情報サービスセンター(コールセンター)、データ通信システムサービス、インターネット相互連結サービス(NAP)で外資上限を49%とした。
(3)農業分野(5分野)
園芸法(法律2010年第13号)の規定に適合させるため、農業分野で外資出資上限を規定した。いずれも出資制限を30%まで引き下げ、規制を強化している(表3参照)。
(4)これまで規定されなかった分野(11分野)
2010年第36号で規制されていなかった分野、すなわち外資企業による100%出資が可能だった分野のうち、今回の改定で11分野について新たに外資出資上限などを規定した(表4参照)。ディストリビューター、倉庫を33%に引き下げるほか、冷蔵保管についてはジャワ島、スマトラ島、バリ島では上限を33%、その他の地域では67%とした。また、インターネットを通じた小売りについても内資100%に制限された。
前述のBKPMセミナーでの説明によると、貿易会社(輸出入)については、別添IIに規定がないことから依然外資企業100%での設立が可能ではあるものの、輸入品について必ずディストリビューター(外資上限33%)を通して国内流通させる必要があるとの説明がなされている。BKPMによると、4月24日より新規定にのっとり、新規投資申請の受付をしているという。
<国内産業界はおおむね歓迎の意>
国内産業界は新ネガティブリストをおおむね歓迎しているようだ。インドネシア商工会議所(KADIN)のスリスト会頭は、「国内産業界の利害を考慮した上での改定」と好感を示し、国内産業にノウハウや技術が不足している分野では外資による技術移転が必要とコメントしている。インドネシア経営者協会(APINDO)のフランキー事務局長は、発電事業、製薬、映画宣伝設備分野での外資への規制緩和について同様の意見を述べている。一方、大手製薬のファイザー、ノバルティス、サノフィなどが加盟する外資系製薬団体(IPMG)のシマンジュンタク会長は、製薬分野で外資出資上限が緩和されたが、投資が大幅に増える見込みはないとコメントしている。ノウハウや特許の開示に対して消極的で、秘密保持の観点から地元企業との合弁が条件となることが障害になるとみているようだ。
(藤江秀樹)
(インドネシア)
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