外国人立ち入り制限の大動脈ラーショ〜ムセ間を実走−ミャンマー・中国国境貿易の現状(1)−
海外投資課・ヤンゴン事務所
2013年12月03日
中国との最大の国境貿易ゲートがあるシャン州北部国境の町ムセ。この国境を介した貿易は、ミャンマーの貿易総額の15%に上る。ムセとミャンマー第2の都市マンダレーを結ぶ国道3号線(AH14号線、460キロ)は、ミャンマーにとってまさに「大動脈」といえる。他方、同ルート上のラーショ〜ムセ間183キロは、外国人には依然として厳しい立ち入り制限が課されているが(2013年11月現在)、今回、特別に同地域への入域が認められた。同国道および国境貿易の現状を3回に分けて報告する。
<ムセに最大の国境貿易ゲート>
ミャンマーにとって中国は最大の貿易相手国だ。貿易総額は2012年度(2012年4月〜2013年3月)で4,957億ドル(全体の27.6%、輸出2,238億ドル、輸入2,719億ドル)。2,200キロにわたる長い国境を有している両国間では、急峻(きゅうしゅん)な山岳地域にもかかわらず国境貿易が盛んに行われている。2011年の中国側の統計によると、金額ベースで中国からミャンマーへの輸出の約5割、輸入の約4割が国境を接する雲南省を介して行われている(注1)。また、雲南省の統計(2006年)では、同省の貿易総額の約3割、貨物輸送量で約5割の貿易がミャンマーとの国境ゲート(陸路)を通じて行われており、両国間の国境貿易・ゲートの重要性はこうした数字からも明らかだ。国境には中国側が公式に指定しているだけでも12ヵ所の国境ゲートがあり、その中でもミャンマー北東部のシャン州にある「ムセ・瑞麗」国境が最大だ。2006年の中国側の統計によると、両国間の国境貿易額の52%がこのゲートを通じて行われている(注1)。中国からは安価な日用品、二輪車などがミャンマー国内市場へ流入し、またミャンマーからはスイカや穀類などの農産品を中国側に運ぶトラックが絶えない。
<ミャンマーと中国を結ぶ大動脈>
国境の町ムセから、ミャンマー北部最大の商都マンダレーまでは約460キロ。それを結ぶ国道3号線はミャンマー側の大動脈だ。同ルートは第二次世界大戦中の1938年に「援蒋ルート」として、連合軍により蒋介石率いる中国国民党の支援を目的として整備された。
しかし、1948年のミャンマー独立以降は、中国との国境地域のほとんどをミャンマー国軍と対立する武装少数民族が支配した。中国も文化大革命時代に諸外国との貿易を厳しく制限し、同時にミャンマーも1960年代からビルマ式社会主義の下で徹底中立路線・鎖国主義政策を進めたため、両国間の貿易は長らく停滞し、同ルートも活用される機会に恵まれなかった。
その後、1988年のミャンマー民主化運動に対する国軍のクーデターにより、日本や欧米諸国からの資金援助が凍結。外貨不足に陥った当時の軍政は資源の切り売りや、中国をはじめとした諸外国との貿易と外国投資を認めるといった対外開放政策に転換した(注2)。1988年10月には中国との「国境貿易協定」が締結され、国境貿易の全面開放を受けて両国の貿易額は大幅に増加した。特に武装少数民族グループの支配から免れ、ミャンマー政府が直接管理できたムセ〜マンダレー間の国道3号線は、1998年にBOT(建設・運営・移転)方式による拡幅舗装がなされ、両国の国境貿易ゲートの中では圧倒的なプレゼンスを得るに至った。
<ラーショ〜ムセ間の整備状況は他の国道と同様>
マンダレー〜ムセ間約460キロのうち、シャン州北部の中心地ラーショからムセまでの183キロの山道は、旅行者に限らず外国人には完全に閉ざされている(ミャンマー国民は許可取得の必要はない)。旅行代理店が企画したツアーであれば入域は可能だが、政府の許可取得に1〜2ヵ月かかる。このように依然として入域は厳しく制限され、情報も限られている現地の最新の状況を簡単に紹介しておきたい。シャン州北部最大の都市ラーショは、中国語の看板や大型トラックの姿が目立ち、とても活気がある。ヤンゴンやマンダレーからの直行便も就航している(ヤンゴンからは1時間半ほど)。
国道3号線は1998年から、アジア・ワールド(AW)とダイヤモンド・パレスがBOT方式で建設・運営している(2006年からはAWのみで運営)。ラーショからムセ市街に向かうと、約9キロ手前にある通称「105マイル」のチェックポイントまでの約140キロ間にAWの料金所が5ヵ所ほどあったが、区間ごとの通行料金を徴収されるのみで、パスポートや通行許可証などのチェックは全く行われなかった(2012年12月時点)。おそらく、状況は流動的と思われる。ラーショ〜ムセ間の舗装状況はミャンマーの一般的な国道とそれほど変わらず、道幅に関しては4車線ほど確保されている区間も多い。しかし、所々つづら折りの山道があり、ガードレールや路肩の整備が不十分なためか、滑落寸前で止まっているトラックも目にした(過積載が原因の可能性もある)。
走行しているのは大型トラックがほとんどで、ミャンマー側からは季節柄か中国向けにスイカを満載したトラックが目立った。中国側からは日用品とみられる貨物を積んだトラックが来ていた。また、ムセ〜ヤンゴンの直行バスも数台見掛けた。ムセで確認したところ、ミャンマー人のみ乗車可能で所要約18時間とのことだった。
なお、ムセ〜マンダレー間については、2009年にジェトロで実走調査を行っている(表および2009年3月13日記事参照)。前回調査の際は、ムセからラーショまでつづら折りの山道を下る条件で約4時間、平均速度は時速50キロだったが、今回は同区間を逆にラーショから上ってみたところ、所要時間はほぼ変わらなかった。2回とも天候・道路状況の安定している乾季に走行したが、現地ドライバーによると、同区間は現在ほとんどの区間が舗装されているため、雨季(5月中旬〜10月)においても所要時間はそれほど変わらないとのことだった。
(注1)工藤年博「中国の対ミャンマー政策:課題と展望」(2012年「中国・インドの台頭と東アジアの変容」第5回研究会)
(注2)工藤年博編「ミャンマー政治の実像−軍政23年の功罪と新政権のゆくえ」(アジア経済研究所2012年)
(高橋史、水谷俊博)
(ミャンマー)
ビジネス短信 529bf3fd8f110