ブチッチ新政権発足、最優先課題は経済再建

(セルビア、欧州)

ウィーン事務所

2014年05月02日

セルビア進歩党(SNS)のアレクサンダル・ブチッチ党首を首班とする新政権が4月27日、発足した。SNSは、3月16日に行われた議会選挙で単独過半数を超える議席を獲得し議会第1党となっていた。EU加盟やコソボ共和国との関係改善など課題が多い中、新政権の最優先課題は低迷が続く経済の立て直しだ。

<第1党のSNS党首が首相に就任>
4月27日の議会(一院制)で、中道左派SNSのブチッチ党首を首相とする新内閣が承認され、ブチッチ政権が発足した。2012年5月の前回議会選挙では、SNSは第1党となりながらも、議席の単独過半数を確保できず、第3党となったセルビア社会党(SPS)と連立を組み、首相の座をSPSのダチッチ党首に譲ることで、長年続いてきた民主党(DS)政権に終止符を打ち、連立政権を誕生させた。このため今回、史上初めてSNS党首が首相の座に就いた。

<民間人からも7人を閣僚に起用>
本来であれば、過半数を超える158議席(定数250議席)を獲得したSNSの単独政権も可能だったが、ブチッチ首相は「現在のセルビアはこれまでで最も困難な時期にあり、超党派でこれに立ち向かっていかなくてはならない」との理由から、引き続きSPSと連立を組んだ。また、北部のボイボディナ自治州の少数民族政党であるボイボディナ・ハンガリー人同盟(SVM)とも連立を組むことで合意した。

また、国家予算削減のため省の数を16に削減した。閣僚人事は、過半数を獲得したSNSの党員から全て起用することも可能だったが、民間人を多数登用し、SNSから7人、SPSから2人、SNSの協力政党(セルビア社会民主党、社会主義党、新セルビア党)から計3人、民間から7人で合計19人とした(表参照)。

ブチッチ内閣の顔ぶれ

<経済立て直し策の成果に注目>
セルビアは、2012年3月にEU加盟候補国となり、2014年1月からEU加盟交渉を開始しているが、今後、加盟に向けて厳しい改革を迫られることになる。2008年にセルビアから独立を宣言したコソボ共和国との関係も、セルビア政府がコソボを国家承認しない姿勢に変わりはないが、EUが仲介役となり関係正常化交渉が続けられている。

新政権にとっての最優先課題は経済再建で、SNSとSPSが2年前に政権を獲得した以降もさまざまな経済政策が打ち出されてきたが、その成果が挙がっていない。政府の経済立て直しの取り組みは連立政権以前から続いている。しかし、2012年以前のDS政権時代も、長年にわたって経済の専門家として財務相や経済相を努めたセルビア地方統一党(URS)のムラジャン・ディンキッチ党首の経済政策は再建にはつながらなかった。連立政権に移行した後も、サーシャ・ラドゥロビッチ経済相(当時)は、労働法改正に当たり事業主に過度に有利な政策を打ち出したことで支持を失い、わずか5ヵ月で解任された。

失業率は、2012年から20%を上回る状態が続いている。また、欧州復興開発銀行(EBRD)の予測によると、2014年の実質GDP成長率は1.3%にとどまり、貿易に関しても大幅な輸入超過が続くとしている。

今回、経済相となったドゥシャン・ブヨビッチ氏は、世界銀行の経済研究所職員を経てベオグラード経済・金融・経営大学の教授を務めているが、こうした難局をどのように乗り切っていくか注目される。

4月27日の所信表明演説で、ブチッチ新首相は「本内閣の最大の課題は経済再建だ」と述べ、下記の3項目を柱とする経済改革を行うと表明した。

(1)制度改革のための法改正
(2)中小企業(起業家など)の支援
(3)国家予算の支出削減と歳入増
○国営通信会社テレコム・セルビアの民営化
○セルビア電力公社の一部民営化、もしくは株式公開
○公社の予算削減(公用車の削減、接待費の削減、日当の削減など)

(鈴木秀男、鷲澤純)

(セルビア)

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