停滞するサービス産業の外資規制緩和−アジアの卸小売りと物流への外資規制(3)−

(マレーシア)

クアラルンプール事務所

2014年01月17日

外資企業の参入は、製造業ではほぼ100%出資が可能だが、サービス業の卸・小売り、物流などには各種の規制がある。特に出資比率の規制として、マレー人と先住民族の総称であるブミプトラの出資を要求される分野もある。また、コンビニエンスストアなど日本企業の競争力の高い業態が参入禁止業種に分類されるなど課題は多い。ナジブ首相は2014年にサービス産業を対象とした成長戦略を策定する予定で、どういった規制緩和が導入されるか注目される。

<コンビニは参入禁止業種>
卸・小売業に対する外資規制は、国内取引・協同組合・消費者省(Ministry of Domestic Trade, Co−operatives and Consumerism:MDTCC)が管轄する。規制内容は、「マレーシア流通取引・サービスへの外国資本参入に関するガイドライン(MDTCCガイドライン)」に記載されている(注)。同ガイドラインでは、ハイパーマーケット、デパート、スーパーストア、専門店、その他のさまざまな販売形態、の5つの分野が定義されている。

ハイパーマーケット(5,000平方メートル以上の販売床面積があるセルフサービスの販売店)およびスーパーストア(3,000平方メートル以上4,999平方メートル以下の販売床面積があるセルフサービスの販売店)に対しては、最低30%のブミプトラ資本の出資要件を課し、各店舗の陳列スペースにおける商品数の最小管理単位(SKU)のうち最低30%は、ブミプトラ中小企業商品のために確保することが義務付けられている。また、スーパーストアの申請はハイパーマーケット事業者のみに限られており、最低払込資本金はそれぞれ5,000万リンギ(約16億円、1リンギ=約32円)、2,500万リンギとなっている。

デパートなどは外資出資制限やブミプトラの出資要件はないが、最低払込資本金は2,000万リンギとなっている。なお、デパートは、一般的には1つの共通した店舗経営の下、性別、年齢またはライフスタイルによる部門別に、各種取りそろえられた広範囲にわたる消費者商品を、セルフサービスもしくはセールスアシスタントを伴って小売り販売する店、と定義されている。

専門店についても、外資出資制限やブミプトラの出資要件は課されていないが、100万リンギの最低払込資本金が必要となる。

また、同ガイドラインには外資参入禁止業種も記載されており、例えば、コンビニエンスストア、ガソリンスタンド、販売面積が3,000平方メートル未満のミニマーケット、食料品店、一般販売店、新聞販売店、雑貨店、薬局(伝統的なハーブや漢方薬を取り扱う薬局)、常設の市場(ウエットマーケット)や歩道店舗、国家戦略的利益に関与する事業などが禁止業種に指定されている。

<航空宅配便は100%参入可能>
物流面の外資規制は、(1)陸運、(2)海運、(3)空運、(4)倉庫、(5)その他、に分けて記述されている。

(1)陸運
陸運業に参入する場合は、商業車両ライセンスが必要となる。このライセンスの発給は、陸路公共交通委員会(SPAD)が管轄している。根拠法令は「1987年商業車両ライセンス委員会:Commercial Vehicles Licensing Board 1987」。ライセンスは、クラスA(貨物)、クラスA(コンテナ)、クラスC(会社所有の物品の輸送)の3つに分かれている。クラスCは、100%の外資参入が認められており、最低払込資本金は25万リンギ、運転資金として、ライセンスを取得する車両の価格の30%が要求される。クラスA(貨物)は、資本条件として51%はマレーシア国籍(うち最低30%はブミプトラを含む)の資本が求められる。最低払込資本金は25万リンギで、運転資金としてライセンスを取得する車両の価格の30%が要求される。なお、クラスA(コンテナ)ライセンスの発給は現在、凍結されている。

(2)海運
海運業に参入する場合は、国内船舶ライセンスが必要となる。このライセンスの発給は、運輸省(MOT)が管轄している。根拠法令は「1952年商業船舶法令(Merchant Shipping Ordinance 1952)」。船舶がマレーシア船籍の場合、認可条件の達成度合いによってライセンス期間は変わってくる。最大で2年の認可が得られる。2年の認可の場合、最低30%のブミプトラ資本およびこれを反映する取締役会を構成すること、事務系スタッフの30%以上はブミプトラであること、船員の75%以上はマレーシア人であること、船齢10年未満の船舶であること、などの認可要件をクリアする必要がある。外国船籍の場合、最長の認可期間は3ヵ月で、資本条件は特にない。

