サービス業の進出が拡大するも依然残るハードル−アジアの卸小売りと物流への外資規制(16)−

(ASEAN)

シンガポール事務所

2014年02月05日

アジアが消費市場としての重要性を増す中、日本のサービス業の進出が活発化している。消費市場の拡大は、特に流通形態の複雑化、高度化を進展させると考えられ、アジアにおける卸売業、小売業、物流業に対するニーズが今後、さらに拡大することが見込まれる。その一方、アジア各国ではそうしたサービス業に対する外資規制が幅広く残っており、参入障壁のある国も多い。アジア主要国全体でみた外資規制問題のまとめを3回に分けて解説する。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<存在感高める流通関連業の対アジア直接投資>
日本の対アジア直接投資で、サービス業(非製造業)の比率が徐々に拡大している。2012年末の日本の対アジア直接投資残高(24兆9,399億円)のうち、サービス業は9兆1,750億円と全体の36.8%を占め、2005年(29.4%)に比べ7.4ポイント上昇した(添付資料の表1参照)。卸売・小売業と、物流業を含めた運輸業の残高は3兆2,215億円で、対アジア直接投資残高の12.9%を占める。このうち、卸売・小売業は2兆8,992億円で、2005年(1兆105億円)の約3倍となり、対アジア直接投資残高に占める構成比も9.8%から11.6%に上昇。運輸業については3,223億円で2005年の約10倍に拡大し、構成比も0.3%から1.3%に上昇している。フロー(国際収支、ネット)でも同様に、卸売・小売業、運輸業で対アジア直接投資が拡大している。

日本の卸売・小売業と運輸業全体の対世界直接投資残高(13兆2,082億円)に占めるアジアの比率は2012年が24.4%(3兆2,215億円)で、2005年(1兆430億円)の19.6%から上昇しており、卸売・小売業や運輸業の対外直接投資におけるアジアの重要性が高まっている。

アジアの卸売・小売業、運輸業に対する直接投資残高を国・地域別にみると、2012年はシンガポール(9,689億円)が最も多く、中国(9,247億円)、香港(5,394億円)、台湾(2,166億円)が続いている(添付資料の表2参照)。中国、香港、台湾への直接投資残高は、金額ベースでは増加しているものの、卸売・小売業、運輸業全体の対アジア直接投資残高に占める構成比は2005年と比較していずれも低下している。一方、タイ(2,028億円)、インドネシア(630億円)、マレーシア(612億円)などのASEAN諸国やインド(446億円)の構成比は上昇しており、これらの地域への直接投資伸び率が相対的に大きいことが分かる。なお、シンガポールについては近年、地域統括拠点としての役割を強化する日系企業が多いため、残高にはシンガポール国内向けの投資のみならず、商社などを中心にシンガポールから第三国に投資するための資金も多く含まれていると考えられる。

一方、アジア各国では特に小売業と物流業に対して、厳しい外資規制を課している国が多く、この分野の対アジア直接投資を抑制する1つの要因になっている。ジェトロが過去に実施した外資規制に関する調査でも、在アジア日系企業から、特に小売業、物流業に関する外資規制の緩和要望が数多く寄せられている。この背景には、流通業では中小企業の海外進出も増え、海外で活動する事業者が多いこともあるためと考えられる。ジェトロが毎年、実施している「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2013年)」(注1)では、回答企業(4,561社、製造業:2,420社、非製造業:2,141社)のうち、卸売・小売・運輸業は計1,212社(卸売・小売業:986社、運輸業:226社)と全体の26.6%を占めている。

以下では、ジェトロ各事務所の報告などを基に、卸売業、小売業(次回掲載)、物流業それぞれについて、アジア主要国の外資規制の現状を比較する。

<卸売業参入に厳しいミャンマーとラオス>
アジア主要国における卸売業の外資規制の現状を比較したのが添付資料の表3だ。卸売業は、商社などを中心に以前からアジアで活発な投資を行ってきたが、この背景には卸売業に対する外資規制が小売業や物流業に比べると限定的な国が多いことも寄与していると考えられる。

