外貨建て住宅ローン救済の暫定法案を可決−個人消費回復には債務問題の抜本策が必要−
ブダペスト事務所
2013年12月05日
外貨建て住宅ローンの暫定救済法案が11月5日、提出からわずか1日でスピード可決された。内容は現在行われている救済案の拡大・延長やプログラムへの参加条件の緩和であり、抜本的な解決策は盛り込まれていない。政府は銀行から何度か提出された救済案に満足できなかったため、抜本的な救済措置を取りまとめるまでの一時的な措置として今回の法案を提出した。個人消費を鈍らせている一因の外貨ローン問題を一刻も早く解決したい考えだ。
<埋まらない政府と銀行協会との溝>
今回の外貨建て住宅ローン利用者救済法では、現在でも厳しく制限されている強制退去・競売執行を2014年4月末まで完全に凍結することと、優遇固定為替レート(1スイス・フラン=180フォリント、1ユーロ=250フォリント、1円=2.5フォリント)での返済プログラムに参加するための条件として設けられている、(1)90日以上の返済延滞を起こしていない、(2)借入額が2,000万フォリント(約920万円、1フォリント=約0.46円)を超えない、という2つの条件が撤廃された。
2011年に初めて外貨建て住宅ローン利用者救済法案が可決されて以来(2011年6月29日記事参照)、救済案の追加や条件の緩和が行われ、恩恵を受ける人の範囲は広がり続けている(表1参照)。
その結果、2011年3月時点での住宅関連ローン残高6兆2,310億フォリントは、2013年6月の時点で5兆3,760億フォリントと13.7%減少した(表2参照)。外貨建てローンがローン残高に占める割合も74.8%から65.1%へ低下し、フォリント建てへの借り換えも進んでいる。
しかし、政府はこの結果にいまだ満足しておらず、抜本的な解決策を追求。銀行協会と協議を続け、2014年の予算案が提出される前に銀行協会に最終的な救済案を取りまとめることを求めた。銀行協会は政府の求めに応じ、今後数年で数千億フォリントの損失を銀行側が背負う救済案を取りまとめ、提出した。しかし、銀行協会が持つ外貨建て住宅ローンの解決には10〜15年の歳月が必要だという銀行側の考えと、政府が求める3〜5年での解決との考えの溝は埋まらず、11月1日までに再提出するよう最後通告が政府から銀行協会に通達された。その後、銀行協会は再度の救済案を取りまとめて提出したが、その案にも政府は首を縦に振らず、今回の暫定法案の提出となった。
<国内消費の回復を成長の原動力へ>
外貨建て住宅ローンのほとんどを占めるスイス・フランの為替レートの推移をみると2008年7月に143フォリントだったスイス・フランはリーマン・ショック以降、大幅に値を上げた。2010年にフィデス政権へ政権交代が行われて以降、非伝統的で予見性の低い政策が嫌われたことによりフォリント安に歯止めがかからず、2012年1月に254フォリントの最安値を付け、その後は240フォリント近辺で推移している(図参照)。
スイス・フラン建ての外貨ローンは2008年と比べ約1.6倍の負担増となり、ローンの返済は家計に重くのしかかっている。11月5日に欧州委員会が発表したハンガリーの2013年秋の経済予測では、国内需要に対する肯定的な変化について言及されており、国内需要の回復が主な成長の原動力となると予測されている。このことは、均一所得税の導入や、光熱費の強制引き下げによる可処分所得の増加が個人消費の増加を導いた結果だ。政府は外貨ローン問題を早急に解決することにより国内消費回復を加速させ、さらなる成長の原動力としたい考えを持っている。
(バラジ・ラウラ、三代憲)
(ハンガリー)
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