国家公務員の基本給を2万チャット引き上げ−民間の最低賃金決定はずれ込みも−
ヤンゴン事務所
2014年03月25日
政府は4月から、国家公務員の月額基本給を一律2万チャット(約2,000円、1チャット=約0.1円)引き上げる方針だ。実現すれば、3年連続となる。一方、民間事業者については2013年3月に最低賃金法が制定されているが、2014年3月現在、最低賃金決定に関わる基礎調査などを実施中で、まだ示されていない。調査が長引いている背景には、労働者側が要求する賃金と事業者側が支払える賃金が乖離している実態があり、調整は難航しそうだ。
<3年連続の引き上げ>
政府は1月7日に開催した2014年度の予算委員会で、4月から国家公務員の給与を一律2万チャット引き上げると説明した。実現すれば2011年3月のテインセイン政権誕生以来3年連続の国家公務員給与の引き上げとなる(2012年4月:3万チャット、2013年4月:2万チャット)。
表1は2006年以降の財政歳入省(注1)通達による国家公務員の賃金水準をまとめたもので、2014年4月1日時点の見込み額も含めた賃金を記載している。表の右端欄でも分かるように、2012年4月の3万チャットの引き上げは、「基本給」(各ランクの賃金体系の上段)としてではなく「手当」としての支給形態。例えば、同年4月以降の第1ランクの国家公務員の基本給は3万5,000チャットだが、実際には6万5,000チャット支給されており、2013年4月時点では8万5,000チャット、2014年4月以降はさらに2万チャット増えるため合計10万5,000チャットと、年々増加している。
<民間事業者の間では戸惑いの声も>
一方、民間事業者を対象に、2013年3月に最低賃金法が制定され、6月に施行された。7月には施行細則が公表されており、2014年3月現在、細則に基づき、国家委員会(注2)は制定に関わる基礎調査・会合などを実施している。
このようなタイミングで政府が公務員給与の引き上げを決定したことに対し、地場工場経営者は戸惑っており、自らの工場でも賃上げなどの何らかの対策を講じるべきか、頭を悩ませているようだ。現地紙「ザ・ボイス」(1月17日)によると、2014年1月16日に開催された国家委員会(政府、事業者、労働者の各代表および専門家で構成、以下、各層代表)で、労働・雇用・社会保障相兼同委員会委員長(大統領任命、以下、労働相)が「2014年以内には最低賃金を確定する」旨の発言をしたという。最低賃金法は国家公務員、船舶乗組員および事業者の家族のみが対象外で、それ以外のあらゆる労働者が対象となるため、最低賃金が決定された場合は多数の労働者に影響を及ぼす。特に多数の労働者を抱える縫製業などの労働集約型産業は、この決定に注目している。
<最低賃金決定までに5つのプロセス>
2014年1月16日に最低賃金決定に関わる第1回国家委員会が開催され、労働相は最低賃金決定まで5つのプロセスに基づき決定する方針を述べた。その具体的な内容は図のとおり。
また、経済特区(SEZ)内の最低賃金の制定は、別のプロセスとなっている。ティラワSEZなどにある各SEZ管理委員会が投資事業別による最低賃金案を所属する管区または州の地域別各委員会と協議の上、国家委員会に提示することとなる(最低賃金法第9条1項)。同案を受けた国家委員会は最低賃金法にのっとり閣議に提示し、承認を得る必要がある。閣議決定を受けて初めて、SEZ内の最低賃金が制定される。
なお、最低賃金決定の作業については、2013年12月時点までにヤンゴン、バゴー、マンダレーなどの主要都市での調査が終了し、2014年3月現在、図の(2)まで進んでいる。今後、(5)が終了し、最低賃金が決定された場合、各事業者が労働者に支給している現在の賃金水準が最低賃金を下回っていれば、各事業者は最低賃金の水準まで引き上げる必要があり、逆に現在の賃金水準が上回っていれば、労働者がその上回っている分を引き続き得る権利が最低賃金法で保障されている。
<労働者と事業者側の最低賃金の目安に乖離>
政府は2014年6月までに事業者・労働者間の会合を終了させ、最低賃金の目安案を確定するよう各委員会に指示している。現地複数の報道によると、労働者側は基本給として日額5,600チャットから7,000チャットの間を要求している。ただ、事業者側の支払能力は2,000チャットまでと報道されており、双方の目安が乖離しているため調整が難航しそうだ。
また、2013年4月1日付の財政歳入省通達(544/2013)により、政府機関に勤める日雇い非正規職員(8時間労働。運転手、清掃人など)の日給が1,100チャットから1,700チャットに改定された。同額に加え、手当として1,000チャットも支給され、合計2,700チャットが日給として支給されている。この非正規職員の給与は、工場労働者の給与決定に影響を及ぼすのではないかとみられる。政府機関(非正規職員)、工場(外資系)に勤める労働者の現在の賃金比較は表2のとおり。手当も含め月額換算をした場合、政府機関の給与は工場より低いものの、日給ベースでは政府機関の方が明らかに高い(政府機関の場合は週5日勤務を想定)。最低賃金が示されない中、この日給の水準が2014年4月1日に改定予定の国家公務員の給与引き上げと同様に引き上げられるのか、また同賃金が民間労働者の心理面にどう影響を及ぼすかにも関心が高い(表3参照)。
このように最低賃金が定まっておらず、その調整も難航している中、政府による4月以降の国家公務員の給与の引き上げは、製造業にとって今後難しい経営判断を迫ることになりそうだ。既に公務員給与引き上げに端を発し、2014年1〜2月には一部工業団地内の工場で賃上げ要求のストも発生している。また、労働者側からは「政府は事業者側に立った最低賃金の水準を決定しようとしている」などの批判も出ている。政府は2015年末とみられる次期総選挙も見据え、適切な最低賃金の設定を急いでいる。
(注1)財政歳入省は2013年7月に財務省に名称を変更したが、ここでは通達時点の名称である財政歳入省と記載。
(注2)大統領令による最低賃金決定に関わる委員会。構成メンバーは閣僚1人、副大臣9人、産業別労働者代表5人および事業者代表5人、元国家公務員5人(局長〜課長級)、労働省局長2人の計27人。任期3年。最低2年に1回、賃金改定案を閣議決定に基づき公表することが最低賃金法で定められている。
(クントゥーレイン)
(ミャンマー)
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