日EU・EPA/FTAの早期合意の重要性を確認−第22回日EU定期首脳協議を開催−

(日本、EU)

ブリュッセル事務所

2014年05月09日

日EU定期首脳協議が5月7日、ブリュッセルで開催され、日EU経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)を早期に合意することの重要性を再確認した。また、協議終了後の記者会見で、欧州理事会(EU首脳会議)のファンロンパウ常任議長は同EPA/FTAが、政治協力などを強化する戦略的パートナーシップ協定(SPA)と併せて、今後の日EU間の関係強化の重要な基礎になることを強調した。さらに、安倍晋三首相は同EPA/FTAの2015年中の大筋合意を目指す目標を明らかにした。

<戦略的パートナーシップ協定とEPA/FTAが今後の日EU関係の2本柱に>
第22回目となる日EU定期首脳協議が5月7日、日本からは安倍首相、EUからは欧州理事会(EU首脳会議)のファンロンパウ常任議長と、欧州委員会のバローゾ委員長の出席の下、ブリュッセルで開催された。同定期協議後に共同プレスが発表され、そのうち、日EU・EPA/FTAの動向を中心とする経済関係部分の主な内容は以下のとおり。

(1)今後数十年にわたる、政治的で、グローバルな、そして分野別の、より深い協力のための健全な基礎となる、包括的な分野を対象とする戦略的パーナーシップ協定(SPA)の締結に向けた決意を再確認する。この約束を履行するに当たり、われわれは交渉者に野心を維持し、可及的速やかに交渉を妥結するよう課す。

(2)日EU間の貿易および経済関係の強化の重要性、ならびに、この点で、とりわけ物品、サービスおよび投資における市場アクセス、鉄道を含む調達、ならびに、非関税措置に関連する問題に効果的に対処することにより、極めて重要な役割を果たし得る、高度に包括的かつ野心的なEPA/FTAの早期の締結の重要性を再確認する。物品貿易において、市場アクセスのオファーが交換されたことや、他の分野においても着実な進展がなされたことを歓迎する。調達、ならびに、サービス貿易および投資における野心的な市場アクセスのオファーの早期交換に向けた決意をあらためて表明する。

(3)昨今の世界経済の改善の兆し、とりわけEUおよびユーロ圏における経済成長の回復、ならびに、日本における持続的な成長を歓迎する。EUの経済政策における主要な優先事項、すなわち競争力、成長および雇用の促進ならびに経済通貨同盟(EMU)の強化を目標とする構造改革の実行を認識する。安倍政権の経済政策である「アベノミクス」の成果に留意し、とりわけ大胆な規制・構造改革を目標とする、強化された成長戦略の観点から、日本経済の展望について、意見交換を行った。

<BRTを通じて、産業界との協力を促進>
(4)日EU経済関係のさらなる発展に対する日・EUビジネスラウンドテーブル(BRT)の積極的かつ継続的な貢献を認識し、さまざまなグローバルな課題に取り組むべく関係を一層強化するため、とりわけBRTを通じた双方の産業界との協力を促進するとの決意を再確認する。関税、非関税措置、調達、投資、サービス、競争、知的財産権、地理的表示および規制協力が含まれるべき「重要な懸案事項の解決に、EU・日本両政府が、より一層注力し、包括的、野心的、ハイレベルかつ互恵的なFTA/EPAを可能な限り早期に締結するよう再度要請する」との、4月にBRTによって採択された提言を歓迎する。また、日EU・EPA/FTAの早期実現を全力で支援するとのBRTの決意に強く勇気づけられた。

(5)アジアおよび欧州諸国間の対話と協力のためのフォーラムとしてのアジア欧州会合(ASEM)を高く評価する。他のASEM参加国とともに、「持続可能な成長と安全保障のための責任あるパートナーシップ」とのテーマの下にミラノで2014年10月16日および17日に実施予定のASEM第10回首脳会合において、共通の関心事項に取り組むことを楽しみにしている。

<情報通信、運輸、税関、競争法、産業政策など幅広い分野での対話・協力が前進>
(6)このほか、「分野別の対話および協力において順調な進展がみられたことを確認し、満足している」とし、情報通信技術、運輸、税関、競争、エネルギー、人物交流などの分野が示された。幾つかを抜粋すると以下のとおり(注)。

○治安、安全、石油依存、エネルギー効率、温室効果ガスなどの共通の挑戦に対処する上で中心的な分野となる運輸面での協力の強化を目指す。協力の拡大に関する共通の利益を探るため、航空に関する対話を継続していく。海運の質、公平な競争の場と開放された市場を促進するために、日EU海事政策対話を通じた緊密な連携を継続していく。とりわけ、日EU鉄道産業間対話の文脈において、鉄道分野におけるグローバルなビジネスの機会を推進するよう努める。

