試行錯誤の中、SICADの応札要件の変更が続出−外貨管理の為替協定26号が公布−

(ベネズエラ)

カラカス事務所

2014年04月21日

為替協定26号が公布され、これまでベネズエラ中央銀行が管轄していた外貨管理補完システム(SICAD)の応札要件の決定、外貨落札者選定などの権限が国家貿易センター(CENCOEX)に移管された。2014年3月末までに為替協定26号のスキームで計6回の外貨の競売が実施されたが、以前までの競売とは異なる点がみられる。この管轄権の移管は、マドゥロ大統領による経済対策の一環だ。

<応札業種や落札者の決定はCENCOEXの管轄に>
ベネズエラでは政府が為替取引を管理しており、輸入決済、国外への配当金送金などで外貨を使用する場合は、原則として政府から外貨の割り当てを受ける必要がある。基礎食料品、生活必需品などの輸入決済用外貨は、外貨管理委員会(CADIVI)を通じて1ドル=6.3ボリバルの固定為替レートで供給されるが、重要度の低い財・サービスの輸入決済用外貨は、競売に準じたSICADというシステムで入手する必要がある(2013年7月31日記事参照)

SICADの制度は2013年7月に公布された中銀の為替協定22号に規定され、これまで同制度の運営は中銀の専権事項だった。しかし、2014年2月10日付特別官報6125号で公布された為替協定26号により、SICADに応札可能な業種決定や外貨の落札者選定、競売内容公示などの権限がCENCOEXに移管された。CENCOEXは2013年11月に新設された為替管理を行う組織で(2014年3月14日記事参照)、設立法により、これまで為替管理を担ってきたCADIVIとSICADを管轄下に置くと定められている。中銀が引き続き確保する権限は各競売での競売総額・適用する落札レートの決定、落札者への外貨送金指示などだ。

<SICADの落札レートが外国投資による外貨の売却にも適用>
また、為替協定26号第6条によって、外国からの投資によってもたらされる外貨を中銀に売却する際の為替レートが変更された。これまで外貨の売却に当たっては1ドル=6.3ボリバルの固定為替レートが適用されていたが、同条項によって直近のSICADの落札レートに応じて、売却時のレートが決まることとなった。具体的には落札レートから0.25%減価された為替レートが適用される(注1)。2014年1月に発効した為替協定25号によって、海外送金用外貨の取得などに際しSICADの落札レートが適用されることになったが(2014年3月19日記事参照)、それと同様に、対内投資によってもたらされた外貨の売却に当たっても、SICADの落札レートが適用されることになったという。

<競売参加は国営銀行を通じてのみ>
SICADがCENCOEXに移管されてから2014年3月末までに計6回の競売が実施されたが、その内容には移管前にはなかった応札要件がみられる(表参照)。

CENCOEX管轄のSICAD応札可能業種と落札結果(2014年2〜3月)

例えば、以前の中銀管轄のSICADでは民間銀行を通じても競売に参加できたが、CENCOEX管轄のSICADでは国営銀行を通じてのみ競売に参加できることになった。政府が競売に関わる手続きを管理しやすくし、落札された外貨の振込先口座を国営銀行の口座に限定することで、外貨の不正利用を防止する狙いがあるとみられる。

CENCOEX移管後の第3回の競売では、競売に参加できる法人が法人登記後12ヵ月以上経過した法人に限定された。さらに第4回から第6回の競売では、法人登記後24ヵ月以上経過しており、かつ、直近の2年間、定期的に輸入を行っていた法人であることが応札要件となった。これらの要件が定められた理由は、事業活動の実態がないペーパーカンパニーによって外貨が不正に取得されることを防ぐためと考えられる。

以前のSICADでは、各競売に応札できる業種のみが限定されていたが、CENCOEX移管後は第5回の競売を除き、競売で得た外貨で輸入する商品の関税番号まで限定された。そのため、業種が応札要件に適合していても、輸入する商品が指定された関税番号に合致しない限り応札できなくなった。

