権利者と税関・内務省の協力には課題も−模倣品流通と取り締まりの現状(2)−

(ロシア)

モスクワ事務所

2014年02月06日

国内で流通している模倣品の多くが国外から流入していることもあり、特に税関による対策を講じる企業が増加傾向にある一方、権利者と連邦税関局の協力上の課題が顕在化しつつある。模倣品対策には権利者と取り締まり機関とのコミュニケーションが重要だ。連載2回目は、税関および内務省(警察機関)による取り締まりの現状について。

<税関による対策を講じる企業が増加>
ロシアにおける知的財産権侵害対策としては、a.税関による水際措置、b.行政手続き、c.刑事手続き、d.民事手続き、e.反独占手続きがある。国内で流通している模倣品の多くが国外から流入していることもあり、知的財産権侵害対策の中でも、特に税関による対策を講じる企業が増加傾向にある。在ロシア欧州ビジネス協会(AEB)の会員企業向けアンケート(2009年)で、45%の企業が税関での対策が最も効果的と回答している。

税関での水際措置は、「関税同盟関税基本法」および「ロシア連邦における通関規則について」(2010年11月27日付連邦法第311−FZ号)によって規定されている。知的財産権対象物の税関登録制度(注)を利用して、著作権・著作隣接権、商標権、原産地表示に関する権利侵害品の流入・流出を防止することができる(ただし特許権、実用新権、意匠権は対象外)。税関登録件数は年々増加し、2013年11月6日時点での税関登録件数は3,029件となっている(図参照)。

税関登録件数の推移

連邦税関局によると、2012年の模倣品の水際差し止め件数は996件で、内訳としては商標権侵害が968件(97.2%)、著作権・著作隣接権侵害が28件(2.8%)だった。また、2013年1〜10月の模倣品差し止め件数は818件で、内訳は商標権侵害が801件、著作権・著作隣接権侵害が17件だった。税関登録に基づく差し止めのほか、税関職員の職権による差し止めも可能だ。

<十分に活用されない税関登録簿>
知的財産権対象物の税関登録件数が年々増加する一方で、権利者と連邦税関局の協力上の課題も顕在化しつつある。権利者からは、並行輸入品の差し止めが多く、模倣品の差し止め事例が少ないとの声がある一方、連邦税関局からは取り締まりに協力的ではない権利者がいるとの意見がある。連邦税関局貿易規制・通貨輸出管理局知的財産製品管理課のオレグ・アシュルコフ課長代理は、2013年11月14日の日系企業との会合で、「知的財産権対象物の税関登録簿に掲載されている企業の製品を差し止めて、その情報を連絡しても権利者から返答がない、あるいは輸入を許可する旨の返答があるケースが少なくない。権利者から返答がない場合、連邦税関局は『ロシア連邦における通関規則について』第307条第4号に基づき、当該登録情報を削除することもでき、実際に悪質な輸入者がこの条項を根拠に、登録削除を要求してくることもある。例えば、並行輸入品は差し止めない意向の権利者もいるだろう。その場合は、税関登録の際の申請書に『模倣品のみ差し止めを希望』や『並行輸入品は差し止め不要』などと権利者の意向を記載してほしい。そうすれば税関側も権利者の意向を踏まえた判断ができる」と述べた。

<刑事案件化が難しい場合は警告状送付も一案>
一方で、ロシア国内で流通している模倣品の取り締まりについてはどうか。調査会社ブラスタ・コンサルティングの担当者は、2013年11月15日の日系企業との意見交換の中で、「2011年以降の内務省(警察機関)の組織改革の結果、それまで行政案件を担当していた消費者市場違反対策センターが解体され、その権限が市や地区レベルなどローカルの警察に移譲された。しかし、ローカルの警察官の知的財産権侵害案件の取り締まりに関する知識が十分ではないため、摘発に際しては、場合によってはこちらがリードしていくことも必要になる」と語った。

市場での取り締まりを担当する内務省は、行政案件と刑事案件の両方を扱う権限を有する。刑事案件の場合は経済安全保障・汚職撲滅局が担当する。ただ、刑事案件として扱うことができるのは、被害額(正規品の価格に基づき算定)が著作権侵害の場合は10万ルーブル(約30万円、1ルーブル=約3円)以上、商標権侵害の場合は150万ルーブル以上となっており、単価が安い食品や化粧品などは扱われないことも多い。

ブラスタ・コンサルティングの担当者は、このような状況での対策の1つとして、販売者に対する警告状の送付を挙げた。同社の経験では、警告状を送付した結果、これまで約70%が模倣品の販売を停止したという。また、警告状送付の際の重要なポイントは、警察官に警告状を渡してもらうことで、その理由としては、a.自社スタッフが警告状を手交することで暴行を受けるリスクを避けるため、b.後に刑事責任を問う際に(模倣品の販売が)故意であることを証明しやすくするため、としている。

商標権侵害の場合は法律上、被害額が150万ルーブル以上でないと刑事責任を問えないが、再犯、あるいは同時に複数の権利者の権利を侵害している場合などについては、それより低い被害額でも刑事責任を問える可能性がある。その際に、侵害者が意図的に侵害行為を行っていたことを立証するための文書として警告状が大きな役割を果たす。

市場での取り締まりに際しては、権限を有する内務省との協力が必要になってくる。内務省関係者は、取り締まりに際しての権利者との協力について、「私たちは各製品の専門家ではないため、特に知的財産権侵害疑義物品の鑑定を行う際に権利者の協力が必要となる。また、自主的に摘発を行った場合でも、当該製品の権利者の連絡先が分からず、事件化を諦めることもある。真贋判定セミナーを通じた権利者からの情報提供やコンタクトリストを交換することについて関心がある」と、日ごろから権利者との協力を密にすることの重要性を指摘した。

(注)権利者が自社の商標権や著作権などに基づく情報を連邦税関局の知的財産登録簿に掲載することで、これらの情報がロシア全土の税関に情報が共有され、権利侵害品が含まれる輸入および輸出貨物を差し止めることができる制度。

(宮川嵩浩)

(ロシア)

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