シンガポール・台湾FTAに署名−台湾にとり中国を除くアジア諸国とは初−

(シンガポール、台湾)

シンガポール事務所

2013年11月27日

シンガポールと台湾は11月7日、自由貿易協定(FTA)に署名した。シンガポールにとっては21件目のFTAとなるが、2013年9月の湾岸協力会議(GCC)とのFTA発効、EUとのFTA協定書公開(発効は2014年末から2015年初めの見込み)と、ここにきてFTAを相次いで締結している。台湾にとっては、中国、グアテマラ、ニカラグア、パナマ、エルサルバドル・ホンジュラスとのFTAに次ぐ6件目のFTAで、中国を除くアジア諸国とは初のFTA締結となる。

<台湾は40品目を除き関税を撤廃・削減>
シンガポール・台湾FTAは2011年5月に第1回交渉が行われ、2年後の2013年5月に実質的に合意に達していた。物品貿易、税関手続き、サービス貿易、投資、政府調達、知的財産権、紛争解決、電子商取引など17章から成る包括的FTAで、台湾側の発表によると、同FTAにより、15年間で計7億ドルのGDP押し上げ効果、6,154人分の雇用創出効果があるとしている。ただし、同FTAが発効するには批准手続きが必要で、発効までにはしばらくかかる見込みだ。

物品貿易では、台湾はシンガポールに対して、99.5%の品目で関税を撤廃・削減する。台湾の関税撤廃・削減スケジュールは、(1)協定発効と同時に関税を即時撤廃する品目、(2)協定発効後5段階で関税を撤廃する品目、(3)協定発効後5段階で関税を削減する品目、(4)協定発効後10段階で関税を撤廃する品目、(5)協定発効後15段階で関税を撤廃する品目、(6)対象外品目、に分けられる(同FTA協定書Article3.4、Annex3B)。

台湾側の発表によると、協定発効と同時に関税を即時撤廃する品目は全体の83%を占め、残りの品目は5年、10年、15年間で段階的に撤廃もしくは削減を行う品目に分類されている。段階的撤廃・削減品目は、食料品類、プラスチック類、繊維製品、縫製品、自動車・自動車部品、エアコン、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、電子レンジなどの家電製品などに多い。

対象外品目は40品目で、乳製品、ニンニク、マンゴー、コメ製品、ナッツ類など農産物が主として対象となっている(注1)。

なお、WTOの「World Tariff Profile」によると、台湾の平均関税率は6.1%で、このうち、農産品は16.4%、非農産品は4.5%となっている。非農産品の中では、衣類(11.7%)、輸送機器(7.5%)、皮革・履物類(5.2%)、電気機器(4.0%)などで比較的高い関税が課されている。

台湾の対シンガポール貿易をみると、両国・地域ともにIT産業が集積していることを反映し、台湾の輸入額の72%(2012年)はIT製品、中でも半導体など電子部品類(50.3%)によって占められている(表参照)。このほか、化学品(10.5%)、石油製品(5.7%)、食料品(1.0%)、輸送機器(0.8%)などが続いている。半導体などのIT製品については、WTOの情報技術協定(ITA)のもと、既に大半の国で多くの品目が無税化されているため、シンガポール・台湾FTAによって新たに関税撤廃・削減効果が生まれる製品は化学品や食料品、輸送機器、一部の家電製品などが中心となると考えられる。

台湾の対シンガポール輸入額

シンガポール側は協定発効と同時に全ての関税を撤廃する。ただし、シンガポールで関税が課されている品目はビールと薬用酒の6品目に限られている。

また同FTAでは、GATT第19条の定めるセーフガードに加え、2国間セーフガードの規定も盛り込まれている(Chapter3、Article3.14)。具体的には、同FTAによって輸入が急増し、国内産業に重大な損害を及ぼす恐れがある場合には、同FTAで定める関税削減の停止、最恵国待遇(MFN)税率を上限とした関税の引き上げを行うことを可能としている。ただし、2国間セーフガードの適用は最大5年間に限定される。

<原産地規則は品目別に詳細に規定>
原産地規則については、品目ごとに規則が詳細に定められているのが特徴だが、完全生産品(果物や原油など全てが締約国内で生産された物品に適用される基準)を除く非完全生産品については、その多くの品目で選択型(Co−equal)が採用されている(Article4.2〜4.4、Annex4B)。

原産地規則には、(1)付加価値基準〔物品に対する付加価値を締約国内で一定水準(いき値)以上付加した物品に原産資格を付与〕、(2)関税番号変更基準(最終財の関税番号が、同財の生産に投入された非原産品の関税番号と異なる場合に、原産資格を付与する基準)、(3)加工工程基準(特定の生産・加工工程が行われた製品に対して、原産資格を付与する基準)があるが、選択型とは、指定された複数の基準から、FTA利用者が最も利用しやすい基準を選択できる制度だ。

関税番号変更基準については、HSコード2桁(Chapter)ベース、4桁(heading)ベース、6桁(sub−heading)ベースの3種類があり、シンガポール・台湾FTAでは品目によって3種類が使い分けられている。また、付加価値基準については、品目によって35%、40%、45%が使い分けられている。

品目別にみると、食料品類では選択型は一部の品目に限定され、関税番号変更基準(大半の品目で2桁ベース)、付加価値基準が採用されており、比較的厳しい基準が適用されているといえる。工業製品では、関税番号変更基準(4桁)もしくは付加価値基準(40%)の選択型が採用されている品目が多い。繊維製品、縫製品については、加工工程基準もしくは付加価値基準(40%)の選択型が広く採用されている。

