個人所得税では「非居住者」の扱いに要注意−税務調査時の留意点(1)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2014年02月06日

ジェトロは1月20日、ハノイ市で「ベトナム税制セミナー(中級編)」を開催した。進出日系企業の中には、ベトナムの複雑な税制度や税務手続きが悩みの種という声も多く、出席者は約200人に及んだ。同セミナーの概要を2回に分けて解説する。前編は法人所得税と個人所得税の留意点について。

<国の税収減の問題が背景に>
ベトナムは、2014年から法人税の税率を25%から22%に引き下げ、また関税については、2018年にASEAN域内の関税が原則撤廃されることから、国の税収減という問題に直面している。そのため、税務当局は税収確保を狙い、企業に対する税務調査を強化していく可能性がある。

例えば、税務当局が進出日系企業の税務調査を行う際、企業が労働契約書や任命辞令書などの必要書類を整備していないと、税金納付に関して合理的に説明できないなどの理由で追徴課税する事態が起こり得る。

今回のセミナーでは、フェアコンサルティングベトナム(Fair Consulting Vietnam)の讃岐修治氏が、法人所得税(CIT)、個人所得税(PIT)、付加価値税(VAT)、外国契約者税(FCT)、税務調査の5項目について、税務調査に際して日系企業が留意すべき事項について解説した。主なポイントは以下のとおり。

○法人所得税(CIT)
(1)損金不算入費用
「損金不算入」(経費として認められない)について、以下の3点は特に注意しなければならない。

a.合理的な範囲の消耗率を超えて使用された原材料、燃料、製品原価:2014年1月から、製造業は「消耗率」を税務当局に登録する義務がなくなった。しかし、税務調査では引き続き消耗率の妥当性が調査対象となる可能性が高い。そのため、消耗率の算出方法を合理的に説明できるよう書類などを準備しておく必要がある。
b.公式インボイスのない商品・サービスの購入費
c.ハンドキャリーなどで持ち込んだ固定資産や備品:例えば、日本で購入したパソコンをハンドキャリーで持ち込み、ベトナム国内で固定資産として利用した場合は経費として認められない。

(2)PE課税
PEとは「恒久的施設」を意味し、支店や事務所、工場を通じて所得が生じている場所を指す。

最近問題になっているのは、駐在員事務所がPEと認定され、法人所得税を課されるケースだ。その原因として、本来、駐在員事務所は日本本社の補助的・準備的活動のみを行う場所であるのに、実質的に営業活動を行っている場合が挙げられる。例えば、駐在員事務所が本社名義で契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を常習的に行使している企業が対象になる。

(3)移転価格税制
税務総局は2012年7月、「移転価格税制」の取り締まりを強化すると公表した。

移転価格税制とは、同じ企業グループなどの関連者間での取引価格(移転価格)が、第三者の取引先との取引価格(独立企業間価格)と異なる場合、独立企業間価格に基づいて課税する制度であり、差額によって得た利益がベトナム国外へ流出するのを防ぐ制度を指す。また移転価格の算出は、5つの算定方法(独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法、利益比較法、利益分割法)から企業自らが最適な方法を選択する必要がある。

重要なのは、関連者間で取引を行う企業は、関連者間取引で扱われる製品について、移転価格の決定方法を算定する根拠文書(必要情報は通達66/2010/TT−BTCに記載)を整備し、税務当局からの要請に応じて提出しなければならない点だ。税務調査では、移転価格の算定根拠を問われることが多く、合理的な回答が得られない場合、独立企業間価格で課税されることになる。

一方で、移転価格税制には事前確認制度(APA)がある。企業が独立企業間価格の算定方法を事前に税務当局に確認し、税務当局として算定方法が合理的であることを確認する制度だ(詳細は通達201/2013/TT−BTC)。税務当局がAPAに従った独立企業間価格を適用している場合、移転価格に基づく課税は行われない。

○個人所得税(PIT)
PITで留意すべき点は、「非居住者」の扱いだ。非居住者とは、「居住者に該当しない者」を指す。

居住者の定義は、「暦年もしくは最初の入国日からの連続する12ヵ月間で183日以上ベトナムに滞在する者」「ベトナム国内に定常的な居所を有する者、もしくは課税年度において183日以上の居所の賃貸契約を有する者(ホテル・本社・職場なども含む)」になる。そのため、3ヵ月滞在などの短期出張者などが非居住者(年間1、2日というわずかな期間の出張であっても)になる。

非居住者に対しては、支払い地を問わずベトナムを源泉とする所得のみが課税対象になり、ベトナム国内源泉所得(注)に対して一律20%が課税される。非居住者が課税対象として問題になるのは世界的にみてもまれであり、日系企業として認識しておく必要がある。一方で、ベトナム国内源泉所得については、日本で外国税額控除を受けることが可能になっている。

実務上、日本本社や取引先企業からの出張者をベトナムで受け入れる場合、受け入れ先のベトナム法人が出張者の給与などを費用負担しなければ、当該企業が出張者の個人所得税を納税する義務はなく、納税義務は出張者個人に帰属する。逆に、ベトナム法人で負担した場合、ベトナム法人に源泉義務が生じるため、税務当局に申告する必要がある。特に出張者のホテル代、タクシー代、日当などは給与に該当する旨、税務当局からオフィシャルレターが出されており、税務調査が入った際にベトナム法人の源泉義務として申告するよう指摘されることが多い。

<一定の条件を満たせば免税対象に>
また非居住者については、日越租税条約に基づき、以下の条件を満たせば、個人所得税が免税対象となる。

a.ベトナム滞在が183日未満であること
b.当該滞在者への報酬がベトナムの居住者でない雇用者(例えば日本本社)から支払われること
c.当該滞在者への報酬をベトナムにある恒久的施設が負担していないこと

免税手続きの申請には、以下の書類が必要になる。

・居住者証明書(公証手続きが必要)
・パスポートのコピー
・労働契約書(日本ではないケースが多い。その場合、出張任命書で代替が可能)

そのほか、居住者の注意点として、課税所得か非課税所得かという問題に留意する必要がある。例えば、「住宅手当」や「子供の養育費手当」などの費用を会社(ベトナム現地法人)が負担している場合、社員の労働契約書などの必要書類に適切な支払い方法を記載していなければ、課税所得になってしまう。これを防ぐためには、以下の要件を満たしているか留意しなければならない。

a.労働契約書・任命辞令書に記載されている
b.VATインボイス、契約書、レシートがそろっている
c.個人からではなく、会社から直接、契約相手方に支給されている

(注)ベトナム国内源泉所得=ベトナムでの勤務日数/365日×全世界所得(税引き前)+ベトナムから派生したその他の課税所得(税引き前)

(定田充司)

(ベトナム)

調査は厳格化する見込み、必要書類は常に準備を−税務調査時の留意点(2)−

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