パテントトロールに万全の対応を−ロサンゼルスで米国知的財産実務セミナー−

(米国)

ロサンゼルス事務所

2013年12月12日

ジェトロ・ロサンゼルス事務所と南カリフォルニア日系企業協会(JBA)は11月22日、ロサンゼルスで米国知的財産実務セミナーを開催した。セミナーではロープス&グレー外国法事務弁護士事務所の萩原弘之弁護士が「パテントトロール」対策や、FRAND特許ライセンスに関して講演を行った。内容を報告する。

<パテントトロール関連の訴訟は増加、損害賠償も高額化の傾向>
パテントトロールは、特許不実施主体(NPE)とも呼ばれ、特許侵害を行っているとの主張の下、企業に対し高額の損害賠償またはライセンス料を請求することを目的として、他者から特許を取得し権利行使する主体のことだ。そのため、パテントトロールは、特許を保有するものの、使用しないケースが多い。

彼らのパターンはおおむね3つに分けることができる。第1は、少額かつ早期の和解を求めて、価値の低い特許の権利侵害を主張するパターン。第2は、相当程度まで訴訟を続けて自己に有利な状況をつくった後に和解に持ち込もうとするパターン。第3は、多くの特許を持ち、同一の会社を複数回にわたって訴え、高額の損害賠償金を得ようとするパターン。

NPEの多くは、a.特許の取得、b.特許侵害を理由とした訴訟提起、c.和解、d.和解で得た損害賠償金を元手に特許の取得、e.新たに取得した特許の侵害を理由に訴訟提起、というサイクルを短い間で繰り返し、収益を上げる手口を取る。

米国におけるパテントトロールによる訴訟件数は、10年前は200件程度だったが、ここ数年で急増している。電気製品、ソフトウエア、コンピュータハードウエアなど幅広い分野が訴訟の対象とされている。また、小売業者が訴えられるケースもあるという。例えば、店舗で取り扱っている商品自体が特許権を侵害しているとして訴えられたケースもある。また、インターネット販売などの電子商取引が特許を侵害しているとして訴訟になるケースも多い。

大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の調査によると、2007年から2012年の間にパテントトロールが勝ち取った損害賠償額の中間値は、約500万ドルになるといわれている。陪審員裁判の方が裁判官裁判よりも多くの損害賠償金を得やすい傾向にあるといわれており、パテントトロールによる陪審員裁判は今後さらに増えていくと予想される。パテントトロールが勝訴する割合は4回に1回程度だが、勝訴したときの損害賠償額は大きい。

パテントトロールによる訴訟が提起される裁判所は集中しており、一番有名なのは東部テキサス地裁で、全体の12%を占める。日系の製造業を含む多くの大企業が毎年何十件、何百件と訴訟に巻き込まれており、その対応に高額の費用負担を余儀なくされている。

<安易な和解は被告側にマイナスとなるケースも>
被告側は早期に和解に持ち込みたいとする傾向がある。訴訟を続けると高額の弁護士費用が必要となるが、和解すればそれよりもはるかに安い損害賠償金で訴訟を終わらせることができるからだ。しかし、請求理由があまりにも不合理なもの、請求額があまりにも高額に上る場合は、勝訴を目指して訴訟を続けなければならない場合もある。安易に早期の和解を繰り返していると、かえって標的とされてしまう恐れがある。訴えの内容によっては争う姿勢をみせることも必要だ。

仮に、和解に持ち込む場合でも、できるだけ有利な条件となるよう、かつ、相手が和解に応じやすくなるような条件を提供することが必要になってくる。そのため、訴訟が提起されてから早い段階で原告の主張を分析し、主張にそれなりの理由があるのかどうか、訴訟によって被る損害はどの程度のものなのかなど、調査を行うことが重要だ。

<必須特許の使用料は当事者間の交渉で決める>
標準規格に準拠した製品を製造するに当たって、その規格の根幹となり、代替技術によって利用を回避できない基本的な技術特許のことを、標準必須特許(SEP)という。製品規格の標準化を行う標準化団体(SSO)は、SEPの使用者が「公正で合理的で非差別的な条件(FRAND条件)」で特許を利用できるよう、また特許権者による特許権の乱用を防止するための規制を定めている。

しかし、実際のロイヤルティーなどの特許使用条件は当事者間で決められ、SSOは干渉しない。使用条件をめぐって当事者間で争いが起きた場合にも、SSOではなく裁判所が関与することになる。

これまでにあった裁判例によれば、必須特許のロイヤルティーについては当事者間で交渉し折り合うことを条件とし、必須特許を使わなければならない利用者の弱みにつけ込んだ特許権者の請求は認めていない。また、通常1つの製品でも多数の必須特許が含まれていることから、必須特許1つずつに高額のロイヤルティーを認めてしまうと製造コストがかさんでしまい、メーカーは規格統一された製品を作ることが困難になってしまう。そこで、あらかじめ特許利用者に一定の利益が残る範囲内でロイヤルティーの総額を決めておき、具体的な内訳は必須特許の重要度に応じて決めるという手法が取られている。なお、FRAND条件違反を理由に特許の差し止めができるかどうかについては、特許権者としては契約に従いライセンス料を受け取ることができる以上、差し止めを認める必要性がないとしている。

(桑田弦)

(米国)

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