第2次ファイマン内閣発足、増税と歳出削減による財政再建を優先
ウィーン事務所
2013年12月26日
オーストリア社会民主党(SPOe、社民党)と国民党(OeVP)は12月16日、2ヵ月以上にわたる交渉を経て、連立内閣を発足させた。社民党のファイマン党首が首相に留任し、国民党のシュピンデレッガー党首が副首相留任のまま財務相を兼任する第2次ファイマン内閣は、首相を除くと閣僚は社民党が6人、国民党が7人の陣容となった。今後の主要課題は、2016年までに財政赤字をゼロにすることだ。目標達成のために、酒、たばこ、自動車の税率の引き上げのほか、退職年齢の実質引き上げ、新規採用抑制による公務員数の削減などを計画している。
<連立交渉は難航>
2013年9月29日に行われたオーストリア議会(下院)選挙(定数183)で、社民党と国民党は双方とも大幅に得票率を減らしたものの、得票率26.9%(52議席)と24%(47議席)で、辛うじて1位と2位を確保し、合計で過半数を確保した(2013年10月2日記事参照)。他の連立の組み合わせは非現実的という認識から、社民党と国民党は10月14日に、連立交渉を開始した。社民党は2008年8月に廃止した相続税・贈与税の再導入や土地税率の引き上げを要求する一方、国民党は増税を一切拒否し、厳しい緊縮財政を要求するなど、交渉は難航し、幾度となく決裂しかけた。しかし、最終的に12月12日、最大公約数的なプログラムに合意した。
<ファイマン社民党党首は首相のポストを維持>
新内閣では、社民党のファイマン党首は引き続き首相を務めるが、国民党は、シュピンデレッガー党首が副首相兼財務相に就任するほか、経済・研究科学相、内務相、外務・欧州統合相、法相などの重要ポストを占めた(表参照)。閣僚の数は前内閣と同じだが、これまで独立した省だった科学技術省が経済省に統合される代わりに、新たに経済省から独立するかたちで家族・青年省が新設された。また、女性・公務員省は解体され、女性問題は教育省の所管となる一方、メディア、公務員、芸術、文化を担当する首相府が新たに設立された。
社民党の閣僚は前政権とほとんど変更がなかったが、国民党の閣僚はミッターレーナ経済相とミクルライトナー内務相が留任する以外は、全て刷新された。シュピンデレッガー氏は外務・欧州統合相から財務相に変わり、農林・環境相にはチロル出身のアンドレ・ルップレヒター氏、法相にはウィーン経済大学教授兼弁護士のボルフガング・ブランドシュテッター氏、家族・青年相には世論調査会社を経営しているソフィー・カルマシン氏が就任した。最も注目されたのは、今まで内務省で外国人統合政策担当の副大臣だったセバスティアン・クルツ氏が27歳の若さで外務・欧州統合相に就任したことだ。
<2016年までに財政赤字ゼロを目指す>
両党の交渉チームが合意した2013〜18年の政府計画は、財政健全化を優先し、減税を後回しにした。政府は、2016年までに財政赤字をゼロ、公的債務残高のGDP比を現在の77.4%から72%に低下させることを目指す。毎年の財政赤字削減額は明記されていないが、2014年は22億ユーロ、2015年は30億〜35億ユーロと試算される。そのために増税と歳出削減を図っている。増税では、国民の反発が強いと思われる所得税、付加価値税を避けて、たばこ、アルコール、自動車などの税率を引き上げることにした。歳出削減は、年金制度改革を進め、各自治体の裁量支出を2018年までに現在より5%減らし、公務員採用停止の継続など構造改革を行う。
<発足当初から批判が多い>
両党の幹部は12月13日、政府計画を承認し、16日にフィッシャー大統領は新内閣を任命、第2次ファイマン内閣が正式に発足したが、当初から反発が強い。日刊紙「クリアー」が行った世論調査によると、回答者の3分の2が政府計画に不満を持ち、選挙公約だった所得減税の2018年までの実現については、85%が「実現しない」と感じている。国民党のセバスティアン・クルツ議員(27歳)の外務・欧州統合相起用については、適任性を疑問視する人も多い。
科学技術省の経済省への統合も、大学教授、講師、研究者、大学生のなどの強い反発を起こした。「独立した科学技術省の維持」を要求するネット陳情書は、1日で数万人の署名が集まった。12月17日にはウィーン、グラーツ、ザルツブルクなど、主要な大学が置かれた都市で多くの大学関係者がデモを行った。1990年代に科学技術相を務めた国民党のエルハルト・ブセク氏は、科学技術省が経済省に統合されることを「大間違い」と批判した。
野党側はともかく、ブセク氏のように、与党からも政府計画、閣僚人事などに関する不満が少なくない。国民党内には「税金の引き上げは絶対許さない」という選挙公約の不履行、これまで評価の高かったトゥヒテレ前科学技術相の更迭への不満がある。社民党内には教育制度改革の延期、相続税・財産税・富裕層への課税が導入されないことなど「社民党の根本的な要求が政府計画に十分反映されていない」との批判がある。74日間に及ぶ交渉の末、ようやく発足した新内閣だが、先行きは容易ではない。
(エッカート・デアシュミット、田中由美子)
(オーストリア)
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