インラック首相失職、ニワットタムロン副首相が職務代行−憲法裁判所が国家安全保障事務局長の人事に違憲判決−

(タイ)

バンコク事務所

2014年05月09日

憲法裁判所は国家安全保障事務局長の人事について違憲判決を下し、インラック首相と9閣僚が失職した。今後は、ニワットタムロン副首相兼商務相がインラック氏の職務を代行する。今回の判決は、反政府側が期待していた内閣全体の憲法違反とはならなかったことから、決定的なものとはいえず、政治混乱の解決の糸口がみえない状況が続いている。

<閣議決定に加わった9閣僚も失職>
憲法裁判所は5月7日、2011年9月のタウィン国家安全保障局事務局長を首相顧問とする人事は、首相の近親者(タクシン元首相の妻の兄)を国家警察本部の長官に据えるための人事であり、自己などの利益のために公務員などの人事に介入することを禁ずる憲法に違反している、との判決を下した。この結果、インラック首相と当時閣僚として同人事の閣議決定に加わった9閣僚が即時に失職した。失職した9閣僚は、プラチャ副首相、プロードプロソプ副首相、キティラット副首相兼財務相、スラポン副首相兼外相、チャルーム労働相、サンティ首相府相、ユタサック副国防相、アヌディット情報技術通信相、シリワット副農業・協同組合相。

憲法裁判所の判決後、臨時の閣議が行われた。ポンテープ副首相は閣議後の記者会見で、(1)ニワットタムロン副首相兼商務相がインラック首相に代わり、暫定首相の役割を担うこと、(2)5月9日午後に選挙管理委員会と次期選挙についての会合を行うことについて決定したと述べた。

<反政府デモ隊が大規模デモを実施へ>
一方で今回の判決は、反政府デモ隊を主導する人民民主改革委員会(PDRC)が求めていた、内閣全体の失職や、反政府側の提案する中立的な政府が樹立されることへの期待を裏切るかたちとなった。PDRCのステープ元副首相は、憲法裁判所の判断を受け、4月12日に行うとしていた「最後の戦い」と称する大規模デモを、5月9日に実施すると、5月7日夜の演説で表明した。同氏は、9日のデモの計画について、反政府デモ隊は午前9時9分に主要拠点であるルンピニ公園からラチャダムリ通りとパトゥムアン交差点に向かい、参加者が多ければアンリ・デュナン通りにもデモを拡大するとしたが、具体的な内容については明らかにしなかった。

<下院選挙のやり直しをめぐって疑問の声も>
政府と選挙管理委員会は、憲法違反によって無効となった2月2日の下院選挙のやり直しの日程について、新しい勅令に基づき7月20日に投票を実施することで合意しており、勅令の発出を急いでいた。しかし、カムヌーン・シティサマン上院議員は、代行のニワットタムロン副首相兼商務相では、新しい選挙日を設定するための勅令を提出できないのではないかと、首相の代行の法的な権限について疑問を呈している。これについてソムチャイ選挙管理委員長は、首相の失職は選挙の実施に影響はなく、選挙管理委員会は7月20日の選挙について準備を進め、誰が首相の代行になろうと、国王の署名を求めるために勅令を提出するのは義務である、と語った。

また、インラック氏に対しては、今後、国家汚職防止委員会が、もみ米融資担保制度の不正にかかる職務怠慢(監督責任)問題により、刑事訴追の決定をする可能性がある。また、暫定首相の役割を担うとされるニワットタムロン副首相兼商務相も同制度には直接的に関わっており、弾劾手続きの対象となる可能性がある。

<政治混乱解決の糸口みえない状況続く>
今回の憲法裁判所の判断は、閣僚全体が憲法違反で失職するといった決定的な判決とはならなかった。現与党を支持する反独裁民主戦線(UDD、通称:赤シャツ)も5月10日にバンコク西部で大規模な集会を予定していたものの、下院選挙のやり直しが予定どおり行われる見込みにあることから、いまのところ過激な行動は起こしていない。今後、下院選挙が実施されたとしても、反政府側の妨害は確実とみられることから、政治の混乱は解決の糸口がみえない状況に変わりはない。

なお、タイの政治情勢をめぐる相関図はジェトロのウェブサイト参照。

(伊藤博敏、若松寛)

(タイ)

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