小売業は一定規模以上で参入可能、卸売業規制はあいまい−アジアの卸小売りと物流への外資規制(13)−

(スリランカ)

コロンボ事務所

2014年01月31日

小売業に外国企業が参入するには、100万ドル以上の資本金で現地法人を設立する必要がある。卸売業に関する規制はあいまいで、運輸(物流)業では外資出資比率規制があり、原則外資の出資は40%までだ。小売業に関しては、フランチャイズ展開が当面の現実的な進出形態といえそうだ。

<小規模な小売業は外資参入禁止>
スリランカでは、以下に該当する小売業(Retail trade)への外資参入は認められていない。

○現地法人の場合:資本金100万ドル以下
(根拠法令)2002年4月19日付臨時官報No.1232、パートIセクション(I)

○海外支店の場合:資本金200万ドル以下
(根拠法令)2010年11月22日付臨時官報No.1681、パートIセクション(I)

現地法人に関する根拠法令では、原則100%まで外資による設立が可能という前提で、(1)適用外の分野、(2)外資の出資規制がある分野、が列記されている。この適用外の分野の1つとして、小売業に関する前述の内容が記載されている。また、海外支店については、「海外支店に認められていない商業・貿易・産業活動」の1つとして前述の内容が挙げられている。つまり、スリランカでは、現地法人の場合は100万ドル以上、海外支店の場合は200万ドル以上の資本金でのみ外資の小売業参入が可能、ということになる。スリランカの外資誘致機関である投資庁(BOI)によると、この外資規制は単独資本、合弁を問わず適用されるとのことで、合弁の場合も、外資出資比率にかかわらず外資分は100万ドル以上でなければ小売業への参入は認められないという。

<政府機関によって「卸売業」の定義が異なる>
しかし、根拠法令には「小売業(Retail trade)」が具体的にどのような業種を含むかまでは明記されておらず、これを補足する文書もない。このため、「卸売業」について、政府機関によって解釈が異なるという事態が生じている。会社登記局(ROC)によると、卸売業向けの外資規制は特になく、他業種と同様に海外支店として設立する場合には20万ドルの投資額(BOI認可を受けない現地法人であれば特段の規制なし)という条件を満たせばよいという。一方、BOIに聞いたところでは、「Retail trade」にはいわゆる「小売業(Retail)」のほか「卸売業」も含まれるとの解釈で、前述の条件(現地法人:100万ドル以上、海外支店:200万ドル以上)が卸売業への外資参入にも適用されるという見解だ。

1つの事項に関して、政府機関あるいは担当者ごとに見解が異なるという事態は、スリランカでは決して珍しくなく、それ自体が外資の参入障壁になっているともいえる。いずれにしても現状では、卸売業への外資規制はあいまいと言わざるを得ない。

<運輸(物流)業務にも外資規制>
運輸(物流)業については、前述の根拠法令で、以下のような外資規制が設けられている。

○現地法人の場合
・貨物輸送、海運代理業
外国投資の出資割合は40%まで(BOIの認可があった場合に限り、これ以上の外資の出資が認められる)。
・航空運送業、沿岸海運業
(外国投資の出資割合は)スリランカ政府あるいは当該業種への外国投資認可のために設立された司法/行政機関が認可した割合まで。

○海外支店の場合
・貨物輸送、海運代理業
海外支店に認められていない商業・貿易・産業活動。
・国内航空運送業、沿岸海運業
為替管理局長の事前認可が必要な活動。

このように、貨物輸送、海運代理業は、現地法人としては40%出資を上限に外資参入が認められているが、海外支店としての外資進出は認められていない。航空運送業、沿岸海運業への海外支店の進出については、スリランカ政府からの認可取得が条件となっている。ただし、貨物輸送、海運代理業はBOIの認可があれば40%以上の外資出資が可能となっており、BOIによると、投資額が大きく当該企業の進出が同業他社の呼び水になると判断した場合には、例外的に100%外資を認める可能性もあるという。

<現地生産を行うことで参入障壁が下がる分野も>
前述の外資規制・参入条件を整理したのが表1だ。BOIによると税制優遇措置が受けられるBOI法17条認可を受けた外資系の農業・製造企業は、小売りについて別途ルールが設けられている。BOI法17条認可を受けるには、BOIが優遇措置対象に定める業種と最低投資額を満たさなければならないが、この中には対象業種として輸出志向型製造業、加工を含む農業・畜産業・水産業が含まれている。そして、輸出志向型製造業については、生産量の最大10%まで国内市場で販売できる(90%以上は要輸出、注)。また農業もしくは食品加工業を営む企業は、生産品を国内市場で販売できる(輸出要件はなし)。農業については、BOI法17条認可を得る要件となる最低投資額は2,500万スリランカルピー(約19万ドル、1ドル=約130ルピー)からのため、現地生産をすれば小売市場への参入障壁がかなり下がることになる。実際に、食品加工業という形態でBOI17条認可を得て、食品小売業を展開している外資系企業もある。

表1スリランカの流通業に対する外資規制

<小売業ではフランチャイズ展開が現実的な選択肢か>
外資規制は以上のとおりで、小売業については、いわゆる地場のパパママショップの保護を目的としており、100万ドル(海外支店の場合は200万ドル)以上の資本金という大規模投資であれば、外国企業の参入も認めている。ところが、表2のとおり、スリランカの小売市場における外国ブランドは地場企業によるフランチャイズ展開が大半で、外国企業の直接投資という形態はほとんどみられない。外資規制が障壁になっている面もあるだろうが、人口約2,000万人という限られた市場規模ゆえに、外資系小売企業にとって本格参入の対象になっていないとも考えられる。

表2フランチャイズで展開する外国ブランド

2009年の内戦終結以降、地場資本によるスーパーマーケットの店舗拡大、婦人服ブティックやアパレルショップの急増など、順調な経済成長に伴う人々の消費意欲の高まりに呼応して小売業分野も活性化しているのは確かだ。ただ、100万ドル以上の投資をしてスリランカの小売市場に進出するというのは、一部の大企業を除けば決してハードルは低くはないだろう。広範な販売網を持つ地場の小売企業を活用したフランチャイズ展開が、当面は現実的な進出形態かもしれない。

(注)アパレル、セラミックについては最大40%まで国内販売可能。

(崎重雅英)

(スリランカ)

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