ムセ国境貿易区は対中国貿易最大の拠点−ミャンマー・中国国境貿易の現状(2)−

(ミャンマー)

海外投資課・ヤンゴン事務所

2013年12月04日

シリーズ2回目は、中国との最大の貿易地点であるムセ国境貿易区と、ムセ・瑞麗国境ゲートの状況を紹介する。

<事務所でワンストップサービス提供>
ミャンマー・中国(雲南省)国境にある12の公式ゲートのうち、ムセ・瑞麗国境ゲートを通じた貿易が両国間の国境貿易額の半分以上を占めている状況を前回紹介した。こうした状況から、実際にモノの輸出入やヒトの出入国などに必要な施設・インフラが際立って整備されているのも、この国境ゲートのある地域だ。

ミャンマー北部の物流ハブであるマンダレーから国道3号線を走り、シャン州ラーショを経由して山岳道路にやってきたトラックは、ムセ郊外にある通称「105マイル」と呼ばれるチェックポイントで検問、通関手続きを受ける必要がある。ここから先が2006年にミャンマー政府により指定されたムセ国境貿易区で、範囲は約300平方キロに及ぶ。ムセ国境貿易区内には輸出入の手続き効率化を図るために、国境貿易局、税関、歳入局、警察、入国管理局、ミャンマー経済銀行(MEB)の6つの行政機関が一元化された「国境貿易事務所」が設置されており、ここではワンストップサービスが提供されている(2009年3月12日記事参照)。なお、前回触れたとおり、中国人、ミャンマー人以外の第三国人の同貿易区への入域は、事前の許可取得が必要となる。

ミャンマー国内から運ばれた物資はこの105マイルチェックポイントを通関後、ムセ国境貿易区内においても輸出品として扱われる。逆に中国からの物資は、同区内では輸入品とは見なされず、チェックポイントで輸入品扱いになる。実際にチェックポイントには輸出、輸入品目の検査用建屋(12レーン)、税関メーンビルの施設などが立ち並んでおり、数多くのトラックが停車していた。

「105マイル」のチェックポイント、チェックポイントにある検査用建屋

<中国側はムセ・瑞麗ゲートを国家1級に>
ムセ国境貿易区に入ったトラックは保税されたままムセ市内へと進み、市街中心部にある国境(Man Winゲート、後述)でドライバーの出入国検査を受け、中国側瑞麗市内の「姐告(ジェーガウン)国境貿易区」に入る。広さ約3平方キロほどの貿易区内では、中国関税の検査は受けない。同地域の中国とミャンマーの国境は瑞麗江と呼ばれる川が自然国境となっているが、姐告地区は中国・瑞麗市の一部でありながら川向こうのミャンマー側の飛び地のようになっている。そのためムセから姐告を通り瑞麗市街に向かう全てのトラックは瑞麗江を渡る必要があり(密輸防止の効果も持つ)、姐告瑞麗大橋の手前にある検問所で税関・検疫などを行う。

2000年に中国政府が、「境内関外」という保税機能を持つモデル地区をこの姐告国境貿易区に設置して以降、急速にミャンマーとの貿易が拡大した。ミャンマー側は姐告側の急速な発展に呼応するかたちで、2006年に「ムセ自由貿易区」を設定したものと考えられる。中国は瑞麗〜ムセの国境ゲートを最も重要性の高い「国家1級」クラスのゲートと位置付けている(表参照)。

ミャンマー・中国間の主要な国境ゲートの整備状況

瑞麗・ムセ国境ゲートと一般に呼ばれている国境には、用途に応じた3つのゲートがムセ市街に設置されている。a.貨物トラック用「Man Winゲート」、b.一般旅行客用(歩行か二輪車)「パレスゲート」、c.一般旅行客用(乗用車)「エレファントゲート」だ。特にa.のMan Winゲートは、スイカを積んでミャンマーから中国に向かうトラックで渋滞が起きていた。

ムセ市街中心部と各ゲートの様子

<ムセ市の電力供給は安定>
ムセから中国(姐告)への入国に関し、地元のミャンマー人の場合はパレスゲートの出国用イミグレーションオフィスで、1,000チャット(約100円、1チャット=約0.1円)で6泊7日滞在可能なシングルビザを取得できる。これは姐告から先の瑞麗市以降の旅行にも有効だ。逆に中国側から入る場合は、5元(約85円、1元=約17円)でシングルビザを取得できる。2012年12月現在、日本人を含め第三国人は原則として当地旅行会社などを通じて団体用の通行許可証を取得しない限り、ムセから中国側への入国・通過はできない。逆も同様(ただし、状況や実際の対応は流動的)。

外国人がムセに滞在する場合は、ムセのパレスゲートにあるミャンマー入国用イミグレーションオフィスで再度、通行許可証とパスポート・ビザコピーを提出し、ムセでの滞在先(ホテル名)および同行ミャンマー人の連絡先を伝える必要がある。外国人の宿泊ライセンスを持つホテルも市内に数軒ある。ムセ市内では中国元も通用するが、商店やレストランでは主としてミャンマー通貨のチャットが使用されている。ミャンマーの地方電化率は数パーセントともいわれているが、ムセでは1年を通じて安定的に電力が供給されており、中国が開発したシュエリー水力発電所の運転開始以降は、24時間電気が通じているという。

(高橋史、水谷俊博)

(ミャンマー)

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