EUが中国産太陽光パネルへのAD最終措置を採択−「価格約束」を締結した企業にAD税は適用されず−

(中国、EU)

ブリュッセル事務所

2013年12月16日

EU閣僚理事会(以下、理事会)は12月2日、欧州委員会が提案した中国産太陽光パネルおよび関連部材(太陽電池やウエハー)に対するアンチダンピング(AD)税および相殺関税(CVD)の最終措置に関する規制を採択した。一方、欧州委は中国輸出企業が提案した、最低輸入価格などを設定する「価格約束」を受け入れることを再確認。そのため、最終措置は価格約束を締結しない中国企業を対象に、最大64.9%の課税率を設定。欧州委はこれらの措置による太陽光パネルの価格安定への期待を表明したが、EU産業界の一部からは依然として不満の声が上がっている。

<課税率を設定するも、中国輸出企業の大半は適用対象外>
理事会は12月2日に、欧州委が提案した中国産の太陽光パネルに対するADおよびCVD(注1)の最終措置に関する規則を採択、同規則は12月5日付官報に公示された。さらに、欧州委も同官報において8月から適用されている価格約束(注2)を受け入れることを再確認する決定を公示した。

欧州委は、欧州の太陽電池メーカーの団体「EU ProSun」の要請を受けて、2012年7月からAD調査を、同年11月からCVD調査を実施していた(2012年9月18日記事11月26日記事参照)。EU ProSunは、中国産の太陽光関連製品が政府の補助金を受けて、製造コストよりも低い価格で不当廉売されており、EUの製造事業者が損害を受けていると主張していた。

欧州委は2013年6月にAD暫定措置を発動、中国産太陽光パネルに対して最初の2ヵ月間は11.8%、その後は47.6%の課税率を設定した(2013年6月7日記事参照)。当初の課税率が低く設定されたのは、域内の太陽光パネルの安定的な供給を必要とするユーザーに配慮したためだ。その後、欧州委は2013年7月末に中国側が提案した最低輸入価格などを設定する価格約束を受け入れ、価格約束を締結した中国企業には課税しないことを決定した。CVDに関しても調査は継続するものの、暫定措置は発動しないと8月に発表していた(2013年8月16日記事参照)

欧州委はADおよびCVD調査の結果、中国産太陽光パネルがEUにおいて通常の市場価格よりも大幅に低い価格で販売されており、中国の太陽光関連産業が不当な助成金を利用して、EUの当該産業に損害を与えたと認定した。欧州委はこの最終結果について、EU加盟国の意見を聴取し、その結果を受けて作成された最終措置が今回、理事会で承認された。

理事会が採択した最終措置により、中国産太陽光パネルへの課税が決定された。ただし、欧州委が公示した決定(2013/707/EU、上記12月5日付官報に掲載)では、8月から適用されている価格約束を受け入れることをあらためて確認し、その適用範囲をCVDにまで拡大するとともに、価格約束を締結した中国企業の太陽光パネルに対してADとCVDの最終措置を適用しないことを決定した。価格約束を締結した中国企業は同決定(2013/707/EU)の付属書に記載されており、欧州委によると、EUへの輸出を行う中国の太陽光関連企業の約75%がカバーされている。一方、価格約束を締結しない企業に対しては、課税率が微修正され、12月6日から今後2年間にわたって次のADとCVD措置が適用される。

ADとCVD調査に協力した中国企業には、製品価格に対して平均47.7%の課税率が設定された。欧州委によると、課税対象となる中国企業の大多数がこの分類に含まれる。

調査に協力しなかった中国企業には、製品価格に対して64.9%の課税率が設定された。内訳はAD税が53.4%、CVDが11.5%だ。

<一部の業界団体が反発し、EU司法裁判所に提訴>
欧州委は、最終措置による中国産太陽光パネルへの課税と価格約束の組み合わせにより、太陽光パネルの価格下落に歯止めがかかり、域内の太陽光関連企業は将来に向けて投資判断がしやすくなると発表した。また、太陽光パネルの不公平な通商は環境にも悪影響を及ぼすとし、最終措置により太陽光パネル分野において公平な競争条件が創出されることに期待を表明した。

一方、ADとCVD調査を要請したEU ProSunのミラン・ニツシェッケ代表は、課税により不公平な競争条件がある程度は改善し、EU企業による高付加価値製品の市場投入に向けて期待が持てるようになった、と評価した。しかし、価格約束が定める1ワット当たり0.56ユーロという最低価格は低過ぎ、「不当な契約」だとしてEU司法裁判所(CJEU)に価格約束の無効を求めて提訴した。

なお、このほかの太陽光関連分野においては、EUの太陽光発電用ガラス(ソーラーガラス)のメーカーが設立した団体「EU ProSun Glass」の要請に基づき、2013年2月28日から中国産ソーラーガラスに関するAD調査が行われていた(2013年3月11日記事参照)。2013年11月26日に欧州委はAD暫定措置を定めた決定を採択、中国産ソーラーガラスに対して最大42.1%の課税率を設定している。最終措置は2014年5月末までに発表される見込みだ。

(注1)補助金の交付を受けた産品の輸出が当該産品輸入国の国内産業に被害を与えている場合に、輸入国政府がその補助金を相殺する目的で課す関税。
(注2)価格約束とは、輸出者が提案する対象製品の輸出価格(EUにとっては輸入価格)値上げや輸出数量(EUにとっては輸入数量)抑制について合意し、AD調査を終了させる措置のこと。

(村岡有)

(EU・中国)

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