なお、第5回の競売で応札対象となったのは国内航空会社による財・サービスの輸入、国内海運会社による財の輸入、化学・石油化学・プラスチック樹脂分野の企業による財の輸入だった。関税番号は限定されないものの、国内航空会社と国内海運会社によって輸入される財は、輸出入公社(VEXIMCA)を通じてベネズエラ貿易公社(CORPOVEX、注2)が取得したものに限られ、また、化学・石油化学・プラスチック樹脂分野の企業によって輸入される財は、バリベン(BARIVEN、注3)を通じてCORPOVEXが取得したものに限定された。CORPOVEXはCENCOEXと同時に新設された株式会社で、公的・民間両部門で貿易を行う法人の頂点に位置付けられた国営の組織だ(2014年3月14日記事参照)。CORPOVEXの設立法によって、VEXIMCA、BARIVENはCORPOVEXに統合されるとされている。第5回の競売に参加できるのは実質的に政府関連企業のみだったといえるだろう。

また、第6回の競売では重要な応札要件の変更が行われた。第5回までは清算待ちの外貨清算許可(ALD)を所有するか、ALDによって外貨を清算されてから60日経過していない法人は競売へ参加できなかった(注4)。しかし、第6回の競売では本条件が免除され、CADIVIを通じて輸入決済用外貨を取得している法人も参加できることになった。

加えて、これまでは外国旅行や留学、医療や文化活動などのための個人向け外貨競売も実施されていたが、CENCOEXに権限が移管されて以降、法人向けの競売のみで、個人向けの競売は実施されていない。

<外貨の適正な利用を誓約し保証金を預ける義務も>
為替協定26号の公布に先立ち、2014年2月5日付官報第40349号でCENCOEXの行政決定002号が公布され、「為替取引の誠実な履行契約書(Contrato de Fiel Cumplimiento para Operaciones Cambiarias)」のひな型が提示された。これは設立法に記載されていたCENCOEXの所管事項の1つで、政府から外貨を取得する法人が外貨の使用目的などの申請内容を忠実に守ることを約束する契約書だ。なお、2014年1月23日付で公布された「正当な価格法」の第6条にも、同契約書が外貨取得に必要であると明記されている(2014年3月24日記事参照)

行政決定002号の3条は、公正証書化した「為替取引の誠実な履行契約書」を為替取引仲介機関に委託することを義務付けている。また、同行政決定には規定はないが、SICADの競売公示に記載された要件として、外貨の落札者は落札通知を受領したらすぐに同契約書をCENCOEXに電子的方法で提出することになっている。

同契約書では、取得する外貨相当のドルを保証金としてCENCOEXに預けることを約定する必要がある。しかし、外貨取得が困難なベネズエラでは必要なドルを確保することが難しく、この条件が取引の障害になるとして、民間企業から是正を求める声が上がっていた。これを受け、CENCOEXは2014年3月31日付で、保証金を外貨相当のボリバルでも可とする過渡的措置を定めた通知を発出した。なお保証金は、輸入後に正しく輸入決済を行ったことを示す一連の書類をCENCOEXに提出することで返却される。

<為替管理の強化が企業活動を阻害するとの指摘も>
SICADのCENCOEXへの移管は、2013年11月から始まったマドゥロ大統領の経済対策の一環だ。外貨に関わる汚職や不正撲滅のため、同大統領はCADIVIとSICADを新設のCENCOEXに管轄させると発表していた。しかし、一方で政府による為替管理の強化は外貨取得をより一層困難にし、企業活動を阻害するという指摘がある。今回の経済対策で多くの制度変更が行われているが、実体経済にどのような影響が出てくるのか、注視する必要があるだろう。

(注1)例えば、直近のSICADの落札レートが1ドル=11.00ボリバルだったとすると、売却に適用されるレートは1ドル=10.9725ボリバルとなる。この場合に100万ドルを中銀に売却したとすると、売却者は1,097万2,500ボリバルを受け取ることになる。
(注2)ベネズエラ貿易公社の略称は、設立法である2013年11月29日付特別官報6116号で公布された政令601号ではVENECOMとされたが、2014年2月26日付特別官報6127号で公布された定款でCORPOVEXと改められた。
(注3)国営石油公社PDVSAの子会社で、石油・ガスの採掘、生産、精製などに必要となる機材購入などを行う国営企業。
(注4)CADIVIが発行する輸入決済用外貨の発給許可を「外貨清算許可(ALD)」という。輸入者はALD取得後、中銀から外貨の供給を受ける。外貨の供給を受けることを「清算」と呼ぶ。

(米倉マガリ、松浦健太郎)

(ベネズエラ)

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