○WTO貿易円滑化協定の交渉妥結を受け、正当な貿易取引を円滑にするため、税関当局間および世界税関機構(WCO)を通じた緊密な協力の必要性を強調する。さらに、そうした協力を通じサプライチェーンの安全を確保することの重要性について再確認する。認定事業者制度(AEO)の相互承認の実施やリスク管理などの税関分野のさらなる協力を進展させていく。

○世界経済のグローバル化を考慮し、競争法の執行におけるこれまでの協力を歓迎し、2003年の反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協力の規定に基づき、この分野におけるさらなる関係の促進のための取り組みを進展させることについて関心を示した。

○2014年4月の日EU政策産業対話の成果を歓迎しつつ、日EU双方におけるさらなる経済成長を達成すべく、産業政策に関する協力を深めることの重要性を再確認する。同対話の枠組みにおいて、とりわけ自動車分野をはじめとする国際基準の適切な適用を通じた適合性および調和を目指して、強制規格、任意規格および適合性評価手続きにおける協力を強化する意思を強調する。

○日本またはEU域内から輸出される食品および飼料中の放射線核種に対する制限措置が残されていることに留意しつつ、貿易に対する不必要な障壁を解消するために、食品および飼料中の放射線核種の水準に関するデータ、ならびに、食品および飼料中の汚染物質および毒素に関するコーデックス一般規格の原則に基づき、これらの措置を科学的に見直すよう取り組む。

これらに加えて、「マクロ経済政策、金融規則、雇用、環境、漁業を含む幅広い分野・領域における日EU間の揺るぎない協力を強調する」と表明された。また、「ブリスベーン・サミットにおいて発表される予定の包括的な成長戦略を含め、G20におけるコミットメントに従って、強力で、持続的で、バランスが取れ、かつ、包摂的な成長を確保する政策の重要性を強調する」とした。財政の持続可能性の確保についても言及された。また、「第9回WTO閣僚会議の成功に引き続き、両首脳は、野心的なかたちでの、貿易円滑化協定(TFA)に関する閣僚決定における作業の時宜を得た完了および同協定の速やかな実施に向けて協力することを決定した」。

環境エネルギー分野では、温暖化対策に言及されたほか、「原子力エネルギーの平和利用のための最高水準の安全性およびセキュリティーを達成するために協力し、原子力安全に関する対話および協力を強化していく。このことは、2014年にハーグで開催された核セキュリティー・サミットにおいて再確認されたばかりの目標を実施していくことを含むものである」とした。科学・技術・イノベーション分野、宇宙分野(2014年後半に日EU宇宙政策対話の第1回会合を開催することの決定など)、サイバー空間分野(日EUサイバー対話の立ち上げの決定など)での協力も表明された。このほか、「より安全で安定した世界に共同して貢献するために、危機管理における協力を含む平和および安全保障分野での日EU間の協力およびパートナーシップを強化する決意を再確認する」とした。ウクライナ問題への対応などの国際レベルの問題についても、日EU間の協力について言及された。

<交渉開始から1年の見直し後の交渉加速に期待>
欧州理事会のファンロンパウ常任議長は日EU定期首脳協議後の記者会見で、安倍首相との間で、政治協力や分野別協力を強化する戦略的パートナーシップ協定(SPA)と日EU・EPA/FTAが次の10年間に向けた双方の戦略的パートナーシップの重要な基礎を形成するものであるという認識で一致したことを明らかにした。その上で、「交渉は現在、重要な段階にあり、日EU・EPA/FTAの(交渉開始から)1年後の見直し(条項)が承認されれば、野心のレベルを引き上げ、これらの交渉を迅速に行い、成功裏に妥結しなければならない。双方の市場のさらなる開放は世界規模の貿易と経済の成長に利益をもたらす」と強調した。

一方、日本の安倍首相は日EU・EPA/FTAについて、協議後の記者会見でEUとの間で早期妥結の重要性を確認したことを明らかにするとともに、「2015年中に大筋合意することを目指している」と述べた。

定期協議後の記者会見に臨む安倍首相(左)、欧州理事会のファンロンパウ常任議長(中)、欧州委員会のバローゾ委員長(右)

なお、欧州委員会が閣僚理事会から得ている日EU・EPA/FTAのマンデート(権限委任)には、日本側が非関税障壁の撤廃で、EU側が満足する進展を示せなければ、交渉開始から1年後に交渉を停止する条件(見直し条項)がつけられている(2012年11月30日記事参照)。5月8日に開催されたEU外相理事会で、欧州委員会のドゥ・グヒュト委員(通商担当)が日本とのEPA/FTA交渉の進捗について、日本の非関税障壁の撤廃に関する約束の実施状況に関する報告書の主要な部分を説明し、1年後の見直しに関する初めての議論が行われた。欧州委員会は同理事会の翌週中に報告書を完成させる見込みで、5月23日に予定される貿易政策委員会(TPC)(欧州委と加盟国代表で構成)で検証されるとみられる。

(注)共同声明文の仮訳全文は外務省ウェブサイト参照。

(田中晋)

(EU・日本)

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