また、累積規定(一方のFTA締約国の原産品である原材料を、他方のFTA締約国で利用する場合、同原材料を原産材料と見なす規定、Article4.5)、デミニマス(関税番号変更基準の適用において、一定割合までは、同一の関税番号の非原産材料が入っていることを認めるルール、Article4.6)も盛り込まれている。

原産地証明手続きについては、自己証明制度(輸出者・生産者が自らの責任で原産性を証明する制度)が採用された(Article4.15)。輸出者もしくは生産者は、定められた様式(Annex4、Template for Declaration of Origin)に必要事項を記入、署名することが求められる。同様式には輸出者名、荷受人、生産者名、商品仕様、HSコード、数量、インボイスの日付を記入することが求められるが、取引価格を記入する項目はみられない。同証明書の有効期間は12ヵ月(Article4.15)、書類の保存義務は3年(Article4.17)に設定されている。

<政府調達分野で新たな自由化措置>
物品貿易以外の分野では、政府調達分野で自由化措置が盛り込まれている。シンガポールと台湾はともにWTOの政府調達協定(GPA、注2)の加盟国だが、両国・地域ともに相互にGPAを超える約束を行っている。

両国・地域ともにGPAで約束している中央政府機関の基準額(同基準額以上の調達で内国民待遇を適用)について、相互に引き下げる。具体的には、GPAで13万SDR(IMFの特別引き出し権)としている中央政府機関の物品、サービス(建設サービスを除く)の調達の基準額を、シンガポール・台湾FTAでは10万SDRに引き下げることを約束した。一方、中央政府機関の建設サービスについては両国・地域ともに500万SDRと、GPAと同一の約束内容となっている。シンガポールの政府関係機関の基準額も、物品・サービス(建設サービスを除く)が40万SDR、建設サービスが500万SDRと、GPAと同一となっている。台湾も、物品・サービス(地方政府機関20万SDR、政府関係機関40万SDR)、建設サービス(地方政府機関、政府関係機関ともに500万SDR)ともに、GPAと同一の基準額を約束している。

また台湾は、新北市、台中市、台南市、桃園県(ただし、地方自治体に格上げ後に適用)の4つの機関を新たに政府調達協定の対象とすることを約束した。シンガポール政府の発表では、政府調達協定の対象拡大により、シンガポール企業の水、都市開発、インフラ開発、クラウドコンピューティングなどで新たなビジネス機会の創出につながる可能性があると強調している。

<サービス・投資分野で一定の約束>
サービス貿易では、ネガティブリスト方式が採用され、同リストに掲載された留保分野以外に対して内国民待遇(Article8.3)、市場アクセス(Article8.4)などが適用される。シンガポール側の発表によると、台湾は、通信、漁業関連サービス、エネルギー、海洋・道路輸送、エンターテインメント、スポーツ・娯楽サービスでWTOのサービスの貿易に関する一般協定(GATS)を上回る約束を行ったとしている。一方、台湾側の発表では、シンガポールは景観設計サービス、研究・開発サービスなどでGATSを上回る約束を行っている。

投資分野でも、同様にネガティブリスト方式が採用され、同リストに掲載された留保分野以外に対して内国民待遇(Article9.5)、パフォーマンス要求の禁止(Article9.9)などが適用される。投資保護関連規定では、収用・補償(投資受入国が投資家の投資財産を収用する場合の条件などを規定、Article9.12)、投資財産に対する公正衡平待遇・十分な保護保障(ただし、慣習国際法による最低基準を明記、Article9.7)、資金の移転(投資財産に関連する支払いなどが遅滞なく自由に行われることを約束、Article9.13)、投資家対国家の紛争解決規定〔投資家と投資受入国間で紛争が発生した場合、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)などの仲裁に付託できることを約束、Article9.16〕などが盛り込まれた。

このほか、税関手続き(Chapter5)、衛生植物検疫措置(Chapter6)、貿易の技術的障害(Chapter7)、競争(Chapter10)、電子商取引(Chapter11)、知的財産権(Chapter 13)などの章が設けられている。

台湾・シンガポールFTAの協定書はウェブサイトから参照できる。

(注1)乳製品(HS04011010、HS04012010、HS04012020、HS04029910、HS04029920、HS04029992、HS04039059、HS04039090)、ビロード(HS05079020)、ニンニク(HS07032010、HS07032090)、パイナップル(HS08043000)、マンゴー(HS08045020)、ロンガン(HS08134010)、乾燥シイタケ(HS07123920、HS07129040)、カヤ草(HS07129050)、小豆(HS07133200、HS20049010、HS20055110、HS20060025)、ココナツ(HS08011200、HS08011900)、コメ(HS10061000、HS10062000、HS10063000、HS10064000)、コメ製品(HS11029011、HS11029019、HS11031930、HS11041910、HS11081910、HS11042920、HS19022010)、ナッツ類(HS12023020、HS12024200、HS20081112、HS20081192、HS20081942)、糖類(HS17019990)など。
(注2)GPAとは、WTOの複数国間協定の1つで、42ヵ国・地域が加盟している。一定額以上の政府調達の物品・サービスにおいて、内国民待遇の適用対象とすることなどを定めている。

(椎野幸平)

(シンガポール・台湾)

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