卸売業の外資規制が緩やかで、外資100%出資が認められる国としては、インドネシア、フィリピン、カンボジア、インド、スリランカ、パキスタンが挙げられる。これらの国では一部を除いて、条件が付かないか、もしくは緩やかな条件で外資100%出資が認められる。

一部制限がありながらも外資100%出資を認める国として、マレーシア、ベトナム、中国、タイが挙げられる。

マレーシアについては、「流通取引・サービスへの外国資本参入に関するガイドライン」(MDTCCガイドライン)に基づき、2010年5月以降、卸売業には外資100%出資が可能となっている。それ以前は、ブミプトラ(マレーシア国内のマレー人と先住民族を指し、人口の67.4%を占める、注2)資本が30%以上出資することが要件となっていたが、外資規制の自由化が実施され、現在では外資100%出資がほぼ全ての分野で可能となっている。しかし卸売業のうち、完成車の輸入販売については、オープン輸入許可書(AP)の取得が求められる一方、APは現在、新規発行されておらず、実質的に規制が残されている。

ベトナムについては、原則として外資出資100%可能だが、たばこ、本、新聞、雑誌、ビデオ録画物、貴金属、医薬品、砂糖など一部の品目で外資系企業の取り扱いが認められていない。

中国については、「外商投資商業領域管理弁法」(2004年施行)で、卸売業は原則として外資100%出資が可能だ。ただし、同一の外国投資者が30店舗超を設置する場合で、かつ一部の品目(食料、植物油、医薬品、たばこ、自動車、原油、農薬など)を取り扱う場合には、外資出資比率は49%に制限される。

タイでは、外国人事業法で「1店舗当たり最低資本1億バーツ(約3億1,000万円、1バーツ=約3.1円)未満の卸売業」が外資規制対象となっているため、原則として1店舗当たり最低資本金1億バーツ以上の投資を行う場合のみ、外資100%出資が認められる。最低資本金については、他の国でも課される場合があり、フィリピンとスリランカでは最低資本金20万ドル以上とされている。タイの最低資本金規制は、他の国の水準と比べて高い点が特徴となっている。ただし、(1)同法では外資出資比率50%未満の企業はタイ企業と定義されるため、50%未満までの出資が可能、(2)1億バーツ未満の場合でも、商務省事業発展局の認可取得を条件に50%以上の出資が可能な制度となっている、(3)一部業務については、投資奨励法に基づき、タイ投資委員会(BOI)の認可取得を条件に100%出資が認められる場合もある(その他の例外規定については後述)。

日系企業の関心が高い一方、外資規制が障害となって参入が認められない国がミャンマーだ。新外国投資法に基づく施行細則(2013年1月発表)では、卸売業の外資規制は商業省見解に従うと定められているが、現在、卸売業への外資参入は認められていない。そのため、日系企業を含め外資系企業が販売会社をミャンマーに設立、商品を輸入して国内販売をすることができず、ミャンマーでの輸入販売には地場資本のパートナーと提携する必要がある。ミャンマー市場は今後の成長性が期待されているだけに、卸売業の外資規制緩和への要望が強い国の1つだ。特に、ASEANに加盟するミャンマーは、2015年のASEAN経済共同体(AEC)創設に向けて交渉が行われているASEANのサービス枠組み協定(AFAS)に基づき、今後、卸売業を含むサービス業の外資規制緩和が行われることが期待されている(AFASについては後述)。

同様に、ラオスでは過去、卸売業についてラオス資本との合弁の場合のみ認めると裁量的な規制となっていたが、2012年にはASEAN域内の投資家を対象に、輸入会社設立を条件に、かつ繊維、衣服、靴製品を取り扱う場合には外資出資比率49%までを可能とする内容の通達が公表されている。投資家、分野を限定した内容で、現在はミャンマーと並び、卸売業で厳しい外資規制が残されている国に位置付けられる。

また、バングラデシュでは外資参入を禁止する明文規定はないが、投資庁においてサービス業への外資出資に対して個別に審査が行われるため、投資庁との調整が必要となっている。

