「正当な価格法」で利益率を最大30%に制限−マドゥロ大統領による経済対策(7)−

(ベネズエラ)

カラカス事務所

2014年03月24日

インフレ抑制を主目的とした「正当な価格法」が1月23日に発効した。財・サービスへのアクセス者保護法と正当なコスト・価格法を廃止した上で、それらを統合した法律となる。過去のインフレ抑制策は奏功せず、2013年のインフレ率は56.2%に上った。正当な価格法が以前の法律と異なるのは、物価を抑制するのではなく、経済活動で得られる利益率を制限する点だ。利益率は最大30%で、今後、分野ごとに決定される。マドゥロ大統領の経済政策を紹介するシリーズの最終回。

<社会経済権保護のための国家監督庁を新設>
「正当な価格法(Ley Organica de precios justos)」は、2013年11月19日に発効した大統領授権法のスキームで定められた政令形式の法律だが、組織法に該当するため、発効には最高裁判所の承認を得る必要があった(2014年3月13日記事参照)。マドゥロ大統領の署名は終えていたものの、最高裁承認後の2014年1月23日付官報40340号を通じて政令600号が公布され、発効した。

正当な価格法は、買い占めや投機行為などを規制する財・サービスへのアクセス者保護法(2010年2月1日付官報39358号により改定公布)(2008年8月15日記事参照)と、商品の価格を統制する正当なコスト・価格法(2011年7月18日付官報39715号により公布)(2012年10月4日記事参照)を廃止し、それらを統合したものとなる。

旧法の廃止に伴い、それぞれの管轄官庁だった財・サービスへのアクセス者保護庁(INDEPABIS)とコスト・価格監督庁(SUNDECOP)も廃止され、新たに「社会経済権保護のための国家監督庁(SUNDDE)」が設立された。SUNDDEは経済担当副大統領の管轄下に置かれ、長官にはアンドレイナ・タラソン女性・性平等相が、大臣職と兼務するかたちで就任した。

<外貨の取得にはSUNDDEの証明書が必要に>
正当な価格法は82条の条文と、12の経過条項、2つの法律廃止条項、1つの最終条項から成る。82条の条文は2編8章で構成される(注1)。

他の特別な法令に基づかない限り、同法はベネズエラ国内で経済活動を行う全ての法人と個人に適用される(第2条)。同法の最も重要な点は、経済活動によって得られる利益率が分野や地域ごとに制限を受けることだ。利益率の限度は、毎年SUNDDEが商業、工業、金融を管轄する省の助言を受けた上で決定する。ただし、どの分野であれ、30%が最大の利益率とされる(第32条)。

経済活動に当たり外貨の取得を申請する場合は、その目的と使用方法を忠実に守ることを定めた契約書(Contrato de Fiel Cumplimiento)に署名することが必要となった。また、外貨を使用して輸入した商品や、その輸入品を用いて製造した商品には外貨を使用したことを示すラベルを貼付しなければならない(第6条)。外貨管理委員会(CADIVI)が輸入者に取得を許可した外貨が、輸入以外の不正な目的に使用されているとの指摘を受けて、こうした措置が盛り込まれた。これは、政府を通さずに不正に取得された外貨を使って輸入された商品が販売されることを防ぐためでもある。

さらに、政府に対して外貨取得手続きを行う際に、SUNDDEが定める正当な価格基準を順守していることを証明する「正当な価格証明書(Certificado de Precios Justos)」が必要となった(第33条)。

加えて、経済活動を行う全ての主体は「経済活動実施主体単一登録(RUPDAE)」に登録することが必要になった(第21条、22条)。しかし、同法にはRUPDAEの詳細は定められていない。各分野の経済活動実施主体が得られる最大の利益率、正当な価格証明書の詳細、RUPDAEの詳細などSUNDDEに決定権のある内容については、経過条項の第7項目に基づき、同法発効日(1月23日)から90日以内に定められることになっている。

<違反者には最大約100万ドルの罰金>
第11条の7に基づき、SUNDDEには正当な価格法が順守されているか確認するための査察権限が与えられ、第2編第5章にその内容が定められている。査察によって違法行為の証拠が見つかった場合は、その場で商品の押収、店舗・生産財・倉庫などの一時的な占拠、SUNDDE発行のライセンス・許可の一時停止、財・サービスの価格の即時適正化、などを行うことが可能となっている(第39条)。

また、法律にのっとった手続きを行わなかった場合や、投機行為、買い占めなどの違法行為を行った者には、第2編第6章と7章に基づき、最大5万租税単位(UT、約100万ドル)(注2)の罰金、10年の禁固刑などが科される。

<「生産コスト」に一般的な基準を設定>
しかし、細則が定められていないため、利益率を算出する際に何を生産コストとして認識していいのか、卸売り・流通・小売りなどの各段階で最大30%の利益率が許容されるのかなど不明点が多く、事業者の間で混乱を招いている。

2014年2月7日付官報40351号でSUNDDE行政決定3号(注3)が公布され、経済活動の実施主体が順守すべき16の一般会計基準が定められた。この中で、「生産コスト」に含めることができるコストの一般的な基準も示された。それぞれの基準は以下のとおり。

