欧州委、職業資格の相互承認の改正案を採択−労働者の域内移動を促す狙い−

(EU)

ブリュッセル事務所

2013年12月11日

EU閣僚理事会は11月15日、職業資格の相互承認指令の改正案を採択した。有能な労働者の域内移動を促すため、より効率的な仕組みの構築を目指す。具体的には、プロフェッショナルカードの導入、自動承認資格(医師、看護師、歯科医師、薬剤師など)の職業訓練条件の見直し、自動承認資格の拡大のための枠組み整備などを挙げている。今後、改正案は官報に掲載され、20日後に発効する。加盟国は発効後2年以内に国内法制化しなければならない。

<プロフェッショナルカード導入し手続きを迅速化>
EUにおいては、個々の職業の資格、学歴・職業訓練歴、経験年数は加盟国別に定められていた。しかし、2005年に労働者の域内移動を促進するため、「職業資格の相互承認指令」が制定され、母国で取得した資格が他の加盟国における資格と同等であることを承認し、資格取得者が他の加盟国において当該職業に従事することを可能とした。

今回の改正案は、手続きの電子化やより効率的な仕組みを構築して、域内移動を促進する目的で提案された。

改正案の主な提案は下記のとおり。

(1)プロフェッショナルカードの導入
相互承認に係る当局間での手続きの迅速化、負担軽減のため、プロフェッショナルカードの導入が提案された。同カードにより、資格を取得した加盟国の当局に対して承認手続き開始を申請し、当該申請を受けた当局があらかじめ登録された資格者情報を確認した上で、域内市場情報システム(IMI)を通じて受け入れ国の当局に必要な書類一式を電子的に提供することが可能となる。これまでは、資格保持者が受け入れ国の当局に対して、直接相互承認の申請を行っていたため、申請手続きは煩雑で、当局および申請者の負担となっていた。

なお、プロフェッショナルカードは、行政当局間の電子情報システムを活用した相互承認手続きの迅速化の仕組みであり、カードなどの物的形態のものではない。カード型にしなかったのは、偽造リスクやカード更新の負担などを考慮したためだ。

(2)自動的承認資格の職業訓練条件の見直し
自動承認となっている資格については、職務内容の高度化に対応し、職業訓練の条件見直しが必要とされていた。例えば、医師については、医学教育課程の就学時間を最低5,500時間とし、就学年数は最低5年間とした。また、看護師や助産師については、高度な医療ニーズに応えるため、一般教育就学年数を10年間から12年間に延長、歯科医師については就学時間を最低5,000時間とし、資格職種の高度化への対応が提案されている。

(3)自動承認資格の拡大のための枠組みの整備
現行指令において自動承認の対象となっていない職業のうち、職業訓練の期間やその内容などに係る基準について、全加盟国の3分の1以上の合意が得られた段階で(現行指令では全加盟国の3分の2以上)、当該職業についての自動承認の仕組みを導入することが提案された(自動承認が適用されるのは、合意に加わった加盟国間のみ)。

(4)患者や子どもの安全に携わる職業に関する警告情報の共有化
資格を停止または取り消された人が、他の加盟国に移動し引き続き当該資格業務に就くことを防止するため、加盟国当局が資格停止や取り消しに関する情報をIMIに通知し、加盟国間で共有することが提案された。

欧州委は、単一市場法案Iで明示した12の分野(2011年4月14日記事参照)のうち「単一市場内の労働者の移動」に向けた取り組みとして、2011年12月に改正案を発表した。2013年10月に欧州議会が同案を承認、11月には理事会が承認した。今後、改正案はEU官報に掲載され、官報掲載から20日後に発効の見込みだ。

(小林華鶴)

(EU)

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