<多くの国で物流業への出資は50%未満に制限>
一方、物流業は各国で厳しい外資規制が課されている。アジア主要国の物流業への外資規制を比較したのが添付資料の表4で、主要国の多くで外資出資比率が50%未満に制限されているケースがみられる。一部の物流業を対象とする場合も含め、外資による半分以上の出資が制限されている国は、中国、タイ、マレーシア、インドネシア、ラオス、バングラデシュ、スリランカ、ベトナムだ。

中国については、道路貨物輸送業、倉庫保管業は外資100%出資が可能だが、航空、海上貨物サービスは外資49%までに制限されている。タイについては、外国人事業法のネガテイブリスト(外資規制対象業種リスト)付表2(注3)に該当し、外資出資比率50%未満に制限されている。ただし、同法では外資出資比率50%未満の企業はタイ企業と定義されるため、50%未満までの出資は可能だ。また外国人事業法上は、内閣の承認の下、商務相の認可取得により50%以上の外資出資が可能な制度となっている。また、一部業務については、投資奨励法に基づき、タイ投資委員会の認可取得を条件に100%出資が認められる制度ともなっている。

マレーシアについては、陸上貨物輸送について51%のマレーシア資本(うち最低30%はブミプトラ資本)の出資を求める外資出資規制(外資出資比率は49%まで)に加え、最低資本金規制〔25万リンギ(約775万円、1リンギ=約31円)〕などが課されている。海運については、最低30%のブミプトラ資本の出資が求められる。一方、空運は100%外資出資が可能で、倉庫業は保税倉庫では最低30%のブミプトラ資本の出資が求められるなど、分野ごとにかなり細かく規制されている点が特徴だ。

インドネシアも一般貨物輸送など幅広い分野で外資出資比率49%までに制限され、ラオスも法令で明確に規定されていないが、商工省の内規で外資出資比率49%以下に制限されているとされる。バングラデシュも外資出資49%までに制限され、かつ2012年4月以降、新規認可が停止された状態にあるとされる。スリランカも外資出資40%まで出資可能だが、40%超の出資は投資庁(BOI)からの個別認可取得が求められる。

ベトナムは、海上貨物輸送(外資出資49%以下)、陸上貨物輸送サービス(外資出資51%以下)、通関サービス(外資出資99%まで出資可能)など個別分野ごとに詳細に外資出資規制が定められている。倉庫サービスについては2013年末までは外資出資が51%以下に制限されていたが、2014年1月以降は外資100%出資可能となった。

一方、カンボジア、フィリピン、インド、パキスタンは物流業において緩やかな外資規制が適用される国だ。カンボジアについては、卸売業、小売業同様に特段の外資規制はみられない。フィリピンでは、国内運輸は原則として外資出資40%までに制限されているが、最低資本金20万ドル以上の場合は外資100%出資が認められる。インドは、物流業については商工省の外資規制業種リストに掲載されておらず、100%出資が可能と理解される。パキスタンは、卸売業、小売業と同様に、外資100%出資が可能となっている。

なお、ミャンマーについては、投資委員会(MIC)通達で、国内空輸、国際空輸、船舶および荷船による貨物輸送業務、内陸コンテナデポの建設を通じた国内港湾業務および倉庫は外資80%まで出資が可能。ただし、個別に運輸省などとの事前協議が必要とされている。一部の物流業では100%出資が認められたケースもみられる。

(注1)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2013年)」はジェトロ・ウェブサイト参照。
(注2)マレーシア統計局のウェブサイト参照。
(注3)タイのネガティブリスト(外資規制対象業種リスト)は外国人の事業活動が許可されない業種を列挙した付表1、50%以上の出資には内閣の承認の下、商務相の許可が必要な業種を列挙した付表2、50%以上の出資には外国人事業委員会の承認の下、局長の認可が必要な業種を列挙した付表3の3種類に分けられている。運輸業は付表2に分類されている一方、小売業と卸売業は付表2よりは条件が緩やかな付表3に分類されている。

(椎野幸平)

(ASEAN)

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