小売・卸売業の外資参入は困難、物流業にも障壁−アジアの卸小売りと物流への外資規制(8)−

(ミャンマー)

ヤンゴン事務所・アジア大洋州課

2014年01月24日

2012年以降、「ミャンマーブーム」を背景に日系企業の対ミャンマー投資が進み始めた。電力などのインフラが未整備で製造業は足踏みしているところもあるが、建設、ITのオフショア開発に加え、法律・会計事務所、コンサルティング、貸しオフィスなどビジネスサポート分野の進出が増えている。しかし、小売・卸売・物流業への外資参入障壁は依然高く、こうした分野の日系企業では合弁などでの参入を模索、実現する動きも出つつある。

<小売・卸売業の外資参入にさまざまな細則>
小売り・卸売り分野の外資規制については、2012年11月に制定された新外国投資法に基づいて、2013年1月31日に発表されたミャンマー投資委員会(MIC)による施行細則(MIC通達)に明文規定がある(2013年2月15日記事2月18日記事参照)。この中で、小売業、卸売業は「特定の条件下でのみ参入可能な事業」に該当しており、以下のような細則がある。

○小売業に関する細則
・小売業:小規模小売りの形態には参入できない。スーパーマーケット、百貨店、ショッピングセンターの形態は認められる。ただし、ミャンマー企業の既存店舗に近接した場所では開店できない。国産の商品を優先的に購入し販売すること。合弁(JV)の場合はミャンマー企業側が最低40%の出資をすること。
・自動車、オートバイを除く小売り:2015年以降のみ認める。最低300万ドル以上の投資とすること。免税措置なし。
・フランチャイズ:外国企業はフランチャイザーとしてのみ認められる。
・専門店以外の小売り:百貨店とハイパーマーケットは5万平方フィート(1平方フィート=約0.09平方メートル)以上、スーパーマーケットは1万2,000平方フィートから2万平方フィートの店舗面積を有すること。
・専門店以外の食料品、飲料(アルコールを含む)、ミャンマーたばこなどの小売り:店舗面積2,000平方フィートから4,000平方フィートまで。

○卸売業に関する細則
・卸売業:商業省の見解に従う。

小売業については、上述の5つの細則が関係するとみられるが、それぞれの条件にはあいまいな部分が残っている。例えば、ミャンマー企業の既存店舗に近接した場所では開店できないとあるが、距離については記されていない。また、国産の商品を優先的に購入し販売するとあるが、どれぐらいの比率なのかも記されていない。また、小売業は2015年以降に外資開放されると規定されており、この見通しについて政府関係部局に問い合わせたところ、「MIC通達のとおり」との回答のみだった。さらに、卸売業については「商業省の見解に従う」とあるが、政府関係部局に問い合わせたところ、現在、卸売業に対しての許認可をどうするか議論しているとのことだった。

<会社法に基づく参入も不可能に>
ここまで外国投資法の説明をしてきたが、外資だからといって必ずしも外国投資法によらなければ現地法人を設立できないということはない。外国投資法上の恩典はなくなるものの、ミャンマー会社法によると、外資も企業登記・営業許可を得れば事業を始めることができることになっている。2002年以前はこの会社法に基づき外資も「商業(Trading)」分野で現地法人設立が認められていた。商業は小売・卸売業(貿易業も含む)を指しており、過去には外資が国内で物品を購入し輸出したり、輸入したものを国内販売したりすることができた。しかし、2002年以降、突然、外資は商業分野での企業登記・営業許可が認められなくなってしまい、明文化されてはいないものの、現在まで認められないままとなっている(注1)。結局のところ、外国投資法に基づいても基づかなくても、外資が小売・卸売業に参入することは今のところ不可能となっている(注2)。

<地場代理店を見つけての参入の動き>
ここまでみてきたように、外資が小売・卸売業でミャンマー市場に参入しようとすれば、地場のパートナーを見つけ、輸入販売してもらうしかない(注3)。こうした中で2013年8月、双日は地場流通最大手シティー・マート・グループと、ミャンマーにおける生活消費財・食料品の卸売事業を共同で展開していくことで合意、資本・業務提携契約を締結。シンガポールに共同出資の新会社を設立し、同グループ向けの生活消費財・食料品の調達をすると発表した。ただ、双日のようにミャンマー国内に新会社を設立しないまでも、地場の代理店を見つけて参入する動きも増えつつある。

