投資誘致インセンティブを活用し製造拠点設立−注目を集めるパラグアイの投資環境(2)−

(パラグアイ、ブラジル)

サンパウロ事務所

2014年01月16日

シリーズの2回目。政府による投資誘致政策の柱は、法律60/90号による制度と、法律1064/97号によるマキラ制度だ。マキラ制度はパラグアイをブラジル向け生産加工拠点とする際に利用価値が高いと企業の関心を呼んでおり、日系企業もこの制度を活用してパラグアイ進出を果たしている。

<2つの制度が投資誘致政策の柱>
投資誘致政策の柱の1つである法律60/90号は、それまでの法律を改正するかたちで1990年に制定されたもので、投資元の国内外を問わず適用される。同法の適用を受けて投資を行えば、事業に必要な資本財・原料などの輸入関税、資本財の購入にかかる付加価値税、会社設立にかかる税金などが免除される。また、国外からの500万ドル以上の投資の場合、配当金などの海外送金にかかる諸税が免除される。これらの恩典は国外からの投資の場合、10年間有効となる。

もう一方の柱であるマキラ制度は法律1064/97号に規定された制度で、メキシコの同様の制度(注1)を参考にして作られ、2000年の政令9585/00号によって詳細な規則が定められた。マキラ制度は国内のマキラドーラと国外のマトリス(注2)の契約の下に適用される。マトリスから輸入した資本財・原料などを用いてマキラドーラが生産、修理などを行い、それを輸出することで諸税の減免などの恩典を享受できる。主な恩典は、(1)生産に必要な資本財・原料などの輸入関税保税、(2)単一税以外の全ての税の免除(注3)、(3)原料などの購入に際して支払った付加価値税の還付、だ。なお、同法適用地域は環境保全地域などを除く国土全体で、財だけでなくサービスについても同法が適用される。

これら2つの制度に加え、パラグアイでは役員構成に国籍の規制がなく、また外資100%の会社設立が可能で、周辺諸国と比べると会社設立のハードルは低い。実際、会社設立にかかる期間は2〜3ヵ月といわれている。また、南米南部共同市場(メルコスール)域内調達率が40%以上であれば、ブラジルなど域内諸国に対して、保護品目以外の製品を関税率0%で輸出できる。

各種制度を利用して製造拠点を設立することで大幅なコスト削減が図れるため、ブラジル企業がパラグアイに関心を寄せている。また、パラグアイの首都アスンシオンからブラジル最大の都市サンパウロまでは1,400キロ弱で、トラック輸送が十分可能な距離だ。

<増加するマキラ制度の利用>
マキラ制度を所管する国家輸出マキラドーラ産業審議会(CNIME)によると、現在までに認可されたマキラプロジェクト数は52件で、そのうちの7割近くはブラジル企業によるものだという。10年以上続く制度の割に認可件数は少ないが、その背景にはパラグアイのメリットが顕在化したのがここ数年だという事情がある。その証拠に、過去3年間の認可件数は20件近くに上っている。CNIMEのエルネスト・パレデス代表は、2018年までの5年間でマキラプロジェクト認可件数を現在の約2倍の100件にすることを目標にしていると語る。

近年、マキラ制度を活用した日系企業の進出もみられる。2011年には自動車電装事業を手掛けるフジクラが、ブラジル国境沿いの町シウダー・デル・エステ郊外に工場を設立し、自動車用ワイヤーハーネス(組み電線)をブラジルに輸出している。2013年には矢崎総業が首都アスンシオン近郊に工場を設立し、同様に自動車用ワイヤーハーネスのブラジル向け輸出を開始した。製造業の中でも特に、労働集約型の製品を取り扱う企業の進出が始まっている。日本企業をはじめマキラ制度に関心のある企業が次々とパラグアイを訪れており、パレデス代表はそれらの企業の進出に期待している。

(注1)「マキラ(Maquila)」とはスペイン語で保税加工の意。メキシコの制度については、ジェトロJ−FILEの外資に関する奨励に詳細を掲載している。
(注2)国内の保税加工工場、保税加工業者のことを「マキラドーラ(Maquiladora)」と呼び、マキラドーラに対して資本財・原料などを輸出する国外の企業を「マトリス(Matriz)」と呼ぶ。マキラ制度の適用に当たっては、両者間でマキラ制度利用について定めた契約が必要となる。
(注3)売上高、もしくは国内で製品に付加した価値総額の1%が「単一税」として課税され、それ以外の全ての税金が免除される。

(紀井寿雄)

(パラグアイ・ブラジル)

コスト安がブラジル企業を引きつける−注目を集めるパラグアイの投資環境(1)−
期待されるカルテス新政権の取り組み−注目を集めるパラグアイの投資環境(3)−

ビジネス短信 52d615f44f970