輸出の回復で2%台の成長に−2014年の経済見通し−
ジュネーブ事務所
2014年01月09日
経済省経済事務局(SECO)は2013年12月19日、2014年の実質GDP成長率を2.3%、2015年を2.7%とする経済予測を発表した。また、2013年については1.9%と推計した。ユーロ圏で公的債務問題が引き続きくすぶっているなど不安は残るものの、米国を筆頭に世界的に景気回復の兆しがみられることで、これまで低調だった輸出が活気を取り戻してきており、設備投資の回復も期待され、今後スイス経済が活性化すると見込む。
<内需が堅調を維持、雇用も次第に改善>
2014年以降の経済見通しが楽観的となった最大の理由は、2013年後半になって、それまで不振だった財の輸出(注)が、世界的な景気回復基調、国立銀行による1ユーロ=1.20スイス・フランを上限とする無制限介入政策の効果などで好転したことによる。財の輸出は3期連続してマイナス成長となっていたが、第3四半期に前期比3.7%の伸びをみせた。また、安定した内需にも支えられ、SECOは2013年の実質GDP成長率を1.9%と見通す。
SECOは、今後ユーロ圏の公的債務問題が再燃するなどスイス経済を揺さぶるリスクが発生しなければ、2014年以降も景気の回復は継続するとし、2014年の実質GDP成長率を2.3%、2015年を2.7%とした。これはいずれもEUの平均成長率予測を上回る数字だ。不況下でも経済を牽引してきた内需は今後も堅調で、移民の増加による人口増、そして低金利が、個人消費(2014年1.8%増、2015年2.0%増)をはじめ建設や不動産の分野での成長に貢献していくとしている。また、輸出(2014年4.7%増、2015年5.3%増)が安定することで、これまで手控えられていた設備投資(2014年4%増、2015年5%増)も徐々に上向くと見込んでいる。
雇用については、ここ数年間の輸出不振で縮小していた機械、金属など輸出依存度が高い産業部門による雇用も再び積極的になっていくとする一方、建設および多くのサービス分野での雇用は引き続き増加するとし、失業率は2014年3.1%、2015年2.8%とさらに低下するとした。
消費者物価上昇率(年平均)は、スイス・フラン高と輸入価格の後退でデフレ気味だ。今後も緩慢な上昇にとどまり、2014年は0.2%、2015年は0.4%と予測している。
<為替、金融政策は現状維持>
スイス国立銀行は、2013年12月12日に発表した経済状況評価で、スイス・フランの水準は依然として高値だとし、2011年9月に宣言した対ユーロ上限無制限介入の維持を発表した。同時に、政策金利(3ヵ月物ロンドン銀行間取引金利、LIBOR)の目標も引き続き限りなく0%に据え置く方針(目標値は0〜0.25%)を示した。景気は回復傾向にあるとしながらも、中国を除く新興地域やユーロ圏では回復に手間取り、将来的な世界経済立て直しは今後予断を許さないとコメントしている。消費者物価上昇率は、2014年が0.2%、2015年が0.6%とし、SECOとほぼ同様の見解だった。
<スイス経団連、輸出回復を歓迎しながらも将来の動向に慎重>
スイス経団連(economiesuisse)は、2013年12月2日、2013年の実質GDP成長率を2.0%、2014年を2.2%とする予測を発表。スイスの最大の輸出先である欧州でも需要が次第に増加していくとし、2014年の輸出を4.5%増と見込んでいる。また、輸出企業の再活性化で失業率は3%を割る2.9%、個人消費は引き続き堅調で2.1%とした。しかし、チーフエコノミストのルドルフ・ミンチ氏は、現在の金融緩和政策は永久に継続するものではなく、政策転換後にネガティブな影響が出る可能性もあること、ユーロ圏の債務問題の行方が不透明さを残すなど不安要素もあり、スイス経済は必ずしも前途洋々ではないと慎重な構えを示した。一方で、2014年が予測を上回る成長を実現するには、米国が世界経済を牽引する役割を取り戻すことが条件の1つだとしている。
(注)スイスでは、財の輸出について、宝石・骨董(こっとう)品・貴金属などを含む統計と、含まない統計が発表されているが、本稿では含まない統計を使用している。
(ブリショー雅子)
(スイス)
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