(1)コストとは、財の生産、サービスの提供に直接的、間接的に必要な要素の価格とする。
(2)生産コストとは、財やサービスの取得にかかるコスト、および財もしくはサービスに対し最終的な性質を与えるための加工にかかるコストとする。生産と関係のない支出とは、管理費、代理店費用、広告費、販売費などとする。
(3)原材料の取得にかかるコストは、原材料の購入価格、輸入関税、輸入時の輸送・保管などにかかる保険代、還付されない税金、輸送費、倉庫代などで構成される。
(4)加工にかかるコストとは、直接的な人件費、生産にかかる間接的コスト(固定費および変動費)で構成される。
(5)2つ以上の財を同時に生産しており、それぞれ財の生産にかかるコストを分けて計算できない場合、合理的で単一の根拠を用い、総コストからそれぞれの財にかかるコストを割り出す。
(6)通常時の生産に必要なコストが、生産に必要なコストとして認められる。異常な生産状態にかかるコストは、生産コストと見なされない。
(7)法外な廃棄物処理費・人件費・その他の生産にかかるコスト、生産に必要のない倉庫代、生産後に発生する販売費、金融コスト、財およびサービスに対し最終的な性質を与えるのに寄与しない間接的なコストは、生産コストに含まれない。
(8)生産と関係のない支出のうち、国内で支出されたものであり、経済活動実施主体の本質的な事業に通常必要であると考えられる支出は、生産コスト総額の12.5%を超えない範囲で生産コストに含まれる。
(9)流通費用は、流通業者のみコストの要素として認められる。
(10)付加価値税は、還付もしくは移転されない場合、コストとして認識される。

これらの基本的な要素で生産コストを算出できない商品を扱っている場合は、SUNDDEに申請の上、特別な計算方法により生産コストを算出できるとしている。

<何が「通常」なのかなど不明点も>
このように、生産コストに含めることのできる内容については提示されたが、各分野に適用される最大の利益率については、行政決定3号では示されなかった。また、一定の基準は示されたものの、生産コストに含めることのできる内容については不明確な点が多く、複数の欠陥が指摘されている。

現地紙「エル・ウニベルサル」(2月17日)は正当な価格法の問題点として、「通常時の生産に必要なコスト」において何を「通常」とするかの詳細が定められていない点を指摘している。ベネズエラでは停電が頻繁に起こる。その場合には工場生産が停止することになるが、この生産停止により発生したコストは「通常時の生産に必要なコスト」に含まれないと考えられる。また、CADIVIが輸入者に対して外貨清算許可(ALD)(注4)を発行するまでに、一般的に申請をしてから200日以上かかるとされるが、その間に輸出者との間に発生する輸入決済遅延の違約金は金融コストのため、生産コストとして認識されないと考えられる。

これらのコストを、上に挙げた(8)の方式で生産コストに含めることができないとすれば、財・サービスの提供は困難になると想定される。そのほか、(2)で示したように広告費は生産コストとして認められないため、広告収入により成り立つ会社は影響を被ることも指摘されている。

マドゥロ大統領は2月10日、全ての財・サービスを正当な価格法に則した値段で販売するよう国営テレビVTVを通じて発言した。しかし前述したような問題もあり、国内店舗ではそれぞれの基準で販売価格を設定している状態が続いている。

2013年11月19日に大統領授権法が発効して以降、マドゥロ大統領によるさまざまな経済対策を実施するための法律が制定された。しかし正当な価格法のように、法律に伴う細則が定められていなかったり、法律が適用されるのがどのような場合であるか不明瞭だったりするケースが多かったりと、混乱を呼んでいる。今後も大統領授権法のスキームを用いて経済対策が実施されると考えられるが、高騰するインフレ、公定為替レートと非公式為替レートの乖離、外貨準備高の減少を抑え、政府が経済をコントロールできるのか。厳しい状況が続きそうだ。

(注1)
第1編
第1章一般条項(第1〜9条)
第2編
第1章SUNDDEの性質、権限と組織について(第10〜17条)
第2章SUNDDE長官について(第18〜20条)
第3章経済活動実施主体単一登録(RUPDAE)について(第21〜23条)
第4章価格、マージン、利益の決定、変更について(第24〜33条)
第5章商品における価格、マージン、利益の検査、査察の手続きについて(第34〜43条)
第6章罰則制度について(第44〜67条)
第7章罰則の行政手続きについて(第68〜82条)
(注2)租税単位とは、所得税などの税金や罰金、従業員手当や行政手続き料金などを計算する基準となる単位。最新の租税単位は2014年2月19日付官報40359号によって公布された1租税単位=127ボリバル。公定の固定為替レートでは1ボリバル=6.3ドルのため、1租税単位は約20ドルに当たる。
(注3)行政決定1号と2号は2014年1月29日付官報40344号で公布されており、それぞれSUNDDEの部局となる「正当なコスト・利益・価格局」と「社会経済権保護局」の局長人事が行われた。正当なコスト・利益・価格局長には、カルリン・グラナディージョ氏が、社会経済権保護局長にはルイス・モッタ氏が就任した。
(注4)CADIVIが発行する輸入決済用外貨の供給許可を「外貨清算許可(ALD)」という。輸入者はALD取得後、ベネズエラ中央銀行から外貨の供給を受ける。

(松浦健太郎)

(ベネズエラ)

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