2014年から5年連続の最低賃金引き上げ方針を発表

(カンボジア)

プノンペン事務所

2014年01月06日

労働諮問委員会は、縫製・製靴業の工場労働者を対象に、2014年から今後5年間で段階的に最低賃金を引き上げ、2018年には2倍にすると発表した。この最低賃金の引き上げに関しては、2013年7月の国民議会選挙の結果を受けた政治的な背景もあり、今後も注視していく必要がある。

<2018年には最低賃金を現行の2倍に>
労働諮問委員会は2013年12月24日に、今後5年間の縫製・製靴業の工場労働者を対象とした月額の最低賃金の引き上げを発表した(表参照)。2014年は4月1日から適用が開始されるが、2015年以降は毎年1月に適用となる。

2018年までの最低賃金

カンボジアにおけるワーカーの平均賃金(諸手当を除いた基本給)は月額101ドル(ジェトロ「在アジア・オセアニア日系企業実態調査」2013年10〜11月実施)。現在の最低賃金は80ドルで、付加給付として皆勤手当10ドル(2012年9月から義務化)、通勤・寮手当7ドル(2012年9月から義務化、ただし通勤手段や寮などを既に用意している企業は対象外。なおベトナム・カンボジア国境沿いの経済特別区は13ドル)、残業時食事手当0.5ドルもしくは1日1回の食事支給(2011年3月から義務化)、勤続手当(2年勤続2ドル、以降年1ドル、2011年3月から義務化)がある。

縫製・製靴をはじめとする日系製造業では、基本給を現行の最低賃金の80ドルとし、それを残業や休日出勤の算出根拠としているところが多い。今後、最低賃金が毎年引き上げられるのに伴い、残業代や休日出勤手当にも影響が出ることになる。

<国民議会の選挙結果も影響>
今回このような引き上げに至った背景には、2013年7月28日の国民議会選挙の影響もあるとみられる。同選挙では、縫製工場ワーカーの月額最低賃金を150ドルにするという公約を掲げた野党・救国党が大幅に議席を増加した。辛うじて議席の過半数を獲得した与党・人民党が、野党が出席をボイコットする中、2013年9月24日に国民議会を開会し、フン・セン首相を首班とする第5期王国政府が発足した。カンボジア政府代表の労働職業訓練省、ワーカー代表、雇用者代表で構成される労働諮問委員会において最低賃金に関する議論が行われたが、集会などで反発を強める野党は2014年に最低賃金を月額160ドルに引き上げることを要求していた。

イット・ソムヘーン労働職業訓練相は発表後、野党、労働組合が求める2014年の月額160ドルへの引き上げ要求について触れ、「われわれも今回の発表以上の賃金引き上げを行いたいが、それはできない。最低賃金は、生活水準や周辺諸国からの外国投資誘致のための競争など、多様な要因を検討しなければならないからだ。この決定を変えることはない。なぜなら、投資家がカンボジアから撤退してしまうことを恐れているからだ」と説明している。

一方、今回の発表を受けて、労働組合連合・連盟は「今回の賃金上昇発表を拒否する声明を出す予定だ。より高い賃金を求めて全国規模のデモを行う用意がある」と要求が満たされなかったことに反発。野党の救国党も再考を求める声明を出し、今後も最低賃金の見通しについては予断を許さない状況にあるといえる。

<違法ストの余波で操業停止も>
2013年12月16日には、ベトナム・カンボジア国境沿いのバベット地区で、台湾系工場を中心に労働組合連合・連盟が扇動する違法ストライキが発生した。日系企業では、労働法などの法令順守のみならず、福利厚生も充実させており、ストライキは発生していないものの、労働組合連合・連盟の一部がワーカーの就業の自由を脅かし、就業できずに操業停止に陥っている事態となった。この状況の下、サムランシー救国党党首が12月23日にバベットに入り、演説や集会を行った。労働紛争的な要素に、政治的な要素が加わろうとしているようにもみえる。

このような中、日系企業からは「ワーカーは働きたいのに就業できない状況で、操業停止となり、影響は甚大」という声が上がっている。

カンボジアは、これまで周辺諸国と比較すると相対的に人件費が安価で、チャイナプラスワン、タイプラスワンの候補地として注目を集めてきた。前述のジェトロ調査によると、日系製造業のワーカーの平均月額賃金はタイ(366ドル)、ベトナム(162ドル)、ラオス(137ドル)に対して、カンボジアは101ドルと低水準だ。政府は、外資誘致のため、引き続き周辺諸国より相対的に安価な賃金設定を保つ意向だが、野党や労働組合などの活動状況なども勘案する必要があり、難しいかじ取りを迫られているといえる。

(道法清隆)

(カンボジア)

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