(3)空運(航空宅配便)
航空宅配便に参入する場合は、宅配便(クーリエ)サービスライセンスが必要となる。このライセンスの発給は、マレーシア通信・マルチメディア委員会(MCMC)が管轄している。根拠法令は「1991年郵便サービス法(Postal Service Act 1991)」。ライセンスは、クラスA(適用範囲:マレーシア国内/海外)、クラスB(マレーシア国内/インバウンド)、クラスC(特定区域)に分かれ、100%外資出資が認められる。なお、最低払込資本金はそれぞれ100万リンギ、50万リンギ、10万リンギとなっている。

(4)倉庫業
倉庫業は「私設保税倉庫」「一般保税倉庫」に分類される。前者は企業が自社のために所有する形態、後者は多数の企業の物品を扱う形態で、関連法規はともに「1967年税関法(Custom Act 1967)」。所轄官庁は倉庫が所在する州の税関。資本要件は、前者は外資参入が100%認められているが、後者は最低30%のブミプトラ資本を必要とする。前者への参入要件は、倉庫に保管する物品の年間最低価額が最低500万リンギ必要になるが、重要物品(アルコール飲料、たばこ、自動車)と非重要物品の2種を取り扱う場合は、それぞれ最低500万リンギの価額が必要になる。後者は倉庫の面積要件を重要物品では5万平方フィート(約4,650平方メートル)、重要物品以外では2万フィートとする。

保税でない倉庫は税関の管理下にはなく、「1976年地方自治法(Local Government Act 1976)」が関連法規となる。非保税倉庫であるため、保管する物品は無税または税金を支払い済みのものとする。所轄官庁は所轄の地方自治体で、資本条件などの外資規制はない。認可要件として、ビジネスライセンスの取得や建物の使用許可が必要となる。保税でない倉庫は税金を支払い済みということもあり、保税倉庫と比べて外資の参入が容易だとみられる。

(5)その他
船会社代理店の設置は、会社が所在する州の税関が管轄し、根拠法は「1967年税関法(Custom Act 1967)」だ。外資参入に当たっては、100%出資が認められている。通関業は「1967年税関法(Custom Act 1967)」に基づいて、進出条件が規定されている。所轄は本社が所在する州の税関で、最低51%のブミプトラを資本条件とするが、現在、新規ライセンスは凍結中だ。

<規制緩和の動きも>
最近はASEAN経済共同体(AEC)、ひいては国内経済活性化を見据えたサービス業の数少ない規制緩和の動きもみられる。例えば、2012年7月にマレーシア投資開発庁(MIDA)が発表した国際総合物流サービス(IILS)では、資本条件は課されないとともに、ブミプトラの資本構成から免除される。また現在、凍結中の通関業のライセンスを取得できる。

コンビエンスストアへの参入は、外資参入が規制されていることもあり、実現が難しい。そこで、外国企業は出資比率を0%とし、マレーシアの国内企業が事業を「マスターフランチャイジー」か「フランチャイジー」として行い、外国の「フランチャイザー」からロイヤルティーを受け取る形態での進出が行われている。しかし、出資を伴った進出を要望する声は強く、2013年10月にマレーシア日本人商工会議所(JACTIM)は、あらためてMDTCCにコンビニエンスストアへの出資規制緩和を求めた。

<サービス業成長戦略の発表に注目>
2009年に就任したナジブ首相は、就任当初こそサービス産業の規制緩和を打ち出したが、その後の歩みは鈍い。

2013年5月に実施された第13回総選挙におけるマレー人を中心とするブミプトラからの支援を狙い、競争が激化する規制緩和は抑制されたとの見方が一般的だ。さらに選挙後の9月には、政府調達でブミプトラ企業を優遇する措置強化が発表された。一方で、総選挙、党役員選挙を終えた首相は2014年度予算案発表時には、2014年にサービス産業の成長戦略を発表すると演説しており、サービス産業の外資規制緩和に言及されるか注目されている。

(注)最低資本金など詳細はウェブサイトを参照。以下の内容は2013年11月29日時点の情報に基づく。規制内容は随時、変更があるので、進出する際は監督官庁に確認していただきたい。

(新田浩之)

(マレーシア)

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