WTO加盟を機に規制緩和進むか−アジアの卸小売りと物流への外資規制(9)−

(ラオス)

バンコク事務所・アジア大洋州課

2014年01月27日

卸売業や小売業におけるラオスの外資規制が2012年以降、強化されている。両者とも外資100%での参入はできず、特に小売業は一切の外資参入が禁止された。外資導入が進む中で、自国産業の保護が最大の目的だ。物流業への外資出資も49%に制限されている。一方、政府はWTO加盟やASEAN経済共同体構築の流れの中で、サービス業で一定の開放も迫られている。

<卸売業と小売業への外資規制を強化>
かつては、「小売業における外国投資家による出資比率は25%未満、卸売業はラオス国籍企業との合弁を組めば投資できるが、出資比率は別途規定する」とされていた。ところが、2012年5月18日付「卸売・小売事業に関する商工省決定(No.0977/MOIC.DDT)」が出され、(1)小売業については外資企業による参入を一切認めない、(2)卸売業については輸入会社を設立することを条件に外資参入も認める、と改定された。

その後、2012年6月28日付「ラオスにおける卸売りのための輸入企業設立時の外国人投資家の合弁が可能な商品と投資比率についての商工省大臣告示(No.1265/MOIC.SLT)」において、前述条件の下でASEAN域内の外資に開放される卸売業の分野は「繊維、衣服、靴製品(ISIC:4641)」の3種のみとし、ASEAN域内の外資の出資比率は49%以下と規定された。卸売業については輸入会社設立を条件に、かつ繊維、衣服、靴製品の取り扱いについてのみ外資参入が認められることになったと考えられる。

さらに、2012年7月20日付「ラオスにおける卸売りのための輸入企業設立時の外国人投資家の合弁が可能な商品と投資比率についての商工省副大臣告示(No.1489/MOIC.SLT)」で、ラオス国籍者から名義借り(ビジネスそのものには関与しないラオス国籍の企業もしくは個人から、名義だけを借りることで出資制限をクリアすること)をしていることが判明した場合には、ラオス企業法に基づき即時に事業を解散する、などの罰則措置が追記された。

<商業施設の建設は足踏み状態>
ラオスは、約640万人と人口規模は小さいが、豊富な天然資源や電力輸出により経済成長が著しいこともあり、2012年の1人当たりのGDPは1,446ドルとベトナム(1,528ドル)に並ぶ水準で、2001年から2012年までの平均伸び率も15%に上る。首都ビエンチャンでは3,346ドル〔2013年度(2012年10月〜2013年9月)、ビエンチャン都庁会議発表〕と、インドネシアに並ぶ水準だ。

このような自国経済の成長に加え、中国やタイにおける賃金水準の上昇、労働力不足といった周辺国の労務環境の変化もあり、ラオスへの製造業を中心とした外資参入が加速している。上昇を続ける所得水準を背景に、大規模かつ近代的な商業施設の建設も増え、ビエンチャン市内では商業施設の建設・開発は計画段階のものも含めると14件に上る(2013年12月時点)。

政府が小売業、卸売業の双方において外資規制を強化したのは、この外資参入の増加に対し、まだ十分に成長していないラオス国内資本を保護することが目的とみられる。規制が強化されて以降、小売業、卸売業への新たな外国投資案件は出ていない。また、商業施設の建設計画には外資系企業によるものも含まれるが、これらは規制が厳しくなる前に認可されたものだ。しかし、その多くが中国やベトナム資本で、建設が計画どおりに進んでいない案件も多いようだ。

<外資への開放が期待される物流業>
物流業においては、現時点で外資規制を定める明確な法令の発布は確認されておらず、商工省の内規で「外資企業の出資比率は49%以下」と制限されている。ビエンチャン日本人商工会議所の会員で、運輸業として法人設立している企業は2社、駐在員事務所は1社だ(2013年12月時点)。

ラオスに進出する製造業の多くはビエンチャンに拠点を置いていて、その多くが、輸出入をする際はタイのレムチャバン港を利用している。ラオスの物流業者は自前のトラックや倉庫は持たず、タイ側に拠点を置く物流業者の仲介をするにとどまっており、実際の輸送はタイ側の業者が行っているのが実態だ。

ラオス物流企業であるSociete Mixte de Transportは「これからは、ラオスの物流会社はもっと戦略的に海外の輸送会社と連携する必要がある」という。物流業における外資規制の緩和が進み、外国資本が投入されることでラオスの物流業界が競争力を増し、独自の輸送サービスなども提供することが期待される。

なお、ラオスでは企業設立において、一般法人のほかにも外国企業の支店という形態での進出が可能とされるが、現状では金融機関、保険会社、国際コンサルタント、航空会社のみとされ、これまで卸売業、小売業や輸送会社などに適用された実績はない。

<規制緩和と統一的な対応に期待も>
ラオスは2013年2月2日、158番目の加盟国としてWTOに正式加盟した。これによりサービスセクター155分野中79分野で、外資による投資を開放することとなっている。このロードマップによると、流通分野(小売り、卸売り、フランチャイズ)では、加盟後7年間(2020年)までは現状を維持し、7年後から外資出資比率を49%以下まで開放することが約束されている。一方、物流業についてはこの約束の対象外とされている。

ラオスでは、これまで小売業や卸売業に対する外資規制が不明瞭で、法律や規制と実際の運用に乖離があり、政府との交渉次第では規制対象であっても許認可が下りるケースもあるなど、統一的な対応が行われないことが多かった。実際、2011年にはフランス系のハイパーマーケットBigCが100%タイ資本(同社タイ子会社からの出資)として認可されたケースもあった。しかし、WTO加盟を契機に法律の統一的運用が強化されてきており、今後はこのような例外的な認可が難しくなっていくとみられる。物流業においても、同様のことがいえる。

また、2015年のASEAN経済共同体の構築を控え、ASEAN地域として新たな規制緩和に向けた取り決めや行動計画が定められる可能性もある。ラオスへのサービス業進出に際しては、中長期的な視点に立ち、規制の状況と緩和の方向性をしっかりと確認していく必要があろう。

(山田健一郎、小野澤麻衣)

(ラオス)

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