<合弁で活路を見いだす日系物流企業も>
一方、物流業(運輸業)の外資参入については、外国投資法、MIC通達において次のような細則がある。

○「ミャンマー国民との合弁事業形態においてのみ参入可能な42分野」の物流関連業務(この場合は外資は80%までとする出資制限がある)
・国内空輸業務
・国際空輸業務
・船舶および荷船による乗客および貨物輸送業務
・内陸コンテナデポ(ICD)の建設を通じた国内港湾業務および倉庫

○「特定の条件下でのみ参入可能な27分野」の物流関連業務
・倉庫(中小規模の倉庫業は認められない。JVの場合はミャンマー企業側が最低40%を出資すること)

上記の業務以外の物流業でも、MIC通達には運輸省管轄として貨物取扱業務などを始める場合は「連邦政府の承認および運輸省の推薦が必要」とされており、その承認・推薦の基準のあいまいさが課題となっている。

一方、上述したように、外資であっても外国投資法によらずに会社法で現地法人を設立することが認められており、この形態で「物流サービス業」として認められる事例が出ている。日本からミャンマー向けの中古自動車コンテナ輸送などを手掛けるジー・ティー・シーエイシアは、100%出資の現地法人を2012年9月に設立して2013年1月から操業を開始したと発表した。日系物流サービス業で初めての案件だ。続いて、同年2月、三菱倉庫と日本航空の貨物事業子会社ジュピター・グローバルがミャンマーで物流事業を手掛ける現地法人を共同設立予定と発表、5月に設立された。加えて、阪急阪神エクスプレスも2013年8月に現地法人設立を発表した。いずれも航空、海上、陸上輸送を行う地場代理店と提携・業務委託し、それをコーディネートするかたちで物流サービスを提供できることになったが、ジェトロが把握する限り、このような現地法人設立はこれら3例のみだ。2012年以降、日系物流企業のミャンマー参入が相次いだが、基本的には駐在員事務所のような「支店」を設立して、情報収集、荷主のケアなどの業務をするにとどまっていた。このような中、3社とはいえ「物流サービス業」での現地法人設立が認められたことは画期的だった。

しかし、ある日系物流企業の関係者によると、物流業に対して以前は外資100%による法人設立が可能だったが、運輸省の判断により2013年8月ごろを境に急に外資100%での現地法人設立が認められなくなり、合弁のみ認められることになったという。明文規定はともかく、運用実態としては非常にあいまいな状態となっている。

<合弁でより幅広い物流事業を展開>
ミャンマーの物流事業に合弁で取り組む事例も出てきている。日立物流の子会社である日新運輸は2012年12月、ヤンゴンに地場企業と合弁で現地法人を設立、2013年1月から営業を開始した。3月には工場を完成させ、物流サービスのみならず、日系フォワーダー(荷主と輸送会社の仲介業者)として縫製品の検針・検品などの流通加工機能を保有する初の合弁会社となった。主にアパレル業界の顧客にフォワーディング業務と検針・検品などの流通加工を提供しつつ、農産品、インフラ関連資機材の輸出入も行うなど、業務を軌道に乗せつつある。また、上組は2012年7月に支店を設立し駐在員が常駐し始めていたが、2013年3月に地場最大手の物流企業エバー・フロー・リバー(EFR)とトラック共同事業に関する契約を締結したと2013年4月に発表した。同社は「共同事業を足掛かりに近く合弁会社を設立し、車両の整備(2014年末に180台)と人員の増強や組織の強化をしていく」とも述べている。

ミャンマー内市場に参入するビジネスについては、地場企業保護の観点からも、流通・物流業に限らず外資参入のハードルは高いといえる。しかし、そうした地場企業との提携、合弁などのかたちで活路を見いだし、先行してシェアを取ろうとする日系企業の動きも活発になっているといえる。

(注1)合弁の場合でも同様に認められない(外資が入ると、合弁でも外国企業扱いとなる)。
(注2)外国投資法の細則として、MIC通達と同日に公布された国家計画・経済開発省通達No.11/2013(MNPED通達)の第175条において、「新外国投資法の細則は商業を対象としていない」ことが記述されている。この意味するところの詳細は不明だが、商業分野での外資参入に関しては外国投資法に基づく認可を受けることが難しいことが読み取れる。
(注3)ミャンマー国内に製造拠点を構え、原料を輸入し、製造・加工後に国内販売することは外資でも可能となっている。また、製造・加工後の輸出も同様に可能だ。

(小林広樹、小島英太郎)

(ミャンマー)

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